大阪駅ステーションシティに開業したJR大阪三越伊勢丹の予想外の苦戦が波紋を広げている。
開業一ヶ月の売上が45億円と、初年度予算550億円の8掛けペースに終わり(業界では初月売上の十倍が初年度売上の目安とされる)、大阪の消費者との擦れ違いや実力の過信などが喧伝されているのようだ。
JR大阪三越伊勢丹は超一等地にあってハード的にはよく出来た美しい店だが、紳士服を上層階(8/9F)に置いたり、アクセサリー/ハンドバッグ/婦人靴/イセタンガールをB1Fに置いたりと意表をつくフロア配置
統一環境でブランドを編集するというブランドの顔が見えにくい伊勢丹流のMDが大阪の顧客には馴染めなかったのかも知れない。
もっと明確な問題点は、百貨店過密の梅田ゆえバッティングで欲しいブランドが揃えられず、在庫を抑えてスカスカの売場になってしまった事だ。
ボリューム感を欠いた小奇麗な売場は大阪人の一番嫌うものだったのではないか。
加えて、リミックスが弱いあっさりした東京流のスタイリングは、力入れてこてこてにリミックスする大阪人の好みとは相当に乖離していた(ルクアはこてこてリミックス満載ですネ)。
さらに、『百貨店なのに・・・・』のキャッチフレーズで駅ビルブランドを取り込んだハイブリッド百貨店を標榜する大丸梅田店の大衆感覚に較べれば、高価格なキャラクターブランドに偏ったイセタンガールの構成はバラエティと手頃感を欠いてお高くとまっているようにも見える。
上手くやれば750億円も可能という超一等地で550億円の予算を100億円も割り込みそうという低迷振りは、やはりMDの失敗に起因すると見るしかない。
三越伊勢丹と言ってもMDの主導権を握っているのは明らかに伊勢丹だから、伊勢丹の実力が問われていると言うべきだろう。
昨秋、伊勢丹主導で増床開店した三越銀座店も予算の9掛け前後と勢いを欠いているし、小倉も吉祥寺も撤退した伊勢丹の実力とはいったい何だったのだろうか。
ブランドの目利きで一歩先んじていた時代もあったが、今日の店頭を見る限り編集手法もVMDも凡庸で技術的に突出しているとは思えない。
一時は「伊勢丹な人」とまで持ち上げられて鼻高々だった伊勢丹だが、そこに慢心が忍び込む隙が生じたのかも知れない。
最重要プロジェクトが相次いで苦戦する今、伊勢丹人はエリート意識を捨てて商人の原点に回帰し、マーケットと顧客、自身の実力を謙虚に正視すべきであろう。
『世界の誰からも何か学ぶ事がある』という謙虚さこそ、再起の原点となるのではないか。