バレンタインスペシャル『蘭華の恋するワンマンライブ♡』
出演:蘭華
サポート:坂本洋(ピアノ)、沈琳(二胡)、細田好弘(ギター)
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乗り込んだ電車はいつもより何割か かわいさを増量した女子たちでキラキラしていた。
4月並みの陽気に汗ばむバレンタインデー。ゆらゆら、ゆらゆらそこかしこに浮かぶハートが空気を暖めているようじゃないか



案の定、連れと待ち合わせた正午前の渋谷駅は、まさにホットスポット。カップルが作り出す小さな熱気が数知れず渦巻き、束になり温度を上げている。
その中にふと爽やかな一抹の風が。見れば中学生か高校生とみられる2人。初々しくて、微笑ましい。いや羨ましい?あの頃に飛んで戻りたい(笑)
いや、僕の心はすでに飛んでいた。
「この日はいつもの私と違い、愛の歌をたっぷり歌います

僕らファンにきっぱり宣言していた「蘭華」のワンマンへ心は急ぐ。
会場は南青山のお洒落なライブハウス、MANDALAだ。
外苑前駅で下車。
わずか3分乗っただけだが、渋谷の喧噪が噓のように静かな休日の都会へ。
ぶらぶら外苑西通りを下っていくと、MANDALAが地下に入る建物が見えてきた。
ふと建物裏手の遊歩道を見やると人の連なりが。このライブハウス、人気の出演者だとこうして開場前に裏手に行列ができる。時計は12時10分、開場まであと20分。蘭華を愛する仲間たちの期待感がひしひしと伝わってくる。
列には顔見知りがちらほら。思ったより知らない人の比率が高い。あー、僕の知らない間に新しいファンが増えたんだなあと感慨ひとしお。




快晴。蘭華は雨女じゃなかったのか?節目としてきたライブはいつも荒れてた。2014年11月29日の鎌倉建長寺法堂ライブは大雨


その前の大きなワンマンといえば2012年3月24日の銀座BRB俳句ワンマンだが、天気はどうだったかちょっと覚えてないが… そんな訳で今日もきっと荒れると思っていたのに、予報通りの好天。天はついに彼女の苦に報いたか。
今回のバレンタインデーライブは、東京では2015年7月のメジャーデビュー後初のワンマン。キャンペーン続きだったため、しっかりしたライブは本当に久し振り。インストアライブで出会った人々も、これまでずっと応援してきたが最近ちゃんとしたライブを見られず歯がゆい思いをしてきたファンも、始めてがっつりメジャーの蘭華を聞ける貴重な機会だ。
それだけに、この日を待ちわびたファンが入り口前に列を作ったのだろう。12時30分の開場時には、外の遊歩道で30人超が蘭華のステージを待ちわびていた。
地下1階の入り口で受付を済ませ、さらに石造りの階段を降りると、天井の高い広い空間が待っていた。西洋の城の地下のような装飾。フロアと小さい段差で区分されたステージ上には、客席から見て左にグランドピアノ、右に演奏者用の椅子と譜面立てが2組あった。
この日のチケットは早々にSOLD OUT。そのため着席定員120席に加え、後から10席分の追加販売を実施した。客席はやや窮屈で、更にゲストが次々やってきたためライブ開演後も、通常は飲食カウンター前の空けているスペースに次々と席が追加されていく。いまの蘭華には、キャパ100程度ではもはや狭いことは明らかだ。
それでいながらお客さんは、いつもと比べなぜか静か。MANDALAで色々なアーティストのステージを見てきたが、客層が違うのだ。年齢高めの一人客が多い。蘭華とキャンペーンで出会った、あるいはラジオを聞いて好きになったファンだろうか。ざわつかず大人しく開演を待っている。こういうライブハウスは不慣れなのかもしれない。
ワクワク感を募らせながら、その時を待った。




暗転。
ベテラン坂本洋のピアノ前奏でステージが始まった。著名な二胡プレーヤー、沈琳の奏でるオリエンタルでどこか懐かしい弦の音色が心に沁みる。
そこに華やかな赤いドレスに細身の体を包んだ蘭華が、颯爽とステージに登場だ。
彼女が一番綺麗にみえるチャイナドレスでなく、ちょっと意外感。すぐ宣言通りの「愛のうた」を満載したステージを演出する、バレンタイン仕様の衣装なのだと納得。さあどんなラブソングを聴かせてくれるのだろう?
オープニング曲に彼女が選んだのは、高橋真梨子の「桃色吐息」のカバー。意表を突かれた。オリジナルでなく、高橋真梨子の1984年のヒット曲だ。その年に蘭華、生まれてたっけ??
強く美しいファルセット、悠久の時を思わせる伸び伸びとした歌唱、優しさと深みを合わせ持つ透明感あふれる声。その素晴らしい歌に酔いしれる。

ふと、さざなみのように客席に広がる戸惑いを感じた。
蘭華はどの分野の歌手なんだっけ?という戸惑いだ。
蘭華の歌は特定のジャンルに分類できない。
ファンの中には彼女を演歌歌手と思っている人も多い。歌謡曲の歌い手と認識する人もいる。僕はシンガーソングライターという受け止め方をしている。
ちらしなどには「J-POPと歌謡曲が融合した新しい形の歌謡ポップス誕生!!」と記される。
マネジャーの苦心が偲ばれる一文だ。彼女が昔から大好きだった古い昭和のうたや中国民謡などが彼女のなかで一つに融合し、昨今の類型化された楽曲と一線を画した歌を紡ぎ出しているからだ。
僕の戸惑いは、シンガーソングライターなのに大切なオープニングをオリジナルで飾らないの?という思い。演歌歌手と思う人は赤いドレスで高橋真梨子を歌う姿に惑ったのでは。歌謡曲歌手にしては彼女の歌い方はきれい過ぎて違和感を抱いた向きもあったろう。
蘭華は、かように人それぞれ受け止め方が違う。それがマーケティングの難しさにつながり、これまで日の目を見なかったのかもしれない。一方でこのユニークさ、唯一無二の存在であることが、彼女の価値なのだ。沢山の人がその価値に気づいてくれると嬉しいのだが。




蘭華は2015年7月22日、「ねがいうた」と映画「海のふた」のテーマ曲「はじまり色」の両A面シングルでavex traxからメジャーデビューした女性シンガーソングライターだ。発売前から動き出した全国キャンペーンでは、沢山のレコード店やショッピングセンターを連日のように訪れ無料インストアライブを開催。各地のラジオ局にも出演するなど泥臭く営業を続けてきた。
飯能、大和、名古屋、横浜、大分、福岡、赤羽、東十条、錦糸町、巣鴨、大磯、成城学園、秋田、岐阜、島根、東久留米、和歌山、長崎、熊本、富山、福島、静岡、三重、茨城……ざっと数えてみたら、9月末までのわずか2カ月間に27回のインストアライブと、35回のテレビ・ラジオ番組に出演していた。ひぇー。
ごめんなさい。このキャンペーンの途中、一度も見に行きませんでした。個人的にはインストアライブ好きじゃないから、といつも申し開きしている。だけど改めて見返して、ファンを自認しておきながら彼女の労苦を少しも癒してあげることが出来なかったな、と歯がゆく思う。
睡眠時間1時間の日もあったという。ハードなスケジュールで全国を細かく歩き続けてきた彼女のがんばりは驚嘆だ。いつ見ても気合横溢、明るく朗らか、前向きで綺麗。厳しい営業の苦など微塵も感じさせない。どれだけ性根すえデビューキャンペーンに取り組んでいるのだろう。
プロになったんだなあ。
彼女のことはインディーズで無名の2010年ごろから見てきた。
長い長い苦汁の時を乗り越え、ようやくたどりついたデビューだと知っている。いま彼女がどれほど強く深い覚悟でこの大勝負に挑んでいるのか、多少なりとも推察できる。
そしてシングル発売した昨年7月度、「ねがいうた」はJ-POPジャンルで有線お問い合わせランキング10位にランクイン。続く8月には歌謡・演歌部門で10位。さらに9月も歌謡・演歌部門で9位をキープした。
有線によると同一曲が、「J-POP」と「歌謡・演歌」ランキングの両方にランクインした例は過去にないらしい。
彼女にジャンル分けは不要なのだ。オリエンタルであり、和の美を合わせ持ち、懐かしくもあり、普遍的でさえあるその音楽は、必ず沢山の人の心に響くだろう。



「桃色吐息」を歌い終え、「こんにちわー、蘭華でーす」と挨拶。久しぶりの東京ワンマン。MANDALAは2010年に1度だけ企画ライブに出演しており素敵なライブハウスだと思っていたので、こうして単独公演できるなんて幸せ、素敵なミュージシャンがサポートしてくれてます、高橋真梨子は親が好きでよく…―――。
久々にステージから見る景色がテンションを上げたのか、お客さんを楽しませたいというサービス精神の発露か、たぶんその両方からどんどん話しかけ、客席とコミュニケーションを取っていく。基本、おしゃべり(笑)今日このステージを作り上げるために沢山のことを考え、様々な準備をしてきただけに話したい事が山のようにあり、湧き出してくるのだろう。
話しすぎたと思ったか、「最近は家族や故郷や恩人がテーマの歌が多いですが、実は私にも愛の歌があるんです」と引き締めて伴奏者に合図を送る。
2曲目、3曲目はオリジナルの「月」をテーマにした「揺れる月」と「花籠に月を入れて」を朗々と歌う。しみじみとしたバラードに、お客さんもしーんとして聞き入る。彼女の歌の世界が、ライブハウスの空気を優しく包んでいく。
この2曲はまさに恋愛がテーマ。


二胡の艶やかな弦の前奏から始まる「花かごに月を入れて」は多分、道ならぬ恋のうた。それでも「あなたの帰る場所はここです。いつも、いつまでもあなたを待つ」と一途な女性の思いを歌い上げる。MCでは「花かご」は女性、「月」は男性を象徴しているとタイトルを説明。話しながら顔を赤らめた………となるほど子どもでないのも彼女の魅力だ(笑)
かつてのライブではよく歌っていた2曲。本日はたっぷり蘭華の楽曲を楽しめそうだと嬉しくなる。
彼女の愛の歌には「月」がテーマの佳作が多く、もう一曲「月」がモチーフで強い陰影を残す純愛を描いた「三日月の影」も大好きな曲だ。NHKBSドラマの主題歌にもなっている。今回は歌わなかったが。
ちなみに2010年8月30日、この南青山MANDALAのライブに蘭華はトップバッターで登場。
1)三日月の影、2)夢の途中、3)maama、4)蘇州夜曲、5)燕になりたい、6)ともしび、7)草原情歌の7曲を歌っていた。対バンは中村未来さんとTiny Sunの2組。この自分のブログに書いてあったw 蘭華のライブはこの時が2回目だった事を思い返す。あれから沢山、蘭華のステージを見てきたなあと感動ひとしお。
さらに脱線して自分のブログ読み返したら、初めて彼女を見たのがその5日前だった。2010年8月25日に代官山LOOPで催された「ともしび」というイベントで、見田村千晴、Ray、宝美(現BOMI)の3人と一緒だった。沢山の大きなキャンドルの炎がステージ上に揺らめく、幻想的な光景。懐かしいなあ。当時、蘭華は毎月開かれた「ともしび」のレギュラーで、僕も毎月彼女をこのイベントに聞きに通った。それから5年半、一人の歌手が山あり谷あり、苦難を乗り越えて、こうしてメジャーデビューに漕ぎ着けた課程を見守り続けられたことの幸せを感じる。
さらにちなみに、この日対バンだった見田村千晴は2013年9月にビクターエンタテインメントからメジャーデビュー。宝美はBOMIとして2012年6月に日本コロンビアからやはりメジャーデビューしている。出演者のクオリティが高いイベントで、LOOPのブッキングマネジャーの音楽通ぶりが伺え、敬意を表したくなる。この3人のデビュー、それぞれドラマがあったが、蘭華の物語が一番ドラマティックなのは間違いない。だから、知れば知るほど蘭華に引き込まれるのだ。
閑話休題。




「どうですか、私のラブソングは。暗いですか。バラードが多いことは昔からのファンの皆さん、よくご存知ですよね。私の愛の歌聞いてどう思いますか、●●さん?××さんはどう思いますか?」
いきなりステージ前の席に座る常連ファンを、次々と3人指名して答えさせる。
「切なくて、心に迫ります」など突然当てられたお客さんは、ドギマギしながら回答する。目を見て歌うのは客を引き込む基本技。蘭華もこの日も当然のように実践していたが、さらにステージの上と下で直接言葉を交わすことで、よりアットホームな雰囲気を作ろうとしたのだろう。先に触れた客席の緊張、戸惑いをほぐしたかったのだろう。
「そんな切ない愛の曲を、ここからさらにお届けします」
歌ったのは、オリジナルのラブバラードで「悲しみにつかれたら」「4年前」「ぬくもり」。伴奏は二胡に代わって登場した細田好弘のアコースティックギターに。これら3曲、音源は無く、近年のライブではめったに歌わないレアな曲たちだ。
「4年前」は聞くの初めてか。他の2曲は蘭華と出会ったばかりの頃に何度か聞いた覚えがある。6年ほど前のことで、それも数えるほどだ。
実は長い歌手活動の中で、蘭華は一度大きく曲調を変えている。
歌手を志し大分から上京した2002年から、まさに恋愛をテーマにしたポップな楽曲を中心にシンガーとして活動していた。小沢健二をカバーしたりしてたそうだが、今からは想像つかない。ただよくいる女子シンガーの中に埋没し、芽が出なかった。仕事も恋愛も上手くいかないことが多く、オリジナルの楽曲は自らの失恋体験を元にした切ない悲恋の曲が多かったそうだ。
長い雌伏の時を過ごし、2010年頃からルーツである中国の二胡や和楽器を積極的に取り入れた独創的なアレンジで、オリエンタルな雰囲気や昭和歌謡っぽい癒し系の作品に軸足を移した。テーマは人生や親兄弟、故郷、自然などに変わった。シンガーソングライターとして、時間はかかったが自らの持ち味が生きる領域をようやく探り当てたのだろう。


メジャーデビュー後初の東京ワンマン。しかもバレンタインデー。
この日のセットリストにこれらの曲を並べたのは、この機会に自らの音楽活動の系譜を振り返るとともにファンの皆さんに知ってもらいたかったのかもしれない。だから伴奏も二胡を下げて、当時のようにアコースティックギターを入れて演奏したのだ。
最近歌っていないこれらの曲だが、歌唱力がずっと上達した今だからこその表現が光った。はるかに陰影が増し、悲しみ、切なさが当時より伝わってきた気がする。




そしてライブはこの日、一番の盛り上がりをみせたコーナーへ。
国生さゆり「バレンタインデー・キッス」とオリジナル曲「ダーリン」だ。
セットリストここまでたどり着いた途端、「あー、もうやだ」
「今日、一番緊張しているのがこの後の2曲。私はやだって言ったのに、やれってマネジャーに強制されて…」
「ダーリンは本当はアイドル向けに作った曲なんですよ。自分で歌うこと想定していないのに、スタッフが見つけ出してきてやれって…」とぶつぶつ。
無駄な抵抗を続けなんとか緊張をほぐし、ハードルを下げようとしてるのがみえみえ(笑)そんな姿も新鮮で、ほほ笑ましい。
それでも何度もYou Tube見て覚えたというバレンタインデー・キッスの振りを、お客さんにも強要(笑) 自らの歌でしんみりしていた会場を一緒に盛り上げ、テンションを高める。似合わない選曲で下手したら滑るのではと危惧していたが、しっかりコミュニケーションを取り、皆を楽しませた。
「ダーリン」は多数のアイドルが交互に歌うことを前提にしたという、アップテンポで歌詞の展開が高速な1曲。


イメージを壊すような試みだったが一番大きな声援が上がり、お客さんに大いに笑ってもらえて、やった甲斐があったというものだ。
この後2曲、蘭華らしい曲調に戻って「愛しい涙」と、結婚する友人のために作り結婚式でうたったという「ウェディングソング」。そろそろラブソングには倦んできたかな、と思ったタイミングで蘭華がステージから一旦、姿を消した。




中央がぽっかり空いたステージ、やや暗くなった照明。
そこに耳になじんだあのメロディーが二胡の旋律で美しく響き渡る。
「蘇州夜曲」だ。
NHKの朝ドラ「ごちそうさん」の劇中、高畑充希が歌っていたあれだね。元々は1940年公開の李香蘭主演映画「支那の夜」の劇中歌。大ヒットして戦前戦中、国民がこぞっと口ずさんだという名曲。この曲は高畑充希より、まさに蘭華に似合う宿命の一曲だ。
戦前、日本と中国で熱狂的な人気を誇った李香蘭は、中国奉天で日本人の両親のもとで生まれ育ち中国語が堪能だった。そのことで中国では中国人と思われ、北京や上海で活躍していた1940年ごろ、日中が険な関係にる中で日人として出自を隠さざるを得なかった。日本の敗戦後は、日本人であったため国外追放処分になり帰国、女優山口淑子として日本映画にも多数出演した。後に参議院議員としても活躍。政界引退後は女性のためのアジア平和国民基金の呼びかけ人となり、同基金の副理事長を務めた。
山崎豊子は小説「二つの祖国」で、第二次大戦中に日本と米国で苦悩した日系アメリカ人二世をテーマにした。同時期の日中戦争の最中、日本と中国の「二つの祖国」に翻弄され、後に両国の平和のため尽くした代表が李香蘭といえよう。
蘭華のイメージは、どこか李香蘭と重なる。
中国人の祖父母が1930年代に日本に移住。日本でその息子と娘が見合い結婚し、生まれたのが蘭華(本名)だ。名前の由来について蘭華は、かつて中国から上野動物園に贈られ大ブームとなったパンダの「蘭々」のように、人々に愛される人になって欲しいという思いが込められているとよくステージやラジオで話す。そして「歌手として、日本と中国、アジアの国々との架け橋となれれば」と続ける。
この数年、中国への音楽留学や日中友好イベントへの参加など、目に見える形で架け橋となりつつある。
また自らの恋愛など身近な題材を歌っていた初期を卒業し、音楽生活の第二期といえる現在、彼女は二つのルーツをより強く意識し、音楽に落とし込んでいる。二胡や和楽器、中国民謡や昭和歌謡、それらの音を効果的に使い、まるで日中の距離と時を超えて吹く風のようだ。
この日、「蘇州夜曲」は転換時のインストのみ。歌が聴けず残念。
かつてよく歌っていた蘭華の姿を思い描きながら、上記のような様々な思いが頭の中を交錯した。
なぜか長く続く後奏が終わり、再びそこに蘭華が。
艶やかなピンクのチャイナドレス姿。会場から「ほぉー」と感嘆の声が漏れる。美しい


ここからは、まさに現在の蘭華の真骨頂といえるステージになった。
「花時」「maama」という両親への想いをつづった2曲。深い感謝の念を、美しい高音のファルセットで歌い上げる。思わず涙するお客さんの姿も。
MCで2011年の大震災とその直後の父の死に触れ、「私のことを最も応援してくれていたのが父でした」
父親は蘭華が東京でライブするたびに、大分から夜行バスで駆けつけてくれたこと。母親を題材にした「maama」を聞かせたとき少し寂しそうな表情を浮かべたがとても褒めてくれたこと。いつかお父さんの曲作ると約束しながら、突然、がんで余命宣告を受けてしまったこと…
とつとつと涙ぐみながら語る。
桜の咲くころを意味する「花時」。初春の病床で父親に一緒に桜を見ようねと語る歌詞に聞き入ってしまう。
存命のうちに何とか書き上げ、枕元で彼に歌ってあげられたAメロはこうだ

横たわるあなた かすかな寝息
あなたと交わした約束 何一つかなえられてない
こっち向いて もう一度だけ笑ってみせてよ
桜の花 あなたに見せたくて
春の足音聞こえる
どうか どうか かなえておくれ
あなたの笑顔が見たい

そして父の死後に書き足したBメロ

あなたとの日々 思い浮かべる
夢かなえてゆく姿を あなたにも見てて欲しかった
もっともっと 親孝行できたはずなのに
桜の花 今年も咲き誇る
あなたとの夢 生きてる
父よ今も愛しています
あなたの娘で良かった

MCで聞いていた境遇を思い浮かべながら聞くと、涙がこみ上げてくる。
続いて、大分に今でも住む母親への感謝をつづった「maama」。


メジャーデビューを記念して蘭華は2015年8月9日、故郷の大分県中津市で凱旋コンサートを開いた。会場の中津文化会館大ホールは、なんと900席がSOLD OUT。ライブは大盛況で、大成功に終わった。地元の期待の大きさがうかがえる。中津に眠るお父さんと住み続けているお母さんは、故郷に錦を飾った蘭華をきっと誇りに思ったことだろう。




ついに最後の1曲。
彼女が選んだのは「ともしび」だった。
先に書いた「ともしび」というイベントのために作った曲ではない。ただタイトルとぴったりだったこともあり、同企画に毎回呼ばれ歌っていた。しかし2011年、震災や父の死が重なり、精神的にも落ち込み、レコード会社との大人の事情などでその後ライブはほぼ休止状態に。「ともしび」は事実上「封印」された。
彼女は何を想い、この曲を最後に持ってきたのだろう。
悲嘆の時期を通り過ぎ、悲願のメジャーアーティストとして新たな一歩を歩み始めた現在地を意識したか。一灯の明かりに希望が見える。
一つ確かなことは彼女の並外れて美しいファルセットが、最も儚く美しく響くオリジナル曲は「ともしび」だということ。(歌わなかった中国民謡「草原情歌」も相当いいですが)
二胡の奏でる弦の音色と美声が絡まりあい、感動なくして聞くことができない。

伝えたい あなたに 幸せ届けたい
ゆらゆら ゆらゆら 揺れ泣いて
笑ているよ
らゆら ゆらゆら 揺れて生きて
歌っているよ

盛大な拍手が会場に響き渡る。
やがて拍手が強く波うち、アンコールのリクエストに。
会場の呼びかけに応え、蘭華が晴れやかに舞い戻った。




衣装は白のチャイナドレスに変わっていた。
感謝の言葉を述べて、最後はメジャーデビュー作となった「はじまりの色」「ねがいうた」を感情を込めて熱唱。
最後鳴り止まぬ拍手の中、サポートミュージシャン3人と並んでステージの上から挨拶。はじけるような笑顔が印象的だった。
これから蘭華がどんな歌手になるのか。まだメジャーでは始まったばかりだが、大いに期待していきたいね。
【セットリスト 】
1. 桃色吐息(カバー)
2. 揺れる月
3. 花籠に月を入れて
4. 悲しみにつかれたら
5. 4年前
6. ぬくもり
7. バレンタインキッス(カバー)
8. ダーリン
9. 愛しい涙
10. ウェディングソング
11. 花時
12. maama
13. ともしび
アンコール1. はじまり色
アンコール2. ねがいうた
