鎌倉・歐林洞『笹りんどうと秋の空 vol.1~アジアの香りコンサート』
出演:蘭華
サポート:沈琳(二胡)、菊池達也(ギター)
-----------------------------
暴風雨の古都・鎌倉。
鎌倉駅から小町通りをとぼとぼ歩く。11月の日はすでに短く、悪天の17時開場時点ですでに暗かった。時折の突風に傘も折れそうになる。
ただ心の中は晴天だ。蘭華の久しぶりのワンマンを見られると、うきうきしながら鶴岡八幡宮横の暗い道を、北鎌倉方面へ。駅から10分ほどで目的地の素敵な洋館、歐林洞が見えてきた。
歐林洞の洋菓子は、幼い頃からよく食べていたので店内に香る焼き菓子のにおいも懐かしい。会場は2階のサロン。案内されるまで洋菓子が並ぶショーケースなどをのぞきながら待つ。美味しそうだ。
開演が近づき順に案内されて2階に上がると、そこは洋館らしい落ち着きのある調度品に囲まれた素敵なサロンだった。この日はテーブルははずされ、椅子席のみずらっと並ぶ。一番前がステージで、最前列と触れ合えそうな距離感。段差もない。
続々と集まるお客さんで、見る間に客席はいっぱいに埋まった。
会場が期待感に満ちたころ、中国の古典楽器二胡が美しく奏でる「蘇州夜曲」の前奏でステージは始まった。後方から客席のあいまを抜けて、蘭華が登場。しっとりと昭和の名曲を歌い上げた。



ライブ冒頭は、「竹田の子守唄」など昭和の薫り漂う楽曲たちを、彼女ならではの美しい高音を響かせながらたっぷり聞かせてくれた。
古き佳き文化を大切にする彼女らしい選曲(セットリストは一番最後に)。しかも会場は彼女が愛する古都鎌倉だ。どうしたら自分らしいライブを作れるか、時間をかけて楽曲を選んだのだろう。あの場に居合わせた人たちは、古き鎌倉にいるような気分を堪能したのではないか。
5曲目の「悲しみにつかれたら」から、シンガーソングライターとして歩んできた彼女自身の作品たちが並んだ。
特に「夢の途中」は、売れず苦悩を深めながらも、諦めることなく前へ進もうとしていた頃の楽曲。歯を食いしばって、がんばっているずっと若いころの蘭華の姿を想像してしまった。だって、この曲、今の彼女にしては明る過ぎるのだ。


しかし、直近の彼女のことを考えるとこの曲を、ここで歌おうと思うようになった事は素敵な兆候だなと、聞きながら感動した。というのは…
蘭華の魅力は何年も前から衆目認めるところ。美しきオリエンタルな風を吹かす存在感。やさしく強く空をかける高音の輝き。その魅力、一度聞けばすぐ虜になる人もいるだろう。メジャーのレコード会社とデビューに向け随分前から準備を進めていたのも当然だ。
ところが制作活動を強いられライブから遠ざかり、一方でレコ発は塩漬けになったまま、様々な要因が重なりこの秋、メジャーの道も閉ざされてしまった。多数の女優・モデルを擁する大手芸能事務所テンカラットは彼女の才能を買い、音楽アーティスト契約の第一号として彼女を選び、長年に渡って芽のでないこの逸材を暖かく支援し続けていたのに。
彼女はテンカラットを卒業した。見守り励まし続けてくれたテンカラット小林社長には大恩しかないと繰り返し、繰り返し話してたものだ。メジャーデビューという形で恩返しできなかった事を申し訳ないと泣いていた。
それでも負けず嫌いの彼女は立ち止まらなかった。無念、悔悟、感謝…、万感の思いを込めて彼女は一曲のうたを書き上げた。それが「夢の途中」に続いて歌った「ねがいうた」だ。

何も残せぬ自分を悔やいていた
願い星探した 長い夜を越えて
光る朝へと向かう想いただひとつ
会いたや 会いたや 会いたいのです
あなたがそっとこぼした涙を
私はきっと忘れないでしょう
あなたの愛をこの手で返せる
そんな日がいつか来ますように
恩をかかえて生きるのです。

この歌を携え、彼女を支え続けてきた水島マネジャーが寝食を忘れ(おおげさか?)レコード会社やテレビ局などに蘭華を売り込んで回っていた。いくつもの可能性が浮かんでは消えたが、根気強くその魅力を説いて回った。
そしてついに、彼女をメジャーに導いてくれるレコード会社が現れたのだ。
「avex」
うーん、複雑。またもや美味しいところをavexに持っていかれてしまったという気持ち。一方でよくぞ彼女の後押しをしてくれたという感謝。もちろん、感謝の方がずっと大きい。想いがかない、彼女がどれだけ喜んだことか、それを思うだけで泣けてくる。
鎌倉歐林洞ライブの時点でデビューの件はまだ伏せられていたが、散々な話ばかり伝わっていた後に開いたこのワンマンで、目を輝かせて「良い報告ができそう」とほのめかし、第一部の最後に「ねがいうた」を歌った。意味することは明白だった。
それが想像ついただけに、彼女が切々と想いを込めて歌うこの曲の歌詞に、深く聞き入った。

消えてゆくけど 永久(とわ)に残る絆
生きることの意味と難しさを知った
いつも幸せ願う あなたの思いを
会いたや 会いたや 会いたいのです
あなたの笑顔 私にください
与えてくれた限りない愛
めぐり合いの縁に感謝して
二人で誓った夢咲かせて
過去と未来に虹をかける
~略~
生きて生きて奏でてみせる
二人誓った夢を咲かせたい
あなたの喜ぶ顔がみたい
それが私の生きがいです

https://youtu.be/A2Wxv81hoQU



第2部は、沈琳さんの素敵な二胡の独奏から始まった。
前半の隠れテーマが「和」だとすれば、後半は「華」だったのかもしれない。ここから彼女のもう一つのルーツへの旅が始まった気がした。
二胡が中華の薫りをたっぷり漂わせるなか、亡父への感謝を歌った「花時」、母への想いをつづった「maama」を感情をこめて歌う。感動で涙が出る。
そして最後に「異邦人」のカバー。意味するのは…
中国にルーツを持つ彼女がいま、日本で勝負している。そしてメジャーデビューという夢をかなえるところまで、時間はかかったがついにたどり着いたのだ。
もちろん、メジャーデビューは単なる通過点でしかない。
デビューしたけど鳴かず飛ばずで、2年ともたず契約を切られてしまう例も沢山知っている。それでもくじけず、インディーズで何年も音楽を続け、自分の力だけで1000人規模のワンマンを成功させられる所まで登っていったアーティストを何組も知っている。
実力だけなら、掃いて捨てるほどいる無名メジャーアーティストよりも実力や集客力ではるかに上回るインディーズミュージシャンも数知れずいる。
だから蘭華に限らず、上を目指すアーティストにはメジャーデビューを到達点ではなく、さらに上へ登るための一里塚にして欲しいよね。一里塚というのは、百里の旅の最初の一里でしかない。まだまだこの先、九十九里あるのだ。たぶん、進めば進むほど、まだ知らない広大な世界が広がっているだろうから。ワンピースかwww
そして蘭華には文字通り、日本の小さい市場に留まらずアジアへ、世界へ活動の範囲を広げ、大きくなって欲しいな。きっと世界の市場が求めるオリエンタルなアーティストへのニーズはある。遠い存在になってしまうのは、ちょっと寂しいけど。
何年も時間はかかるだろうけど、2度でも、3度でも挫折を乗り越えて、前へ進み続けることができるやつだけが生き残る世界。それを身に沁みて知った蘭華はきっと強い。
それを応援し続けたい。応援するからさ。





~第一部~
1.蘇州夜曲(カバー)
2.鎌倉小町
3.竹田の子守唄(カバー)
4.満月の夕(カバー)
5.悲しみにつかれたら
6.愛しい涙
7.夢の途中
8.ねがいうた(新曲)
~第二部~
9.女人花 (二胡独奏)
10.紅麈客棧(二胡独奏)
11.揺れる月
12.花時
13.maama
14.異邦人(カバー)
~アンコール~
en.草原情歌
