今夜は、渋谷めぐみのワンマンだ。日吉napはこじんまりしたライブハウスで、彼女を見にきた20人弱のお客さんでそこそこの入り具合。つめれば40人は入るだろうが、一人ひとりに目が行き届くアットホームな雰囲気。長年、活動拠点としているホームグラウンドらしくていい。
まずはオープニングアクトの陽平の演奏でスタート。昨年末から、ボチボチ音楽活動を再開した彼は、かつては「はるひ」という名前で活躍していたシンガーソングライターだ。いろいろあって1年ちょっと活動を休止していた。4~5年前から、渋谷めぐみとよく対バンしており、彼女の1stミニアルバムの制作にギター&コーラスで参加しているような古い音楽仲間でもある。
その優しい歌声は、暖かい気持ちに包まれ幸せな気分になる。男性シンガーソングライターのなかで、これほど暖かく、懐かしさを感じる歌い手は、なかなかいない。特に1曲目の「かりん」は、テレビドラマの主題歌に使われていてもおかしくないほど、ドラマを感じさせてくれる名曲。陽平さん、もっと自分を売り出そうよ。
1)curry
2)オレンジデイズ
3)線香花火
4)Door
さあ、しばしのビール休憩の後、渋谷めぐみの登場だ。
今夜は特にサポート陣の充実度がすごい。アコースティックギターに三井さん、エレキギターに高田さん、ベースに坂下さん、と弦では凄腕のプレーヤーばかり3人が揃う。napがドラムを使えないアコースティック専用の箱なので、3弦という編成になったのだが、その結果、カホンやキーボードなどなくても、これ以上ないというほど素晴らしい名演が生み出された。
数多くのライブを見てきたが、ミュージシャンのサポートの演奏でこれほど格好良い演奏に出会うことは極めて稀。1曲目「秘密」の前奏を坂下さんがベースソロで弾いたのだが、それがチョッパーでファンキーで、ぞくぞくするほどセクシー。聞いた瞬間に、今夜のライブは素晴らしいものになると確信した。
さらに、オープニングに出た陽平がコーラスとしてサポート。昔から彼女の曲を知りつくしている彼が、その魅力的な声で見事にハモるものだから、どの曲もいつにもまして感動的な盛り上がりをみせる。音にも声にも厚みがあり、なんと聞き応えのあることか。
バックが素晴らしい演奏をしてくれれば、歌い手はこの上なく気持ちよくなるもの。この日の渋谷めぐみは、いきいきとしてよく伸びる声で、ハスキーに、ジャジーに、エモーショナルに、ロックに、と曲ごとに様々な表情を見事につけた幅のある好演。持ち味をたっぷり見せつけた。
特にこの日は、ベースの坂下さんが堅固なリズムを保ちながら、セクシーなリフを随所に挟みこんで目立ちまくり。それがまた、どの曲にもおしゃれな色彩をつけていく。ベースがしっかりしていることで、エレキとアコースティックのツインギターも、いきいきと走り出す。「Deep」のようなロックな曲では、お互いに意識しながら、攻守を目まぐるしく交代させる攻撃的な演奏がかっちょいい。
また、バラードの「えんぴつ」では、エレキの高田さんがメロディを取ると、アコギの三井さんがギターを叩き、絶妙のパーカッションを挟む。「隠し事」は、これまでのアレンジとガラッと変えて、ボサっぽいリズムで、えらくドラマチック。このアレンジの方がオリジナルより好きかも。
しかも、今夜は意外感に満ちたニューアレンジが多く、メリハリがすごく効いている。「trap」はどーんと暗く、情念に満ちた女の退廃感がしっかり出ている。しばし、坂下さんのトークコーナーを挟んだ後に歌った高田さんが作った唯一の曲、「真実の花」は本来フォークっぽい暗い曲なのだが、今夜はその高田さんがエレキギターにディストーションかけ、思いっきり音を歪ませたロックっぽい演奏。今夜歌った曲のなかでは最も古い「涙」では、そのオリジナルにあったはるひさんのコーラスが戻ってきて、なんか涙が出そうに。
ちなみに坂下のトークコーナーは「どうでもいい話」だっけ?いや、「くだらない話」だったかな。まあ、とにかく彼がシブメグのサポートで日吉napに出演した時の恒例コーナーで、すでに今夜までにvol.25まで続いているロングラン企画?
坂下さんが話始めると、渋谷めぐみが「ちょっとビール買ってくる」とステージを降りる。それに続いて、三井さんも「トイレ」。さらに高田さんも、陽平さんも降りて、ステージ上では坂下さんがぽつんと一人きり。汗かきながら、みなが戻ってくるまでつながなければとオチのない話を続けている。それを客席後方でビールを飲みながら、みんながニヤニヤ見守っているという構図が、無茶苦茶おもしろかった。
ちなみにこの日も、ステージドリンクはビール。もはや当たり前で、彼女の場合は飲んでいた方が声が出るという特異体質だから仕方ない。といか、もはやビールは彼女のトレードマークとなってるしね。コップいっぱいのビールを、ここまでに飲みほしていたのでした。
また、この日、入場時にお客さんにはピンク色の小さいメモ紙が配られていたが、「涙」の後に彼女からお願いが。1月11日に恵比寿天窓switchで開いた大黒美和子との共同企画ライブ「music fool」では、1か月前の彼女たちのツーマンでお客さんに記入してもらった歌詞のパーツをもとに新曲を共同制作し、「music fool」で発表した。
今度は、自分の新曲のために、「あなたにとって愛とは」という設問で、一言ずつお客さんから集めることに。ステージの皆も一人ずつ聞かれ、三井さんの「不倫」とか、陽平さんの「性欲の水割り」など珍回答も。お客さんも訳のわからに言葉を書き連ねていたから、はてさてどんな新曲ができることやら。
ここからの終盤は一気にたたみかけた。「magic」「東京」とロックな曲で走り出し、客席からも手拍子が沸き起こる。
そして、いつもはハンドマイクで歌う彼女が、にわかにスタンドをセット。ということは、次の曲は「ユメオチ」だ。昨年末から恒例化したお客さんと一緒にフリつきで踊るという、あれだ。お客さんも参加して、みごとに客席全体が盛り上がる。
そして最後は「dejavu」。アルコールで頭も体もとろけてしまうという、強烈な歌詞。これぞ、渋谷めぐみ、といわんばかりのアルコール度数の高い曲だ。これ、彼女に本当に似合っている。鮮烈に最後を締めた彼女に、一斉に拍手。
普通ならここでステージを降りて、アンコールに応えて、再びステージに戻ってくるもんだが、彼女もほかのメンバーも降りるつもりなし。客席から「アルコール!」という掛け声が入り、アンコールの手拍子が広がると、そのままライトが当たり、アンコールへ。
ここで、napの店長がビールを5人分持ってステージに届ける。打ち合わせ通り。「みなさん、なぜここでビールか分かりますか~。そう、あれを歌います!」としてあの幻の曲「ビールの神様」を、楽しげに歌いあげた。ああ、楽しい夜だった。
【セットリスト】
1)秘密
2)Deep
3)えんぴつ
4)隠し事
5)trap
6)真実の花
7)涙
8)magic
9)東京
10)ユメオチ
11)Dejavu
en. ビールの神様
近くこの日のライブの模様を誰かがYou Tubeに上げてくれるはず。それまで、代わりに昨年10月のライブで絢香の「三日月」をカバーしていた映像を。かなりいいよ。
別のステージで、もっと上手く歌っていたのも見たことがある。その時は、この時以上に感動したなあ。他にも中島美嘉やEGO-WRAPPINを歌わせたら、すごい。ああ、また聞きたいな。
2012年、きっと渋谷めぐみの名前も今まで以上に、あちこちで聞かれるようになるだろうと確信したライブでした。