2012/1/28 木下直子&ヒグチアイ@天窓comfort | 音楽偏遊

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「A型乙女座 ∞ O型射手座」@高田馬場・四谷天窓comfort
出演: ヒグチアイ →木下直子 →2人のセッションたっぷり
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gee-geの鉄平さん風に言えば、ピアノ弾き語りライブシーン代表選手の2人のツーマン。ガチ対決が面白くないわけがない。分かってるファンがこの日はごそっと高田馬場に集結した。

そんな多くのファンが見守る中で、2人で素晴らしい夜を作ってくれました。特に見応えたっぷりだったのが、セッションステージ。なんとアンコールを含め、2人のコラボで計8曲!!もはや単なるツーマンを超越した、鍵盤弾きどうしの熱いジャムセッション。ほんまに見とかな損々なライブやったな(なんで関西弁、笑)

ただ贅沢だと思うが注文が一つ。今夜はお互いが力を認め合った実力派の鍵盤弾き対決。木下直子は昨夜更新したブログで「いやいや、きっと本番はお互い魂の闘いでしょう」と綴った。その言葉に偽りなし。彼女は、自分のソロステージでベストアルバムにそのままできそうな懇親の9曲(2曲はメドレーだったが)でセットリストを組み、精魂尽きるかと全力で歌い上げた。

それに対するヒグチアイの心構えはどうだったのだろうか。直子ちゃんとツーマンできる、という事を心から楽しみにしており、特にセッションステージこそ今夜力を入れるところだと割り切っていたよう。そのことで、彼女自身のソロステージがぬるかった。それが、かなーり不満。本来ならもっと、もっと物凄いライブをできるのに、流したとまでは言わないが、軽さを否めなかった。

特に声帯の硬さを補うため、細心の注意が必要とされる「青い春」や「メグルキオク」で、丁寧さにやや欠けていたため、声が割れた。あの2時間超に及ぶワンマンでは、そんなこと無かったのに。言い方かえれば、歌が下手になった感じ。一歩、一歩、先に進み続けなければいけないのに、あかんだろう。

一方で、セッションでの彼女の楽しそうな事といったら。とっても魅力的。あんな笑顔を浮かべて歌うヒグチアイは、ソロライブではついぞ見たことがない。是非、ソロのライブでも見せて欲しい踊って歌えるシンガーぶりだった。つまりは、今夜は彼女の代名詞といえる「孤高」ではなく、信頼できるお姉さんであり友人である木下直子とのフレンドリーマッチだったということかな。

そう、見田村千晴とのツーマンだったヒグチハル企画の時も、こんな楽しげな表情を浮かべていた。孤高の鍵盤弾きは、きっと人恋しいのだろう。それも善し悪し。彼女が至高の音楽が生み出すにはどんな状況が一番なのだろうか。これから、どんな経験を積めば、彼女が高みへと上がっていけるのだろう。

それでも、今夜のライブは見事な充実ぶりだった。セットリストはこんな感じ。

<ヒグチアイ>
1)青い春
2)くだらない歌と誰かの毎日
3)ツンデレ
4)理由
5)さっちゃん
6)東京
7)メグルキオク

<木下直子>
1)ひまわり
2)この指とまれ~夢の島
3)ソライロ
4)オレンジとピアス
5)私を守るもの
6)硝子細工
7)うたのことのは
8)生きとし生けるもの

<セッション:ヒグチアイ+木下直子=∞>
1)夏が来る前に  (vo 直子、pf&cho ヒグチ)
2)あいひとつ   (vo ヒグチ、pf&cho 直子)
3)赤い靴のワルツ (同)
4)夜泳ぐ     (同)
5)黒い影     (pf&vo ヒグチ、cho 直子)
6)水槽      (vo 直子、pf ヒグチ)
en.1 Journey  (同)
en.2 ハローヒーロー(vo ヒグチ、pf&cho 直子)

この日は、バーカウンターに「A型乙女座(ジントニックにカンパリ?)」と「O型射手座(白ワインにブルーキュラソー)」という2種類のスペシャルドリンクも。両方飲んだが、A型乙女座の方がドライで好み。こちらは2杯頂いた。そんなドリンクを堪能しながら、ライブはスタート。

ヒグチアイのセットリストは、昨年のワンマンの後の四谷天窓ライブと似ていた。ワンマンまで迫力路線を突き詰めてきた彼女が、ワンマン後は新たに一連の脱力路線とでもいえそうな新曲を次々と発表。一味違う軽妙なヒグチアイ像を見せてきた。それが「くだらない~」「ツンデレ」「さっちゃん」などだ。楽しくていいんだけどね。

曲間のMCでは、最初に木下直子と会ったときは怖い人だと思っていたが、先輩からDisney Landに斉藤麻里と一緒に行こうと誘われて、そのときが楽し過ぎて、とても仲良くなったこと。最近、落ちていること、とまることがすごく嫌で、動いていないと嫌なのに、動けない自分がいて、それがとても嫌なこと、などなどを語る。今夜は結構、おしゃべり。イベントを楽しんでいるのだと分かる。

いいくぼさおりの「響咲」シリーズの共演時に作った勇士のうた「理由」も久し振りに披露。duo Music Exchangeという大きな箱で歌った響咲のライブより、今夜の歌いっぷりは軽め。このバラードはもっと突き詰めて歌って欲しかったなあ。いい曲なんだよ。

「さっちゃん」ではさらにぐっと溜めて、幼馴染の結婚式で初めて分かり合ったお互いの気持ちを描き出す。徐々に内向的になってきたところで、歌ったのが「東京」。今夜のヒグチアイのソロでは、これはぐっと心に響いてきた。やはり、東京は鉄板だな。

最後の「メグルキオク」は迫力はあったが、説得力には少し欠けた感じ。孤高さが足りないのだ。

ちらしに記載されていた星座占いによると、射手座のヒグチアイは「今日の挑戦は、あなたの全力を出す価値がありそう。パーフェクトを求めているのなら、たった一人での作業にこだわって」とあった。そうなんだよ。木下直子が魂の闘い、とまで言ってくれていたのだから、ヒグチアイもやはり一人に拘って孤高な歌うたいぶりを発揮し、がっぷり四つに組み合って欲しかった。それがファンとしての望みでしたが。いや、ヒグチアイは凄いってことは間違いないんだけどね。高望みですが。


ここで休憩を挟んで木下直子のソロステージに。こちらは宣言通り、かなり凄かった。鳥肌がたつ迫力で、木下直子だけ聞きにきてもお釣りがくるライブだった。これを聞かされたら、3月28日のワンマンも聞きに行かずにはいられない。

まずは季節外れとかお構いなしに「ひまわり」でスタート。僕の大好きな曲で、嬉しくなる展開。そのピアノは、重々しく、その声はふくよかで太い。そして歌の完成度の高さといったら。絶対的な安心感で紡がれる音楽に、身も心も委ねたくなる。いや委ねてしまう。やはり木下直子はいい。

そこから後は怒涛のような歌いっぷり。アップテンポな「この指とまれ」(だと思うが)からメドレーにして「夢の島」へ。手拍子で客席に大いに盛り上がる。

渋谷のスクランブル交差点で空を見上げ、ここを歩く人々はどんな空を見たらきれいだと思うのだろう
という思いを描いた「そらいろ」は、かなりレア。本日のポイントをここで作る。そして、ここから彼女は、まさにベスト曲ばかりをたたみかけた。

「オレンジとピアス」「私を守るもの」「硝子細工」「うたのことのは」「生きとし生けるもの」って、それは贅沢すぎる!! こんなに、彼女の代表曲ともいえる曲ばかりを立て続けに歌うことなんて、ほかのブッキングライブではみられないよ。木下直子の力の入れようが分かるというもの。

いずれ劣らぬ名曲ばかり。それを彼女が心を傾けて大切に、力強く歌っていく。もう、その世界観にどっぷりとつかってしまう。まるで子宮の中で羊水に浮かびながら濃厚な愛情に満たされる充足感。ああ、なんと幸せなことか。


木下直子の素晴らしいステージの後は、いよいよ本日の目玉、セッションタイムだ。といっても、今夜のために作ったという共作曲を合わせきっと2、3曲ぐらいだろうと高を括っていたら、とんでも無かった。ここからが、まさに今夜の本番。トップ鍵盤シンガー2人の織り成す異次元なライブの始まりだったと言ったら言い過ぎか。

お互いの持ち歌を、相手に歌ってもらうのだが、それがアンコールを含めると3曲ずつ。さらにオリジナル曲を今夜のために2曲も用意していたのだ。どんだけリハーサルやったのだろう。

その中でも特に感動的だったのは、これは意見が人によって違うと思うが、僕は「赤い靴のワルツ」。ヒグチアイがメインで歌うのだが、彼女の強い声と暗さに似合いすぎ。それを木下直子の超絶なコーラスで次元の違う魅力を作り出す。本当に木下直子のコーラスは上手く、効果的なのだ。これだけのコーラスをできるアーティストは、そういないぜ。

そして、逆パターンで「黒い影」がまた面白かった。さすがに息切れしそうなこの曲、木下直子がチャレンジするかと思いきやヒグチアイの弾き語りに彼女がコーラスをのせていく展開。これがまた、ヒグチアイだけで歌っているときにより、はるかにドラマの陰影が深く、迫力も増して、素晴らしい完成度に。

そして、ラストの「ハローヒーロー」を飛び跳ねながら、鍵盤から解き放たれて自由に歌うヒグチアイの楽しげなことといったら。黒か紺地に白い水玉のワンピースの裾をひらひらさせて、ふわふわと音楽の中を舞い、泳ぐように、ヒグチアイが弾んでいた。彼女のファンとしては、この表情を見れただけでも価値がある(笑)ああ、いつもは暮らそうなのに、こんな表情を浮かべられるんだな。一緒に嬉しくなる。

終わりよければ全てよし(笑)オリジナル2曲の「泳ぐ」シリーズもさすがの完成度。また聞きたし。うーん、楽しいライブだった。また1年後とかにやらないかな。そのときはヒグチアイに真剣勝負して頂いて、火花が飛び散るような鍵盤弾きの意地のぶつかり合いを楽しみたいものです。