昨年9月21日、台風15号が東京を直撃した。斉藤麻里が一段の飛躍を期して臨んだ、O-Crestワンマン当日だった。コツコツと半年以上前からライブや路上でSOLDOUT目指しチケットを手売りしてきた。そしてついにライブ前夜に230枚を売り切った。きっと興奮は最高潮に達し、意気あがっていた事だろう。
一方で、何日も前から日本列島に沿って大型台風がゆっくり東京に近づいていた。だが、まさかあんな事になるとは誰も考えていなかっただろう。
朝方の天気予報で、台風が夕方にも首都圏上空を通過することがわかってきた。昼過ぎには雨も風も強くなっていた。そして不穏な予感が、彼女らが予定通り会場リハに入る頃、にわかに頭をもたげてきた。まず東海道線が止まり、コーラスを頼んでいた飯田舞が来れなくなったのだ。しかも、時間を追うごとに運行休止する路線が一つひとつ増えていく。
斉藤麻里や彼女をバックアップするガジャG、アランヒルズ匠、村上通、コーラス木下直子らは、O-crestの中でリハを進めていたころ、事態がどんどん悪化していった。午後4時過ぎになると総武・横須賀線も止まり、京葉線も、京浜東北線も、中央線も、京急も、東急も、西武も、東武も、小田急も順次止まっていく。午後6時ごろには山手線までも運休に。渋谷の道玄坂では街路樹が倒壊、走行中だったタクシーを押しつぶし、道路を完全に遮断するほどの事態になっていた。
ライブが始まる午後7時。会場のO-crestにたどり着けたのは僅か30人ほど。開演の30分ほど前に、彼女は悲しい決断を下していた。公演中止。あれほど長い期間、努力を積み上げ、彼女はここまでたどり着いたというのに。暴風雨のなか、それでも会場に来たファンのために物販だけは実施した。わざわざ製作したステージタオルや、オリジナルTシャツが積まれていた。
そして、この日、華々しくリリースする予定だった新アルバム「Melody」も。
斉藤麻里は来てくれたお客さん一人ひとりに感謝の言葉を述べ、握手した。ぼろぼろ涙をこぼしながら。
2011年の1年間で、その当日に、東京で天災により公演中止に追い込まれたライブは多分、たったの2日しかなかっただろう。3月11日とこの9月21日だ。その日に当たるとは。しかも、物販でみんなが彼女を慰め、励ましたあと、8時ごろに外に出るとすでに台風一過。雨はやみ、鉄道のダイヤこそ乱れていたが、渋谷の街はいつもと変わらぬ賑やかさを取り戻していた。わずか数時間、台風がずれていたら、きっとライブを中止する必要はなかったのだ。



長々と書いてしまったが、無念の涙を呑んだその日から4ヶ月。
年をまたぎ、この1月26日を迎え、斉藤麻里のO-crestワンマン振替公演「STEP BY STEP~明日を照らすファンファーレ~」が開かれた。このライブにかける斉藤麻里の意気込みといったら、すごいものがあった。物販には、改めて作りなおしたオリジナルTシャツが並んでいたが、ほぼ踏襲したデザインの中で違っていたのは、胸の中央に「revenge」の文字が入っていたことだ。リベンジ=復讐。この文字をあえて付け加えた斉藤麻里の想いの大きさを感じた。

そして始まったリベンジワンマン。
1曲目に斉藤麻里が選んだ曲は、彼女の曲の中で最もアッパーな「ダイブ」!「みんな一緒に盛り上がっていこー

公演中にきっと泣くだろうな、と思ってた。彼女が泣いたら、もらい泣きするな、とも思ってた。しかし、アンコール曲の途中でこみ上げた素振りを少しみせただけで、斉藤麻里はこの「ダイブ」で作った高いテンションで、最後まで笑顔いっぱいに駆け抜けた。
歌いたくて、歌いたくて、しょうがなかったこの日のステージ。泣いてなんかいられるか!心から楽しもう!そんな気合いが、彼女のステージから伝わってくる。いきいきとして、楽しげで、バンドメンバーと、お客さんと、一体になってこの祭典を盛り上がろうと貪欲でさえある彼女の姿があった。
個人的には、あらためて「タイムカプセル」に感動。「昨年1年間、活動10年ということでこの歌を大切にたくさん歌ってきました」と紹介し歌い始めたミドルバラードのこの曲は、ダイブのように盛り上げはしないが、その歌詞が突き刺さる。


斉藤麻里の曲はドラマのようだ。普通の女の子の心に潜む感情を、ささやかなストーリーの中に描きだす。
感受性と鋭い感性が、その詩に感じられる。主人公は彼女自身のようで、ほかのどんな女の子でもある。だから、広く多くの人に受け入れられるのだと思う。
それを「ダイブ」でアゲアゲに、「まばたきシャッター」ではポップに、「夕焼けセンチメンタル」では切なく、「あした映画を見に行こう」では希望に満ちて、という具合に多彩な表情でつづっていく。その楽曲と、明るく力強い彼女の声が見事にマッチして、共感が広がる。
アンコールを含めて全17曲。オールスタンディングの客席は、いっぱいのお客さんで揺れ続けてた。
今夜のバンドメンバーは、昨年9月21日と全く同じ顔ぶれ。あの日、あの場で彼女の涙をみて、このリベンジを成就させてやろうと男気を感じてない訳がない。しかも4ヶ月の熟成期間もあったから、一体感は一段と高まり、バンドしてたねー。
ドラムのガジャGの表情はよく見えずBa.塩崎喬浩の表情判らなかったが、フロントのギター井出匠とキーボード村上通は、一緒に心から楽しもう、という表情。彼らの出す音が踊っていた。
そして、途中から呼び込まれたゲストコーラスの2人、木下直子と飯田舞の素晴らしいハモりといったら。それぞれソロで活躍するシンガーだが、共に斉藤麻里が親友と呼ぶ存在。彼女が燃焼しつくせるよう、できる限り支えて上げたいという優しさが、ステージ上のやりとりから感じられた。
敢えてもう一つ言いたいのは、この日の木下直子はセクシーだった(笑)長い髪をクルクル内巻きにして、ポインターシスターズのような雰囲気。そして、際立つコーラスワークで斉藤麻里の歌の次元を引き上げていた。素晴らしい!
しかも、2人の役割はコーラスだけでは無かった。今夜一番の企画が「Melody」恒例の


お客さんを木下組、斉藤組、飯田組の三つに分けて3パートを練習。本番やっちゃうというもの。ウヒョー。それぞれの組長の音頭のもと、木下組がトップノート、麻里ちゃん組が主旋律、飯田組が低音を響かせるのだが、僕のいた木下組はなかなか優秀で、お客さんみなうまい(笑)飯田組の声は会場の反対側だったせいかw、よく聞こえなかった

そして、その他にも、麻里ちゃんを応援しようと彼女の音楽仲間が多数会場に駆けつけていた。僕が判っただけでも、少なくとも7人のシンガー、3人のギタリスト、ドラマー1人が会場の後ろの方から声援を送っていた。きっともっといただろう。皆に愛されている。
【セットリスト】
1)ダイブ
2)晴れた日の雨
3)サイクル
4)タイムカプセル
5)夕焼けセンチメンタル
6)君はくもりが似合う
7)baby lovesong
8)魔法のバンドエイド
9)また会いましょう
10)うそつき
11)瞬きシャッター
12)僕はドラッカー
13)going up
14)メロディ
15)明日映画を見に行こう
アンコール
16)ハレルヤ!
17)ハッピーナイト
最後はみんなで「ハッピーナイト」で、幸せな気持ちいっぱいに。満足感溢れる充実のワンマンだった。
おっと忘れていた。今夜は重大発表がありました。「ちょうど1年後、来年、2013年の1月26日、斉藤麻里は渋谷O-WESTでワンマンやっちゃいます


O-WESTのキャパはクレストの倍、500人だ。Step by Step

きっと今夜のワンマンを見たお客さんは、彼女の大きな箱でのワンマンを是非見たいと思えただろう。それだけ充実したライブだった。今夜の200人超のお客さんが来てくれるとして、満員を目指すなら、これから1年かけさらに300人を集めなければいけない。斉藤麻里のことだ。這いつくばってでもSOLDOUTを目指すだろう。休む間なく、彼女の挑戦の日々は続くようだ。ガンバレ
