一気に公園坂を下り、駅を突き抜け、地下道をくぐり抜け、乙やDESEO前を早足で突っ切る。突き当たったら右へ折れ、側道をがーっと上がればもう代官山。15分でノマドに到着、おおーっ!意外に近い。走れば、もっと時間短縮できたな。
ちょうど前のアーティストが終わるところ。物販にいた渋谷めぐみや高田さん、三井さんにひとしきり挨拶して中へ。混んでないので、転換時に最前列を確保。
さて、渋谷めぐみの2012年を今夜のライブで占ってみるか。そんな思いで見つめた今夜のステージ、めちゃくちゃ良かったぞ!総合的に言えばまだまだな所も多いのだけど、ステージングに関して、彼女と客席のコミュニケーションが格段に良くなったのだ。
それは、彼女の代表曲である「ユメオチ」で、サビに振りをつけたことがきっかけだったかもしれない。昨年末、三井さんの提案でお客さんも一緒にやってもらおうと始めたのだ。
ユメオチのサビはこんな歌詞だ。


♪こんやーはー♪というところで手を大きく左から右へ振り、♪飲み明かそう♪でくぃくぃっと杯を傾け、♪歌い明かそう♪ではマイクを右手にこぶしを利かせるよう握り締め、最後はかんぱーいとグラスを持った手を突き上げる。これを「一緒にやってください」と曲前にお客さんと練習してから本番に。するとお客さんも手拍子を送って、彼女を盛り上げ、サビで拙くてもやってくれるんだよね。
「ユメオチ」は曲自体がとても格好良い。酒場で織り成す男と女のドラマが、女の夢という形で、アップテンポなジャズ風のアレンジにぴたりとはまっている。それを、ややハスキーで力強い声で、渋谷めぐみが大人の雰囲気たっぷりに歌いあげる。お客さんも、おおっ、と見入ってしまう魅力があった。
ただ、昨年前半ぐらいまでの彼女のステージは、せっかくお客さんが前のめりになっていても、視線を客席に向けることさえしないような、そっけなさ。初めて渋谷めぐみを見たお客さんも、そこで突き放されてしまい、積極的に応援しよう熱気は削がれていた。
どの曲でも、いつのステージでも、彼女にはそういうところがあって、お客さんの心を自らつかみにいき、自分のファンになってもらうことを、ずっとためらっていた。例えば、彼女はロックなアッパーな曲が魅力なのだが、お客さんが手拍子をしてもいいかと思っていても、彼女が手拍子を求めるような素振りを一切見せず突き放すから、みな黙って曲を聴いてしまう。結果、どこか渋谷めぐみのライブは見ている側にも消化不良感を残していた。「だって、手拍子を強制された嫌でしょう」というのが彼女の言い分だ。「分かってないな~」とは言ってきたのだが。
多分、照れとか、こだわりとか、自分のキャラとか、色々な要因があって、なかなか殻を破れずにいたのだ。その結果、歌はかなりいいのに、MCやステージングが苦手で、ライブハウスの中をさ迷う気を自分に集めることができない。ぐだぐだのMCで客がどん引きになるなんて事も多かった。彼女自身、自分の持ち味や色をはっきり打ち出すことにも迷いがあったのだろう。
それが、昨年末ぐらいから開き直った(笑)それなりの年になり、何を隠す必要があるのだろう、と悟ったのかも。すると強い。それが色々なところに現れてくる。
例えばステージドリンクだ。これまでは喉によいお茶とか、水とか、当たり前のドリンクをステージでは飲んでいた。それがビールに変わった(笑)「飲みながらなんて、とんでもない!」という人は多いとも思うが、彼女はビールなら大ジョッキで15杯飲んでもまったく平気という酒豪であり、大のビール好き。ちょっとのアルコールで「私、酔っちゃったー」とかいうような可愛げは、ことアルコールに関していえば、彼女にはない(断言!w)
これまでも、出番前にビール飲んでからの方が良いステージになることは多かった。酒が入ると声帯が腫れて声が出なくなるものだが、彼女に関してはどうも逆の様子なのだ。だとすると、後はステージで飲むことがイメージに与える影響だ。
その点も問題はないのではないか。彼女の音楽世界は、もともと酒やタバコの臭いが濃厚にする、大人の夜が舞台だ。彼女自身もそんな空気を漂わす。そのために多分、人生経験の浅い20歳前後のアーティストは彼女に話しかけずらいだろう。ただ彼女自身も、初めてのお客さんもいるライブで、堂々と自分はアルコールが似合う女だと見せることをこれまで躊躇していた。
血がビールなのに、それを隠してライブしていれば、個性も打ち出しずらいもの。そのくびきを取り払った事で、彼女のステージに、少しずつはっきりとした「渋谷めぐみ」の色がついてきた。そのことを自覚しているからこそ、昨年末にリリースした新シングル「dejavu」は構想段階から、酒をテーマにして書くと宣言していた。案の定、できあがったその曲は、「頭も心も溶かされていく魅惑のアルコール♪」がテーマそのもの。まさに、今の渋谷めぐみに最高に似合う曲になっている。
個性が際立てば際立つほど、お客さんに取捨選択されやすくなるが、それでも好きだ、という客は間違いなくファンになっていくだろう。あいつのライブは面白いからまた見にいこう、と足を運ばせるには、それほどの吸引力が必要なのだ。
大前提は、歌が上手いこと。キャラが立っていても、お客さんも音楽を聴きにライブに行く以上、耳が喜ばなければ納得できない。例外があるとすれば、相当に面白いやつで、すばらしい笑顔で、見に行けば必ず幸せな気分にしてくれるような歌い手だろうか。そうなると、もはや単なる歌手ではなく、素晴らしい表現者という位置づけになるのだろう。
渋谷めぐみ、ひとつ殻を破ったな。
1)秘密
2)Deep
3)trap
4)magic
5)Dejavu
6)ユメオチ
en. 会いたい
今夜のセットリスト、怪しい「秘密」から「ユメオチ」まで、「これが渋谷めぐみです」と名刺をきるような彩りに満ちていた。アンコールの手拍子も自然に広がった。
それだけに、アンコールで歌った、純愛を描いたバラード「会いたい」が際立つ。全く違うカラーのこの曲に、初めてのお客さんは癒されることだろう。そして、ハードな本編と対比させ、渋谷めぐみの音楽の奥の深さを感じるのではないか。
そんな風に、彼女の音楽に惚れるファンが増えていくことを、切に望んでいる。彼女にはもっと脚光を浴びてもらいたいものだ。