2011/11/27 ヒグチアイ 初ワンマン@渋谷gee-ge | 音楽偏遊

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最近見たライブや気になるアーティスト、気に入った店や場所など偏った嗜好で紹介してまいります。アーティストさんへの言及などは、あくまで私個人の見解であり、特に中傷や攻撃を意図したものではないこと、ご了解下さい。



ヒグチアイの初ワンマンは、圧巻の一言だった!彼女が今できることの全てを注ぎ込んだ集大成。色々なアーティストのワンマンを見てきたが、その中でも指折りの感動的なパフォーマンス。ひとつの伝説が生まれたことは間違いない。そして、そのライブを目撃できた我々は、幸せだ。

個人的にも、ヒグチアイがここに至る過程を見続けてきただけに、予想を越えた到達点を示した今夜の彼女に、称賛と感動を禁じえない。応援してきて、本当によかったと思わせてくれた。

また今夜初めて彼女のステージを見た人でも、彼女に無限の可能性を感じたことだろう。今後、信じられぬスピードで彼女がメジャーで活躍することになっても全くおかしくないと。そして近い将来、今夜この場に立ち会えたことは、一生の自慢になるかもしれないと。身贔屓かもしれないが、それほどのクオリティあるステージだった。

    うお座     うお座

今夜のワンマンの演出に関し、彼女は何ヵ月も前から練りに練っていた。いや、すでに昨年の秋ごろに2010年中にワンマンをすべきか悩んでいた。「40~50人規模のワンマンなら今でも一杯にできるのでは?」とふったら、「やるなら最低100人集めたいから」との答えが返ってきて面喰らった事があった。1年半以上前に、彼女の頭の中には初ワンマンをどういう形でやるかイメージができていたのだ。

そういえば、2010年の春にまだ六本木にあったstrobe cafeで彼女のライブを見たときに、MCでNHKホールを満員にした柴田淳のコンサートを見に行って感動。あの3600席を満員にするようなコンサートを、自分もいつかしたい、と目をキラキラさせながら語っていたのも思い出す。

多分、長野から東京に出てきた時にすでに高い目標を抱いていたのだろう。だが、去年の春時点の集客や持ち歌のバリエーションなどは確かに、100人規模のワンマンするには物足りなかった。本人もそのことを自覚していたようで、苛立ちを感じていた。きっと、もっと速く駆け上がる野心があったのだ。野心は向上心につながる。

2010年の誕生日は結局、自主企画ライブになった。彼女は多分、沢山の課題が見えていたのだ。そして、この1年余りの彼女の活動を見てくると、一つずつ着実に課題に挑み、クリアしていく過程だった。

まず、歌唱力や表現力が飛躍的に向上した。強いだけでなく、繊細さや強弱のメリハリなど、丁寧に的確な歌い方をできるように、毎回のライブですごく工夫し、色々挑戦していた。

声の出し方も変わった。ボーンと投げ出したり、サビにかけて一本調子でアクセルを踏み込まなくなった。その結果、かつてよくあった声割れが極めて少なくなった。裏声の統制、地声からの切り替えが効果的になってきた。そのことで、よりストレートに彼女の心が歌を通じ伝わるようになった。

バンドと合わせる挑戦も今年のテーマだった。初めて挑んだ下北沢モザイクは、バラバラだったと聞く。次の渋谷Milkywayでは、アレンジもこなれ迫力のライブだったが、強いヒグチアイの声に、バンドが張り合っていて、一体感にはとぼしかった。しかし、その後の数回のバンドライブで色々と試行しながらチューニングされ、まさに今夜、再考のえんそうにたどり着いた。

オリジナル曲もぐんとグレードアップし、曲調の幅も広がった。2011年の月刊ノマドに参加したのが望ましいタイミングだった。毎月強制的に新曲をノマドでのライブで発表しなければならぬこの企画で、彼女はいくつもの名曲を生み出した。「村田直樹と申します」みたいなお笑い系もあったが(笑)まだ音源にも入っていないそうした曲たちが、今夜のライブの要所要所をしっかり締めた。それは、今夜のセットリストを見れば明らか。古い曲で「Start」や「スターゲイズ」なども是非聞いてみたかったが、1枚目のアルバムから今夜歌ったのは「コーンスープ」のみ。きっと今夜何を歌うかの選曲でも悩んだことだろう。

そして、この1年、彼女は極めて精力的にライブをやってきた。毎月平均10本ぐらいはあったろう。色々なライブハウスに進出し、色々なアーティストと対バンするなかで、次々と彼女の歌に魅入られファンになった人が増えていった。それは間違いなく集客に現れた。今夜のgee-geは120~130人位のファンで超満員御礼に。音楽関係者を入れたら、それより多かったかもしれない。そのほとんどが、これまでどこかのライブで彼女を見て、また聞きたくなってやってきたのだ。「今日のお客さんはみんな暖かいなあ」と何度かライブ中にヒグチアイが呟いていたが、それは彼女自身が実力で集めてきたファンばかりだからに他ならない。

さらに彼女の特徴は、同業のアーティストからも高く評価されているという点だ。今夜も多数がつめかけていた。木下直子や斉藤麻里、マリエ、百瀬あざみ、だいじゅなどなど、彼・彼女らもライブ後にツイッターなどで賞賛の言葉を寄せていた。すごい、天才などなどの言葉がヒグチアイの現在を物語っていると思う。

    クマノミ     クマノミ

そんな超満員の渋谷gee-geの明りが暗くなったのは、開演の19時を10分ほど過ぎた頃。彼女の登場を待ちわびていたお客さんの意表をつき、壁に映像が映し出された。渋谷駅からパンした映像に写った彼女は、なんと今日の夕刻の姿だった。駅からgee-geまで歩く彼女をズームでとらえるカメラに、「ワンマンってどんな気持ちでやったらいいんだろう。緊張はあります。今夜は私の集大成をみんなに見せたいな」など語りかけていく。

BGMには、今夜のセットリストに入っていなかった「青い春」。周到に計画していたことが分かる。自らの若き日々を歌ったこの曲にのって、ヒグチアイが映像の中で、これまでの音楽活動を振り返っていく。「ファーストとセカンドアルバムは言われるがままに作っていた。それに甘えて、気に入らないことを人のせいにしたり、言い訳したり。だから、サードアルバムは全部自分で作ると決めた。レコーディングからPV製作から、すごく大変なことだったが、そういうすべてを知りたかった。自分でこういうのを作りたいと考えたものが形になるのは嬉しかった」

2年前の夏、全国路上ツアーを試みたが喉をこわして、歌えなかったことがとても悔しかったこと。それから、喉を整えることなど、すべてが勝負だと自覚した、など語っていく。その中で特に印象に残ったのは、「いま、自分は命を削って歌っている」という言葉だった。まさに、魂が震えるような彼女の歌は、命をかけている迫力があるからこそなのだ。

そして、もう一つ納得したのが、最初のワンマン会場に「gee-ge」を選んだくだりだった。東京に上京してから、自分は多くの人と出会ったが、その中でこのgee-geで本当に大事な出会いが沢山あったと。

初ワンマンの会場は別のところ、たとえばMilkywayでもよかったのだが、gee-geへのこだわりや感謝が強かったのだろう。そして、このワンマンは彼女にとっての恩返しでもあったと思う。いつまでも、gee-geでやってもらいたいというライブハウスの本音はあったとしても、「来年のバースデーワンマンはもっと大きなところでやれよ」とライブの最後に声をかけたgee-geブッキング担当の鉄平さんの愛情溢れるかけ声には涙が出そうだった。

    カラオケ    カラオケ

そんな暖かい応援の空気の中で、1人だけステージに上がりグランドピアノを弾き始める。彼女が選んだ1曲目は、驚きの「証」。アカペラから入るこの力強さと想いの強さをどどう、と歌い上げる大曲。この曲はとっておきでライブでもあまりやらない。歌ったとしても最後かアンコールというパターンが多い。

注目のオープニングにその「証」を選んだ。今夜のライブで彼女が「私のすべてを見せるぞ」と宣言しているようだ。強く、丁寧に、いとおしそうに、低くゆっったりと始まるこの曲を情感たっぷりに弾き語りしていく。

初のワンマンに緊張していると話していたが、全くの自然体の彼女がそこにいた。どこにも萎縮したところがなく、適度にリラックスしているから、いつにも増して声が出ている。あの太く、力強く、ソウルフルな無二の声が、ずーんと響いてくる。こいつ、肝が太いなー、と感嘆。肝が太いってことは、大成するための条件。大物の片鱗。出だしから見せ付けてくれる。

曲が終わると盛大な拍手。1曲目からこれならば、この先、今夜のワンマンはどうなっていくのか。ワクワク、ドキドキが止まらない。拍手が収まり始めたころ、水滴がピチョン、ピチョンと落ちる音響が鳴り始める。やがて、水滴音はポタッ、ポタッと数を増やし、やがてバラバラと雨粒のような音に変わっていく。

その雨の中に全員が白いワイシャツで揃えた、バンドメンバーがステージに上がっていく。ギターのヤマネーゼ、ベースの北村雄太、渋いドラマーのスガノ綱義。いつものヒグチバンドの面々だ。何度も聞いているから、彼女がバンドを背負ったときの演奏がどれだけの爆発力があるか、知っている。ここからどんな迫力のステージになるのか。さらに期待が膨らむ。

まだ2曲目だが、雨をまくらに彼女が歌う曲は決まっている。「ココロジェリーフィッシュ」だ。ちょっと前なら、必ずライブのしめに歌っていた代表曲。それを、「証」に続き早々と2曲目に。しかも、これまでのバンドライブでは、時にケンカすることが多かったバンドとピアノの音が、今夜は寄り添い、高めあっている。

今夜の終盤にどの曲を持ってくるか想像してみる。いくつもの曲が浮かぶ。この1年余の間に作ってきた曲たちだ。積み上げてきたバンドライブの経験値といい、楽曲製作といい、すべてが今夜、ここに辿り着くためのプロセスだったのだと痛感する。そう思うと、彼女が余裕を持ってステージに上がっている理由が分かる。

現在これだけ、東京のライブシーンで話題となっているヒグチアイなのに、今夜が「初」のワンマンというとみな驚く。遅すぎたくらいだ。この間、彼女は着々と準備してきたのだ。十分過ぎるくらいの準備を重ねて、今、ワンマンのステージに立ったのだ。すでに根ざした自信は、もはや揺るぎない。だから、余裕たっぷりでいられるのだろう。若いアーティストがどんどんワンマンに挑む事は、まったく悪いことだと思わないが、ヒグチアイの計画的な階段の昇り方を見て、「やられたな」と思った。

力強い「ココロジェリーフィッシュ」で、もはやファンは会場を覆いつくす彼女の世界観に飲み込まれた。そこからの怒涛の展開に、空気がどんどん濃くなっていく。その密度は増す一方だ。

4曲目「シアワセノウタ」から、コーラスも加わる。ヒグチアイが「歌える人は一緒に歌おうよ」と声がかかる。音譜I make you happy 苦しい時も I make you happy 隣にいるから I make you happy 君が笑うから I make you happy この歌をうたおう 君の後ろに足跡が 泣いた分だけついてるから いつか夢をつかむ日まで また日が昇ると信じる君に 歌い続けよう シアワセノウタ音譜 うん、力付けられる歌詞だ。

そして「君とそのまま」。抑えたトーンで始まるこの曲は、強弱の表現が実は難しい曲だなあと昔から思っていたのだが、いやー見事ビックリマーク 抑えていながら、声が染み渡る。特に途中からいきなりフォルテになる音譜本当の愛の形はマル、三角、四角~音譜からは絶唱に近い強さで歌いあげていくのだが、昔はこの終盤でよく声が割れていた。それが、今夜は一度たりとも割れなかった。間違いなく、歌が上手くなっているのだ。

   桜    桜

ここでバンドが一旦下がり、「ここからは弾き語りを少し」と話して、コーラスと二人で「サクラ」。しんみりとしたこの曲は、決して強く歌わない。それなのに、彼女の声が自分の体に寄り添ってくるよう。歌が上手い歌手は多いが、その声との距離感をこれだけ近いと感じられることは多くない。ヒグチアイの声は浸透力がすごく、その存在感が迫ってくるのだ。この「近さ」こそ、もしかしたら彼女の最大の魅力かもしれないな、などど考えてしまう。

さらにコーラスがいい。声の共鳴が心に響いてくる。必ずしも上手いコーラスではないかもしれないが、ヒグチアイの声との相性が良いのだ。それもそのはず、今夜のコーラスは彼女の実妹。何より、姉が妹がしっかりやるか暖かく見守っているような、二人の間に頻繁に行き交う視線がいい空気を作り出している。

その妹もステージを降りて、再び一人きりで歌ったのが「夏が来る前に」。長い、長い梅雨が終わって、夏が来るちょっと前に起きた出来事。ちょっと息を継ぐにちょうどよい、優しい小曲。こんな曲も彼女は作れるのかー、と月間ノマドで最初に聞いたときに思ったものだ。しかし、梅雨が終わったか分からないうちに急に暑くなって、彼女がこの曲を歌った時は「もう、夏!」という感じだったなあ、と思い出す。なんか微笑ましい。

MCで「ワンマン終わったら世界が変わるよ」と何人ものアーティストに言われと紹介。そして、「私の世界が変わるのも楽しみだけど、みなさんの世界を変えられるようなライブにできたらと思ってます」と大きなことを。本当にできたら、すごい事だ。ただ、ライブをすべて聞いた後に、このライブを聞いて益々ヒグチアイにはまる人がいるだろうと思った。もしかしたら、このライブを聞いてしまった事で仕事を投げ打って彼女を聞きにくるような人も現れるかもしれない。そうだとしたら、本当に世界を変えた事になるのだ。それなら有り得るのではと真剣に思った。

「春」「夏」ときて、彼女がここで季節巡りコーナーを持ってきたのだと気づく。とすると、この次に歌うのは、もしかしたらあの古い曲「コーンスープ」ではと予想してたら案の定、大正解。思わず手を握り締めガッツポーズ。周りは意味不明だったろうが(笑)

続いて「合鍵」。最近の自分の一番のお気に入りの曲で嬉しくなる。この曲を彼女が歌い始めたころから、なんか一皮剥けたなあとつくづく思ったものだ。運良く彼女の指使いが見える席についていたので、じっと指使いを見ていたが、彼女の小指の鍵圧の強さに目を引かれる。この曲の伴奏の随所に高い音が出てくるため、右手の小指が重要な音を叩く回数が多い気がするのだが、その音を実にしっかり響かせている。あれ、ちょっとピアノを弾いてみました、程度じゃ出せないんだよね。誰でも小指は弱いから。

これだけ強い音を小指で出せるのは、それだけ弾き込んでいるからだ。彼女の声はとても強いし、歌い方もダイナミック。それを支える鍵盤も、当然強くなければならない。声と打鍵のバランスが崩れたら、ヒグチアイの弾き語りステージの魅力は著しく減ることだろう。こんな所にも、彼女の音楽の秘密があったのだと気付く。それにしても、今夜はいろいろ気付く夜だ。さすが集大成と言うだけある。

   

弾き語りコーナーを終えて、ようやく折り返し地点に。まだ半分。いやー、内容が濃いライブだ。

ここで、ゲスト演奏者としてピアニストを呼び込む。キーボードのやっくんビックリマーク=望月やすのり君がステージに出てきてずっこけた。ヒグチアイに代わってピアノを弾くのが奴とは(笑)最近、ずっと大黒美和子のサポートをやっていて、度々見かけていた。10日ほど前には、ライブ後にけっこうぶっちゃけトークしたばかり。この宇宙人に目をつけていたとは、ヒグチアイもやるなあ(笑)

しかし、彼の演奏は華があり、大胆だが実はかなり繊細で、歌心を分かっている。彼の鍵盤は結構好きだ。そのやっくんをグランドピアノにつかせ、ヒグチアイはハンドマイクで「目の中の世界」。

こないだは、慣れぬハンドマイクに手と目のやり場に困っていたが、さて今夜はどうかと見守っていると、これが余裕で客席を見ているではないか。ステージ中央で客席に対峙したヒグチアイからは、お客さんに伝えようという気持ちが弾き語りの時より強く伝わってくる。やるなー。ハンドマイクのステージを自分のものにしている。情感込めて、このバラードをしっかりと歌い上げていく。彼女の成長には、いつも目を見張る。

またこの静かでピアノこそが見せ場のような曲を、伴奏が上手く表現していく。彼女が抑えて歌うと、ピアノのタッチも優しい。サビにかけて彼女がぐいぐいと感情を込め力強さを増すと、彼のピアノも力強さを増す。そのバランスが絶妙。やっくん、只者じゃないw

ここでバンドメンバー全員が戻ってきて「ジャーニー」。いよいよ終盤だ。ぐいぐいとテンションを上げていく。そして、今年作った曲ではもっとも激しい「黒い影」。圧倒的な迫力で、歌が迫ってくる。1年前にワンマンやっていたら、これらの曲が演奏されることは無かった。この畳み掛ける迫力あるステージは、今年だからこそなのだ。

いよいよ最後のMCだ。「東京に出てきて3年7ヶ月。長野にいる時は、東京は冷たいところと聞いていたが、こちらに来て、そう思ったことは一度もない。田舎にいるときと同じように、東京は迎えてくれた。今回のワンマンのタイトルにTOKYOと付けたのは、東京が好きだから。その気持ちを込めて『東京』」

音譜東京で生きる、決めたのはいつだったっけ 忘れていた未来は 簡単に届くものじゃないとわかってたはずだろう もう一度 前を向いて音譜

鉄平さんや、別のアーティストらが口を揃えて、この曲に共感すると話していた。東京生まれの自分には、頭で分かっても体で感じられてないのかとも思う。ただ、彼女の強い想いが、この曲にのってヒシヒシと伝わってくる。その強い決意、その心の揺れ、それでも前を向こうとする意志を。

「次の曲が最後です」と彼女が言ったときに、「ええっもう?」と本心で思った。そんな本音の声があちこちから漏れ聞こえてきた。もっと、ずっと聞いていたい。そう誰もが思える充実したライブだったのだ。

最後は「メグルキオク」。速いテンポで激しく展開するこの曲を、ステージ上の演奏者みんなが充実感たっぷりの表情で楽しそうに演奏している。ヒグチアイも最後まで余裕の笑顔で、最後まで熱唱だ。それは感動的な時間だった。激しいこの曲を歌い終えたとき、会場には地鳴りのような大拍手が鳴り響いた。これだけ内容の濃いライブを見せてくれたヒグチアイに、この日のお客さんはみな感謝と賞賛の念を抱かずにいられなかった事だろう。彼女の目にも涙………は見当たらなかった。満面の笑みをたたえ、充足感に満ちた表情だった。

いったん退いて、手拍子の中で再び帰ってきた彼女が弾いたのは、やはり「永遠のウォーカー」。みんな一緒に歌おうと、音譜歩き続けることが勝ちなんだ~ イェイイェイイェ~音譜

これが最後かと思うと惜しくて、皆大きな声で歌っていた。だが当然、これで終わるわけがない。この日は彼女の誕生日の前日。彼女も自分のバースデーに合わせてこのワンマンを企画したのだ。そして、彼女を応援し仲良いアーティストたちが今夜聞きにきているのだ。しかも、入場の際にお客さんはみんなクラッカーを渡されている。

おもむろにキーボードに移っていたやっくんが音譜Happy Birthday to you音譜と弾き始め、お客さんみんなが声を揃えて彼女を祝って歌う。この日、初めて彼女の涙腺がゆるんだ。その客席を縫って、木下直子がロウソクに火がついたバースデーケーキをもってステージへ。祝意の中で彼女が火を吹き消し、また盛大な拍手が。

「あと3時間で22歳になります。若いねとよく言われる。でも年齢に関係なく、私は常に自分に勝っていたい」と堂々とした宣言。そして、このタイミングで(笑)今夜のために準備したグッズの紹介タイムに。深海魚手ぬぐいと、higuchiai.comと記された箸。まったくユニークだ(笑)感動的なラストで客席の笑いをとってどうするんだw

そして本当のラストにもう1曲。「小さな願い」だ。長野時代から歌っていたこの曲に込めた彼女の想いは何だったのだろうか。田舎の女子高生が「小さな願い」を抱き歌い始めた17、18歳のころ。その初心に帰ろうということだったか。その願いを実現する確かな一歩をここに刻んだ事は間違いないだろう。

<セットリスト>
1)証
2)ココロジェリーフィッシュ
3)スニーカー
4)シアワセノウタ
5)君とそのまま
6)サクラ
7)夏が来る前に
8)コーンスープ
9)合鍵
10)目の中の世界
11)さよなら、愛しきひと
12)JOURNEY
13)黒い影
14)東京
15)メグルキオク
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en1 永遠のウォーカー
音譜ハッピーバースデー音譜
en2 小さな願い


「小さな願い」を歌いきり、そのまま「みんなありがとう」とステージを降りたと思ったら、慌てて引き返してきた彼女。「記念撮影を忘れてたよ~」。最後まで、笑いをとったねー。最初に配られた目の入った紙が、ここでようやく使えた(笑)お客さんにこのマスクをつけてもらいステージ奥からパチリ。不気味だろうなー。

それにしても、本当に満足感たっぷり。昨今のワンマンの中でも傑出した内容だったと思う。もちろん、来年もバースデーワンマンはやるという。その会場はもはやgee-geでは小さ過ぎることは、何日も前にSOLD OUTした今夜の様子から明らか。これから1年、これまでと同じスピードで駆け上がっていくとしたら、一気に1000人規模のステージも埋められるだろうとさえ思える。来年、彼女がどこでやるかは分からないが、O-EASTをいっぱいにする姿が今から目に浮かぶ。

どこまで行くのか、期待感をたっぷり抱かせてくれる初ワンマンだった。

「ヒグチアイ」 日本のCarol Kingと呼ばれる日が来るかもしれないね。