「Moon Romantic」@南青山・月見る君想フ
出演:矢野絢子 →保刈あかね →佐伯ユウスケ →SHUUBI
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今夜は、4人が4人ともレベルの高い弾き語りシンガーばかり。すごく楽しませてくれるだろうと思っていた。しかし、いやはや、ライブは恐いね。そして、記録に残らない、たった一度きりの出来事をその場で目撃できるのも、ライブの醍醐味。その一回、一回で勝負しなければならないミュージシャンは大変だ、と最後に思った夜だった。
そのことは後述するとして、今夜は僕が鍵盤弾き語りアーティストにはまった原因のNo.1とNo.2が揃い踏みするという豪華な顔ぶれ。他はうっちゃっても、ここに来たかった。SHUUBIと矢野絢子だ。
彼女たちが上にいると思うからこそ、他にも才能溢れる鍵盤弾きがいるはずだ、と色々なライブを見に行く気になる。そして、ヒグチアイ、いいくぼさおり、ヒナタカコ、木下直子、戸城佳南江、坂本麗衣、小林未郁、吉村かおり、廻田彩夏、などなど素敵な鍵盤ガールとの無数の出会いがあったのだと思う。
そんなレスペクトする極上アーティストであっても、時にライブの魔物に捕らわれてしまう。今夜のライブは、その点が衝撃だった。それが、モヤッとした気分として後をひいた。
今夜の一番手は、矢野絢子。
矢野さんは高知在住だが、頻繁に東京でライブしている。だから、もっと聞きに行ってても良さそうなものだが、実はかなり久し振り。何故か日程が合わない。というか、彼女がすでに揺るぎない存在だから、半年でも1年でもライブ行けなくても大丈夫と、安心してしまってるのだ。
そんな期待にたがわず、今夜もいいライブを聞かせてくれた。
彼女ほどの大物がトップで歌うのも珍しい。ここ月見るでも何年も前から、定期的にワンマンを開いており、常に成功させてきた実績もある。ただ、今夜のうちに三重へ移動しなければならず、すぐに旅立たつとのこと。本当に出演後すぐ物販の撤収を始めており、去り際にギリギリ彼女の新しいアルバム「いちばん小さな海」をゲットできた。良かった。
ライブは一番手だからか、あのとてつもなく深く激しい情念を飛散させるスタイルは押さえ目。それほどの切迫感ななく、彼女にしては随分軽やかな感じだが、それでもインパクト十分。フォーク(いやブルース?)の真髄と、それと同じぐらいの分量で他ジャンルの音楽も取り込んだ遊び心を混ぜ合わせ、とてもとてもドラマチックなピアノ弾き語りを聞かせてくれた。
最近聞いてないから、ちょっと曲名分からないんだよね。でも、どの曲も、彼女の深い恨を感じる声で歌われる歌詞が、強烈に印象に残る。この唄力は半端ない。
1)? (♪君が好きだ、これは本当♪)
2)? (♪シュッポ、シュッポ、シュッポ、シュッポ♪ 光の列車かな?)
3)Baby
4)? (♪黒い雨に打たれて、私たちは生きてゆくだけ♪)
5)ろくでなしって呼んでください
6)唄の舟
しかし、2)や3)は母ならではの曲たちだ。人間としての彼女の奥行きの深さに、ひたすら感銘を覚える。そして後半の3曲では打ちのめされた。ああ、やはり矢野絢子は健在だ。
でも本人はちょこっとしていて、目力はとても強いがかわいらしい。見た目で才能を判断してはいけない。僕は、これほど魂ののった楽曲を歌える女性アーティスト、僕はそう知らない。
2番手は保刈あかね。カホンとキーボードのサポートと共に、ブルージーにギター弾き語り。言わずとしれた横浜のSSWの星。よく横浜のライブハウスでやっているが、何故か僕が彼女を見るのは、3回連続で「月見る」だ。
そのやさぐれる一歩手前で力強く踏ん張っているような姿勢が、凛として格好よい。ステージは、穏やかで、とても率直な愛のことばが光る。こびず、カッコつけず、こんなにまっすぐラブソングを歌える女性シンガーって珍しいかも。
カッコつけるのは、悪いことではない。今夜のトリのSHUUBIは、まさに格好いいの最北端?それがおしゃれで魅力的なスタイルになっている。一方で、その歌を聴いたら保刈のことを嫌いになる奴いないんじゃないか、とその真っ直ぐさにも惹かれる。ものすごく好感。まず、最初の「ラブレター」にしてやられた。


暗くなることなく、情感たっぷりに歌う彼女のストレートな声に、やられた。
1)ラブレター
2)つながってたい
3)迷子の犬
4)朝焼けセンチメンタル
5)君の声
そして、とりわけ、最後の「君の声」が良かった。歌いだした途端にステージがぐぐっと広がりをみせ、大空いっぱいの青空の下にその思いがたゆたうよう。この曲、とても気に入った。
11月8日で26歳だそうで、おめでとうございます。
3番手は佐伯ユウスケ。
先に判った分のセットリストあげとこう。
1)?
2)君って(西野カナcover)
3)マザコン
4)つながってる親へ
5)Steppin to Stage
え、西野カナなんかカバーしているのー?と驚くだろうけど、なーんとあの曲を書いた張本人が彼、佐伯ユウスケ。そのセルフカバーを聞けたという意味では貴重……かな?でも、あんまり好きじゃなかった。
というか、そもそも誰が歌おうと、西野カナの曲を個人的には好きじゃないという事を再確認した感じ。佐伯ユウスケの曲って、軽ーいポップなんだけど、そういうの得意じゃないんだよな。いや、ポップスとしては、よくまとまっているし、演奏技術も高いのはよく判った。彼を見に来た女の子のファンも多く、盛り上がっていて、彼の出番が終わると潮が引くように消えていった。
さらに、♪ただのお母さんじゃないんだぞ、いつでも僕の見方だ♪なんて小学生のガキみたいなことをマジに歌う「マザコン」、♪お父さん、お母さん、ありがとう♪と歌う「つながってる親へ」の連続技には、もう降参。やめてくれー、と心で悲鳴を上げてしまった。ごめん、本当にマジでタイプじゃない。いや本当に申し訳ないのだが。
さあそして、オオトリは、待ってましたのSHUUBI。ファンも、初めて聞く人も、彼女のポップで繊細でおしゃれな楽曲をライブで聴いたら、心が弾まずにはいられないはず……なのだ。いつもなら。
今夜のSHUUBIは、何かの歯車が狂ったかのよう。原因など分かりようもないが、ライブのはじめの定番の


それは1曲目のアッパーな「マイシーズン」でも続く。この曲、彼女のグルーヴたっぷりの歌唱に、踊り出したくなるような曲なのだが、今夜はどこかバランスが悪くグルーヴがない。ドラムの音が強過ぎる。いや、いつもはこの強いドラムに負けずに、SHUUBIが弾み始めるのだが、今日はサポートのドラマー野口薫が空回り。彼も彼女をのせようと、力一杯叩いたのかと思うが何か絡まり合わない。どうしたんだろ。
3曲目の「宝物」。SHUUBIのライブを何度か見たことある人なら、彼女が情感たっぷりに歌うこのバラードに涙が出そうになる事を知っている。それだけ、彼女はドラマを作れるシンガーなのだ。だが、動揺しているのか、途中でピアノがついてこなくて演奏を中断。彼女がそんな事をするのを初めて見た。やり直して、歌い続けたが…。
そして多分、今夜の話題となるはずだった「雲よ月を覆ってしまえ」(だったと思う)を、野口さんがアコギを演奏し、SHUUBIがハンドマイクでステージ中央に出て歌った。個人的にはライブでこの曲を多分初めて聴けたので、嬉しかった。野口さんのアコギも初めて見たが、すごい上手い!さすがだね。
ただ、「月見る」の大きな月がステージの後ろに燦燦と輝いている前で、「覆ってしまえ」がいけなかったのか?お月様に見放された感じが、この後も続く。
この曲で少し暗く、おどろおどろしい感じにしたのを払拭するように、5曲目には明るくアップテンポな「Miss&Mr.Baby」をもってきたのだが…。途中で再び指がついてこない。イライラしている感じで、一度止めて、少し前からやり直す。しかし、またミス。「最初からやっていい?」と聞いて冒頭から弾き直すが、途中で弾き進められなくなってしまう。
「こんなことデビューしてから初めて」と泣きそう。いっそ、違う曲にしようと野口さんと相談し、別のアッパーな曲「Rider★」に。ただ、いつもは余裕たっぷりにお客さんを楽しませてくれるSHUUBIが真剣そのものの表情。
本当ならここで終わりだったのだが、「すいません。これじゃ申し訳なさ過ぎる。もう1曲いいですか」とPAに許可をもらって、これも想定外の「Dear」を歌うことに。
このバラードの終盤、お客さんと「ラーララーララララー」と声を合わせて歌うところがある。みんな、一緒に歌った。多分、普段歌わない人も歌ってくれたのではないだろうか。がんばれって心で唱えながら。SHUUBI自身も一緒にラララと歌いながら、ようやく落ち着いてきたのだろう。ラララの後の、本当に最後の最後のところだけは、いつも通りの素晴らしいSHUUBIの歌が戻ってきた。
最後は心を込めて、


1)マイーズン
2)2つの星
3)宝物 (途中でやり直す)
4)雲よ月を覆ってしまえ (ハンドマイク、gt.
5)Miss&Mr.Baby (ミスする度に止めてやり直すが、それでも続かず断念)
→代わりに「Rider★」
6)Dear
物販で声をかけたが、なんか全くまともに話できなかった。力になれなかったなあ。
ほろ苦い夜。