2011/10/12 蘭華 @四谷天窓 | 音楽偏遊

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最近見たライブや気になるアーティスト、気に入った店や場所など偏った嗜好で紹介してまいります。アーティストさんへの言及などは、あくまで私個人の見解であり、特に中傷や攻撃を意図したものではないこと、ご了解下さい。

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「花鳥香月 レモングラスの平日・六」@高田馬場・四谷天窓
出演:小倉さちこ(ライアー弾き語り) →野澤佐保子(箏・謡+三味線)
→蘭華(歌+ニ胡+ピアノ) →フルハシユミコ(馬頭琴&ダルシマー弾き語り)
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この日が来るのを、待ち焦がれてた。本当に心から。蘭華、8か月ぶりの東京ライブだ。

今夜はその慶事に相応しいオリエンタル、かつ花鳥風月、薫りかぐわしき雅やかなステージに。和魂華才で麗しき蘭華には、お似合いの舞台となった。

東京以外では夏に一度、逗子の言霊に出演したが、平日のため行けなかった。思えば、まだ寒い2月の代官山Loopで活動休止前のラストライブを見て以来で、本当に8か月間一度も彼女を見る機会は無く淋しかったよ。

ブログは更新していたので、彼女の状況はフォローできた。震災や身内の不幸、ミュージシャンとしての環境激変、被災地支援、そして制作からレコーディングへ。振り返れば、この8か月間に、もしかしたら彼女は人生最大の分岐点に直面したといっても外れてはいまい。

ブログの文章から、彼女の心が弱り、震えてる様子が伝わってくる時期もあった。できることがないのが歯痒く、ただ心の中で応援するだけというのももどかしかった。もう少し親しい間柄なら、もっと直接的に力付けられたのだか。人生において、8か月なんて一瞬に過ぎない。しかし、彼女にとって密度の濃い時間であったろう。それが、彼女の歌にどう現れているか。そこは今夜、やはり気になっていたところだ。

天窓にたどり着くと、柑橘系の心地よい香りに空間が満たされている。花鳥香月のイベントはこの香りがポイント。この日のテーマや出演者に合うようアロマテラピー空間演出家(!)の日向真晴さんが、特別に調合した香が焚かれているのだ。そして今夜のテーマは月と日本をつなぐスケールの大きいむかしばなし「竹取物語」だ。客席左後方にはハンドアロママッサージのコーナーも。そして超満員の客席には着物姿の上品なおばさま方がちらほら。僕の知っている天窓ではない。

当然、ギバラさんや見田村千晴が出てくる訳もない(笑)まずは、静かにつまびかれる竪琴のようなドイツ楽器ライアーの音色と、ゆったりとした細糸のような奏者小倉さちこさんの歌声に、ひとときの安らぎが訪れる。あたかも、かぐや姫が静かに天空から山深き村の竹林の中に舞い降りたかのようなcelestial voice。やはり天窓じゃないな、ここは(笑)

続いて純和風の琴の調べ。小倉さんがクラシック音楽をベースに演奏されたが、十七弦を奏する野澤佐保子さんは、伝統的な筝曲を演奏するかと思いきや、かなり創作的。中には「琴をやられる方はこの奏法はマネしないで下さいね」と断ってから、ギターの絃を強くはじくように琴の絃を弾くなど自由な演奏。素晴らしい技量だと思うが、個人的には伝統的な和の楽曲をその技量で迫力たっぷりに聞かせてもらいたかったかな。

テーマにそって言えば、この演奏は、竹林で拾われた赤子が、日本の田舎家ですくすくと育っていく様子を奏でたもの。和の階調にのっとりながら、健やかに養父母の愛に包まれて、徐々に華やかさを身につけていく少女時代のかぐや姫そのものといえようか。

さあ、そして折り返し。ここで匂いが変わる。前半の香りのタイトルは「天真爛漫」。オレンジ、伊予柑、甘夏、レモンといった青々しく爽やかな柑橘系が香りの中心。そこに華やかなプチグレン、優しい香りのローマンカモミール、森を想起するヒノキや杉をブレンドしたという。

後半、香りは「高嶺の花」に変わる。フローラルだが苦味があるベルガモット、同じく甘さの中に苦味をもつライム、純粋というより芳醇な甘さがあるポンカン、バラのような香りのバルマローザ、甘くて妖艶なイランイラン、さらにブラックペッパーのスパイスも。そう、魅惑的ながら容易に近づけない、成長した女性の清冽な香りで男性を惹きつける高嶺の花なのです。

その香りの中、まさに現代のかぐや姫のような魅力を湛えた蘭華が登場。素敵なステージを見せてくれた。一番後ろの座席で見ていたので、写真撮り損ねたが、お世辞でなく美しい、白地に紅の花々が咲きこぼれるチャイナドレス。あ、いや本人ももちろん美しかったですよ(笑)ちなみにこの写真は最後にみんなで「蘇州夜曲」をコラボしているときのものですが。



久しぶりに聞いた彼女の歌声は、やっぱり心を震わす細く強く艶やかなな響きに満ちていた。色々感じたけど、一番に去来した感情は懐かしさ。8か月ぶりということが第一の要因でもあるのだが、彼女の歌は昭和歌謡なんだよね。その音色はやさしく、郷愁と愛情に満ちていて、思わず涙がこぼれそうになるのだ。昭和アイドル路線の麗しき響アン奈とはまた違い、蘭華は清潔な色香漂う、まさにかぐや姫の様なのだ。

<セットリスト>
1)草原情歌
2)黄昏のビギン(カバー)
3)大切なものへ
4)白い色は恋人の色(カバー)
5)あの街を離れて
6)希望という花を

「草原情歌」を除き、すべて蘭華がライブで歌うのは音霊を除き初めての曲たち。この8か月の間に、彼女が身にまとってきた音楽がそこにあった。

それらの曲は、10月19日に蘭華が発売する新アルバム「昭和を詠う~大切なものへ~」に収録れた曲が中心。それはそれは、たおやかに、悠久の時さえ感じさせる素晴らしい楽曲たちだ。

その中で個人的にとても気に入ったのが、彼女オリジナルの新曲「大切なものへ」であり、作曲家・村松崇継さんとのコラボで生まれてきた「希望という花を」だ。

「大切なものへ」は、彼女がこの間、失った父親のことを、そして被災者への炊き出しで訪れた福島県・郡山市で出会った人のことを思い作った曲。感受性豊かな彼女が、心の深いところから絞り出してきたような心の声が、歌詞となって美しく切々と歌われていく。彼女の言葉が心に響く。

そして「希望という花を」は、まさに壮大な時の流れを感じる天平の音楽か。今の時代に必要なものは何なのか、大上段にはけっして構えていないが、じっくり聞いていると、心に寄り添うように、耳元に囁いてくるようなゾクゾク感がある。

これからの蘭華の音楽活動において、きっとこの2曲は欠くことのできない曲に育っていくだろうと、今宵、初めて聞いて思った。

こうして、また彼女が歌う姿をライブで見ることができる幸せ。今宵はそれに尽きる。そして、彼女がいよいよ、沢山の人々の上にその歌を響かせる日が近いことも、しっかり予感できたライブだった。

細かい事は、次のライブを聞いたときにでも書こうと思う。まずは、復活、そしてアルバム発売、そしてTV番組タイアップ、その他もろもろのめでたいをひとまとめにして、万感の思いでひとこと。

おめでとう。