

とにかく、これまで何十と見てきたヒグチアイのライブの中でも、間違いなく最高のステージ。ヒグチアイという、これから昇っていくだろうアーティストの歴史の中で、伝説となるだろう一夜になった。
この日は、オープニングアクトとしてソロ弾き語りで2曲、トリにヒグチアイバンドでアンコール含め8曲を演奏、堂々のパフォーマンスでお客さんを圧倒した。その他の出演アーティスト、えそら、もりきこ、麻乃の三組も今夜はみな素晴らしく、レベルの高い企画で大満足。彼らについては稿を改めることにし、まずは今夜のヒグチアイについて書きたい。
Milkywayは、スタンディングが多いロック中心のライブハウス。先日の誕生日ライブも、神山みさやMamiなどアコースティックな出演者が出る長丁場ながら、椅子は無かった。今夜は、ヒグチアイ、えそら達が、ガンガンロックしてたが着席。楽でいいんだけどね(笑)
開場前から20人近く並んでおり、開演時までに、あらかたの席が埋まる大入りに。企画は成功したようなもの。しかも、今夜は客席全体に熱気がある。顔見知りが多く、そこここで話が盛り上がっているのも、その一因だ。今夜出演の4組とも、Milkywayはホームといえないが、アットホームな雰囲気だ。
会場が暗転し、ステージのスクリーンが上がると、オープニングアクトのヒグチアイが1人キーボードの前に。挨拶して、その魅力的な深く強い声で静かに歌い始めると、会場の空気が重たくなる。みな彼女の声、存在感に惹き付けられていく。
1)青い春
2)合鍵
OAは2曲のみで、どちらも激しい曲ではない。しかし、今の彼女はこうしたスローな曲で、ピーンと張り詰めた緊張感を作り出す。エンターテイメント小説の傑作に、ページをめくる手が止まらなくなるように、曲の次の展開がハラハラ待ち遠しく、息を止めてしまう。最近、特に上手くなった構成力のたまものだ。
2曲目の「合鍵」は、前回詳しく書いたが、こちらもまさにドラマ。その歌詞にイメージが次々喚起され、リアルな女性の姿がまざまざと浮き上がってくる。
この少しエロイ男と女のドラマを、妄想しながら作詩している彼女の姿を想像し、思わずほくそ笑んでしまう、ふふふ←最近、ヒグチアイがよく使うふ×3(笑)想像力は創造力だ。恥やてらいを突き抜けないと、心を揺さぶる曲は産まれない。ヒグチアイも突き抜けてきたなあ(笑)そこ、男は苦手だから、男の曲って格好つけが多くなるんだよね。
この後、百瀬あざみのバンド「えそら」が格好良いステージをするのだが、それはのちほど。さらに、もりきこ、麻乃と初めてながら、惹き付けられる2組を経て、予告通りバンドを率いたヒグチアイの登場だ。
ギター、ベース、ドラムのバンドは、先日の下北沢Mosaicに続いて2度目。だが、今夜の演奏は重量級だ。なぜヒグチアイがgee-geやノマドでなく、Milkywayで企画なのか。それはこれだけの音をリミットなしでぶちかますためだったのか、と納得。(先に会場ありきだったろうけど)
セットリスト
1)ココロジェリーフィッシュ
2)君とそのまま
3)ジャーニー
4)崩れる音
5)さよなら愛しき人
6)東京
7)メグルキオク
en. 永遠のウォーカー
オープニングアクトは、いつもと同じソロ弾き語り。充実しているが、驚きほどではなかった。バンドの1曲目、ココロジェリーフィッシュも出だしはドラムやベースが抑えていたので、余裕持って聞いてのだが……
サビの前に一呼吸ためた所から一転、バスドラやベースの重低音が一気にズンズンズンと鳴り響き、分厚い絨毯爆撃のようなど迫力の演奏に。その音にのって、ヒグチアイの強い声が雷鳴のように叩き付けてくる。うぉー、トリハダがたつ。分厚い弾幕が一気に襲いかかってくるようだ。
後でドラムに聞いたが、「ヒグチアイのボーカルが強いから、こっちも激しくいかないと負けてしまうので」ということ。実際、あれだけ叩いて、ベースもピックで思い切り強くストロークして、アンプも音量出してるのに、彼女のボーカルは全く消えない。それどころか、楽器と声のバトルの中で、ヒグチアイのボーカルの力が、単に倍でなく二乗、三乗に増幅されていく。客席に押し寄せる声圧がすごい

PAも上手いのだろうが、むしろ、あれだけのボーカルを演出できる楽しさに興奮したのではなかろうか。絶妙に昂らせてくれる、いい音が届く。
アップテンポなアレンジの「ジャーニー」「君とそのまま」で、バンドとヒグチアイの相性の良さを思い知る。何でいままでバンドやってこなかったのか。その大迫力のライブに、興奮が抑えられない。それは自分だけでなく、会場中から激しい手拍子や声援、ヒューヒューと合いの手が広がる。ブラボー

MCで、長野から東京に出てきた年、大学1年の5月にたいへんショックな事があり、思い悩んだ、と話してその時に作った「崩れる音」を演奏。音の絨毯爆撃は鳴りを潜め、逆に重苦しいくらい痛切な彼女のボーカルが、闇の中から立ち上がってくる。声にスポットライトが当たるよう。
「東京」がまた、しっとりと情感たっぷりに歌うものだから、涙が出そうになる。自分は東京生まれだから、地方から出てきた若者の憧憬や焦燥を描くこの曲で、何かを追体験するわけではない。それなのに、これだけ感動するのだから、ヒグチアイ恐るべしだ。そして、彼女と同様の感慨を抱き上京してきた人たちが、この曲に心を打たれるだろうことは想像に難くない。
ラストは最近の定番「メグルキオク」だ。再びバンドの分厚い演奏にのって、ヒグチアイの大進撃が始まる。力強い興奮が広がる

ヒグチアイもまた、様々な思い出と想いを回想し、この曲で区切りをつけることで、スタートラインに立つ決意を示したのではないか。とにかく、トークのテンションはいつもと変わらずローギアだったが、演奏はかなりハイ。歌っている彼女自身が一番楽しそう。まさに飛び散る汗も美しい風情だ。
嵐のアンコール求める拍手を受けて、歌った曲はやはり「永遠のウォーカー」。曲前に「皆さん、ここまでどうやって来ました?歩いてですよね」というベタなまくらはご愛嬌。前からこの曲はバンドで聞きたいと思っていたが、今夜の演奏の疾走感たるや、ターボ付の爆撃機のよう(笑)いやー、盛り上がったなあ。
今夜はどの曲も、トリハダがたつような素晴らしい演奏。ここまで来たんだとの感慨を禁じ得ない。
これまで、やるなら大きな箱を一杯にしてやりたいと、留保してきたワンマンの開催。ライブ後に「次はワンマンだね?」と尋ねたら、大きく頷いた。その目は興奮と自信に満ちていた。いよいよ時が来たんだね。遠からず、何らかの動きがあるだろう。日程は年末かな?
今夜のライブを見て、もはや一足飛びに武道館やドームでのワンマンできるのでは、とさえ感じたのは自分だけではないだろう。とにかく音楽のスケールが、最早小さいライブハウスでは収まりきらないことを証明した夜だった。
ヒグチアイの今後に、こうご期待あれ
