2011/6/29 見田村千晴@7thFloor~ヒグチアイ@strobe | 音楽偏遊

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久し振りに7th Floor@渋谷へ。見田村千晴が2番手、19時台と早い出演なので、北参道ストロボカフェでトリを努めるヒグチアイとハシゴ可能に。ラッキーチョキ

当初、この日は夜も仕事の予定だったので、木下直子ワンマン@Nomadを見送った。後から空いたが、チケットはすでにSold Out。まあ、結果として贅沢にヒグチハルdayにできたので良しとしよう。

そういう経緯で、19時に七階へ。トップバッター、北川友紀の演奏が始まった所に滑り込む。

彼女は7月28日に、ここ七階でワンマンを控えており、宣伝も含め意欲的なステージ。何曲かは知っていて、特にラストに歌った「聞こえない」は、響いてくるものがある。

1)さめない夢
2)こんな晴れた日曜の朝に
3)だからもう一度、魔法をかけてよ
4)恋桜
5)聞こえない

ただ、5)を除くと、全体的に抑揚が少なく、同じようなテンポのミドルバラードな恋愛ソングが多い。もう少しメロディラインにキャッチーなサビや、緩急の違いなどつけて、曲ごとに際立つ個性があると、見ていて楽しいのだが。歌詞も、テーマをより普遍的に、より幅広く、あるいはより深淵にするとかして、ドキリとかドキドキとか、様々な感情を喚起して欲しい。

だってもったいないじゃないですか。歌唱力もピアノ伴奏も、ルックスも性格も悪くないのだから。七階でピアノ弾き語りというと、廻田彩夏を思い出す。彼女は北川友紀とほぼ同世代で恋愛ソングも歌っていたが、年輩でも男性でも共感できたし、引き込まれた。ちょっとした仕掛けやフレーズ、手振りを歌に盛り込み、惹き付けた。また、恋愛ソングだけでなく、世界平和を希求するスケールの大きい楽曲も魅力的だった。何より弾ける元気さに、力付けられたものだ。同じであれと言う気はさらさらないが、北川友紀はまだまだ出しきってないと思う。


続いて見田村千晴の登場。今夜はソロでギター弾き語りだ。

いつもの張り詰めた表情で、決然とステージに立つ姿が美しい。かわいげは、微塵もない(笑)のだが、それでこそサムライ(笑)その姿を見ているだけで、ピーンと緊張感と期待が高まっていく。

そして歌い出せば、まさに正統派シンガーソングライターらしい自信と主張に満ちている。キリリとした、深くきれいなボーカルが、見事な歌唱力と切れ味、技が光るギターにのって突き刺さる。うーん、昔より力が抜けてきて、その余裕が逆に凄味を増している感じだ。さらっと憎いことやってる。

セットリスト
1)ハルジオン
2)ラプソディ
3)始まり
4)歩いて
5)青

6月22日にリリースしたアルバム「いつかのように」の収録曲から5曲。といっても、最後の「青」以外はこれまでもライブでずっと歌ってきた馴染み深い曲ばかり。

ほのぼのとハルジオン、ガット利かせたギターが印象的なラプソディを、抑えるところは抑えつつ、出すところは朗々と歌いあげ、強く心に響かせて見事。

続く「始まり」の曲紹介で、タワレコオーディションで上位3人に食い込み、この曲をタワレコの全面サポートでシングルリリースした今年3月から、「私の周りで、この曲の意味が変わってきた」と話したのが印象深かった。

それにつけても、「青」がいい。CD聞けば聞くほど、じわじわっとはまっていく今日この頃。こうして生で聞くと、彼女の息遣いや表情も加わり、臨場感があって嬉しい。アルバムもかなり良いが、やはり見田村千晴はライブがいい。

七階ではこの後に出演予定の保刈あかねも見たかったのだが断念して、移動。副都心線に乗り僅か4分で北参道だ。


ストロボカフェは、少々押しており、ヒグチアイの前の前の出演者から聞けた。が、汗がなかなか引かない(笑)夜でも蒸す外を、早足で移動するとね。もう少し早ければ、郁彩withまあびぃもきけたのだが、それには間に合わず残念。

さあ、そしてトリのヒグチアイだ。

ポロロンと演奏前に鳴らしたピアノの音の粒が揃っている。ストロボ自慢のグランドだけあるし、ヒグチアイのコンディションも良さそう。いい演奏になりそうな予感。

1)青い春
2)ココロジェリーフィッシュ
3)合鍵
4)東京
5)巡る記憶

今夜も叩きつけるような演奏は抑えて、柔らかいピアノから入り、優しく歌い出す。まあ、優しいといってもヒグチアイだから、ドスが効いている……もとい、迫力があるのだが(笑)ああ、あんな太く重たい声でカラオケ歌って、周りをビビらせたいものだ。人の歌など聞かず酒飲んで騒いでる連中をも、有無を言わさず、歌に聞き入らせられるだろうに。

アーティストとしては、これほど武器となる声はない。持ち前の音楽センスから生まれる迫力ある楽曲と、打楽器と弦楽器の側面を併せ持つピアノの特性を存分に引き出す怒涛のパッセージ。それを弾きこなしながら、あれだけ力を込めて歌える力業。なにより疾走するボーカルのグルーヴ。ヒグチアイも、見田村千晴と違った意味で、一つの傑作だな。まだ未熟だけど。

まさにそんな曲「ココロジェリーフィッシュ」の後にはバラード。最近は、静かに静かに、情感をたたえながら表現する抑えた曲に長足の上達が見られ、表現の幅がグンと広がってきた。「サクラ」とか、今夜も歌った「東京」とか、抑制したAメロからサビへ徐々に力が入っていく感じ、ぐっとくる。

なにより、本日のポイントは「合鍵」だ。前回のgee-geライブで披露した新曲だが、その歌詞がまた意味深でいい。「好きな人ができたんだ」と裸で涙を流しながら言う男って何者だ(笑)さっさと合鍵をポストに入れさせ、追い出せ!

昔、1994年ごろに大沢誉志幸の「そして僕は途方に暮れる」という曲が流行った。よくカラオケで歌ったものだが、「合鍵」聞くと、その曲を思い出す。ただ、「そして僕は~」では、同棲していた彼女が部屋を出ていくことを、男は女々しく美化する。きれいな思い出だったよ、ガンバレよ、でも何故なんだ、僕は途方に暮れてるよ……と。

さらに遡ると、沢田研二は「勝手にしやがれ」で音符出ていってくれ~、あーあ、あーあ、ああああー音符と最後まで男が格好付けて、ナルシズムに浸っていた。あれも、まだ男が強い時代、男が主役の時代を映していたのだろうな。

一方、平成生まれの女性アーティストにかかると、出ていくのは男の方。情けない姿を晒すのも男なのだ。

去った後に、少しの感傷の中でセミダブルベッドに1人倒れ込むが、これでやっと1人で熟睡できるわ、とサバサバしている感じ。後を引かず立ち上がる彼女の姿が見えてくる――あくまで、「合鍵」を聞きながら、僕の頭の中で展開したストーリーですが(笑)

「合鍵」は、ヒグチアイの新境地を開く歌になりそうだな。

そう、この日、彼女からちょっとした告知が。7月5日の彼女企画ライブ@渋谷ミルキーウェイで、その日限りの2曲入り音源を出すらしい。中身は未定らしいが、ちょっと楽しみ。バンドでも演奏するってよ。