2011/6/7 Mint Julep、松本佳奈、Brother@鈴ん小屋 | 音楽偏遊

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最近見たライブや気になるアーティスト、気に入った店や場所など偏った嗜好で紹介してまいります。アーティストさんへの言及などは、あくまで私個人の見解であり、特に中傷や攻撃を意図したものではないこと、ご了解下さい。

火曜の夜、向かったのは池袋・鈴ん小屋。こじんまりしたアットホームなライブハウスで、靴を脱いで上がるところから友達の家に遊びに行くような感覚になる。そんな空間で聞くMint Julepは、さぞ心地好いことだろう、と楽しみにしていた。

しかし、他の出演者は見たことない。当たりかハズレか?そんな未知との遭遇もワクワクするものだ。勿論、小さい箱で知らないアーティストとくれば、ハズレの確率が高い。人気があって集客力があれば、より大きいライブハウス中心に活動するようになるからね。

ところが今夜は大当たり。新たに出会ったミント以外の2組が、共に素晴らしく、心底楽しい一夜になった。その2組とは、柏中心に活動しているという男性デュオ、BROTHERと女性鍵盤弾き語りの松本佳奈だ。特に松本佳奈はストライク!その名前は時々見かけていたが、アニソン系の誰かと勘違いしてた。本物は、まだこんなに素敵な鍵盤女性シンガーがいたのかという驚きだった。

まずはBROTHERの登場だ。

2人がツインギターを掻き鳴らし、声を揃えて歌い始めた途端、鈴ん小屋は清流と青い山並みが広がる田園のような空間に。強く、遠く響く2人のコーラスは、粗野だがエネルギーに満ち、高い音までのびのびと広がっていく。明るく前向きだ。

1人は、茶色(というか金?)の短髪に、Tシャツ&デニムのドヤ顔ガーンちょっと危ない感じだが、実は青春そのものといったいい奴で、意外に丁寧に高音まで歌う。もう1人は黒い長髪に眼鏡。一見オタクっぽく見えるが、その声は太く強く、魅力的。その2つの声が絡み合い、ハモり、クロスオーバーする楽曲はダイナミックで聞かせる。こいつらやるで。

1)Soul
2)朝陽
3)あいのうた
4)春夏秋冬
5)愛しい人


続いて松本佳奈。髪をバッサリ45cm切ったとかで、黒髪のベリベリショート。皆に少年にしか見えないとからかわれていたが、その頭はやないけいこに似ていて個人的には好きかも。

そして彼女の音楽がまた暖かい!鈴ん小屋のアップライトピアノをポロポロ叩いて紡ぎ出す柔らかなメロディに、優しいことばが心をほんわか暖かくしてくれる。ああ、自分の中にこんな暖かさあったんだー、と気付かせてくれる。

でも、決して彼女の声も、伴奏も、歌詞もヤワじゃない。矢野絢子のようなピアノと決然とした声。小林未郁のような柔らかな外面の中に潜めた、鋭い人間観察と言葉使いの巧みさ。一方で、松本佳奈の指向性は明るく柔らかく、お気に入りの帽子のよう。そこがクギのような未郁さん、ナタのような絢子さんと、印象が刃物系の2人と対象的なのだ。

セットリスト
1)おいしい晩ごはん
2)ばかみたい
3)マザコン
4)逢いにいくよ
5)Strings
6)How was your day?
7)昼下がり、旅に出る

この日は、サポートのギターにミントの奥野君、さらにブルースハープの達人、居相さんを迎えスリーピース演奏。さはさりながら、ギターもハーモニカも控え目で、ピアノを弾き語りする姫の引き立て役に徹している。でも、主役はそのピアノかと思いきや勘違い。本当の主役は彼女からほとばしる歌詞の方だった。歌われる一つ一つの言葉が、生き物のように呼吸して、もぞもぞっと空気をつたい、耳の穴から頭の中にしのびこんでくる。うひゃー、すげえ。英語の歌詞でもそうなんだからすごい。

もぞもぞは体内に入ると、じわじわっと微熱を発っし、こりをほぐしてくれる。言葉を生かす術をよく分かっているんだな。ちょっと前に、ある女優さんが絵本を読み語りするのを聞いたときの感覚と同じ。優しい言葉が、呼吸して迫ってくる。

こんないいアーティストを知らなかったなんて、今まで損した気分パンチ!でも、どこかで聞いたことあるような気もするから不思議。彼女のしみじみとした歌はライブでも、音源でもきっと心に沁みるはず。とりあえず、すぐに行けるライブが当面ないので、彼女の「Strings」というCDを聞いて暮らすか(笑)

ちなみに、どの曲も素敵だったのだが、松本佳奈を初体験した「おいしい晩ごはん」のほんわか感が、僕の彼女の第一印象になったのは間違いない。よくよく聞けば、stringsやデュラデュラ、How was your day?みたいな曲を最初に聴いていたら、違う印象だったかもしれないと思う。つまり次のライブではまた違う印象を楽しめるかもしれない訳で、益々楽しみ。


さあ、そしてオオトリのMint Julepだ。

アコギの奥野くんが4年ぐらい前から松本佳奈のサポートを始めたことから、実はかつてはよく共演しており、2組は仲良しとのこと。同年齢でもあり、ボーカル大和田慧によれば松本佳奈とは「いつも刺激を受ける友であり、ライバル」な関係とか。音楽の指向性は全く違うが、そういう存在っていいね。

松本佳奈の演奏で鈴ん小屋内は、ほどよい緊張感と音楽を心から楽しもうという暖かい空気に満ちた。こういう時って、すごく良い演奏が聴けることが多い。慧ちゃんや奥野君、ピアノの大関麻子ちゃん、3人ともが気負わずいい感じでステージに上がってきた。ほぐれてる。そして、慧ちゃんの目には力がある。いいステージになりそうだなあと予感。

そして始まったアシタノメロディの前奏。おーちゃんのピアノに気分がウキウキしてくる。慧ちゃんの声の入りがやや抑え目で、この先の大きな展開を予想させる。さすが新CD録りを終えてからの2週間、沖縄・宮古島で遊び呆け(笑)、北海道でグルメ三昧してきただけある。気が充足している感じ。

それにしても、南から北へすごい移動距離。そして「旅の良いところは、何より出会い。出会うことで自分も成長する。沢山の出会いで、自分も何か変わった。東京にいたって日々出会いを大切にしていけば、成長できるんだと思う」との言葉はまさに真実。ただ惰性の生活をしていたのでは、自分を引き上げることはできないよな。

そんな、ちょびっと成長したMint Julepのセットリストは以下。
1)アシタノメロディ
2)river (with blues harp居相さん)
3)あいのことば
4)Game
5)ハイシーズン
en. Wild Flower (with blues harp居相さん)

松本佳奈のサポートだった居相さんをお借りして歌った「river」が秀逸ビックリマーク居相さんのハープもじわっと心に沁みる素晴らしい音色だったが、それに加えて慧ちゃんの抑えたボーカルが、個人的にはちょっとやばかった。もともと大好きな1曲だが、今夜はこの曲が特に響いた。

鈴ん小屋が、裸足であがるリビングルームのような小空間で、アコースティックということもあって、今夜のMint Julepの演奏は全体的に抑えたものだったが、それだけにボーカルに余裕があって、バンドで派手に演奏した前回聞いた月見る君想フのライブより、細やかな表現力に心憎さがあった。

松本佳奈に負けずに、歌詞を大切に伝えようとする今夜の慧ちゃんの伝える力もより増している感じ。そして、夏を意識した新アルバムを製作したばかりということが、彼女たちの演奏に青空やほとばしる汗を喚起させる明るさと元気さがあって、聞いていて楽しい。「ハイシーズン」は盛り上がるいい曲だ。

お客さんもみんな楽しんだのは間違いない。すごい熱烈にアンコールの手拍子が。今夜のような演奏なら、もっともっと聞きたいよね。本当の最後は、再び居相さんを呼び込んで、Wild Flower。

この曲はまさにMintJulepの世界観そのもので、大好きな1曲だったから嬉しくなる。音譜たどり着いた先に何もなかったとしても、小さな花を一つ咲かそう たった一匹の蜜蜂が風にのって また花を咲かすよ そして世界は必ず君に行き着く きっと後悔はない音譜 彼女たちが描き出す世界観は自然に溢れ、希望に満ちていて、前向きなのだ。そうでなきゃMint Julepじゃない。

だから7月6日発売の新アルバムがとっても楽しみ。そのタイトルは「Mint Julep」おお、そのままじゃないか。つまり、それだけ自分たちそのものを描き出せたと納得の1枚だということだ。力に満ちた大きな自然と夏--水しぶきがはじけるビーチに間違いなくこのアルバムは合ってるよ。楽しみだあ。

いやいや、今夜は本当に楽しい一夜だった。3組に感謝。