2011/6/2 いいくぼさおりワンマン @恵比寿天窓.switch | 音楽偏遊

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最近見たライブや気になるアーティスト、気に入った店や場所など偏った嗜好で紹介してまいります。アーティストさんへの言及などは、あくまで私個人の見解であり、特に中傷や攻撃を意図したものではないこと、ご了解下さい。

今夜は良い鍵盤弾き語りシンガーが、各地で競演。とりわけ伊藤サチコ、横田良子、いいくぼさおりの3人が代官山や東新宿で出ていて悩ましかった。

結局、長い西日本ツアーを終えて、久し振りに東京でワンマンを開くいいくぼさおりを見に、恵比寿天窓スイッチへ。明日もここに来ること決まってるのだけどね。

久し振りのいいくぼさおりは、やはり素晴らしかった。確かに今夜は疲れていたのか、体調不良なのか、いつものような肩肘張った感や凄味は無かったが、少し力が抜けた自由さがあった。何よりどんな体調でも嗄れない(例外話は後述)スーパー声帯から生まれるきれいな声は、今夜も伸びやかで縦横無尽に響いていた。

その声と超絶ピアノ伴奏で、アップテンポな曲では聞く者を圧倒、繊細過ぎるほどの表現力でバラードでは涙しそうになる。ピエロのようなコミカルさで笑いもとるマルチタレントぶり。ステージ上で発揮するプロ意識の高さの前では、もはや体調うんぬんは気にもならない。

よく体調の悪さを隠さず、低いテンションでライブを演るアーティストもいるが、いいくぼさおりを見習って欲しいものだ。ましてや前夜に酒を飲み過ぎて、声が出ないなんてのはダメだよ(笑)

その彼女のワンマンだから、最後まで聞いて満足しない訳がない。セットリスト↓
1)強がる気持ち、会いたい気持ち(新曲)
2)ベランダでボー
3)愛を灯すんだ
4)
5)パノラマ
6)女子力
7)風がかわる
8)告白
9)ラブソング
10)テトリス
11)眠れぬ夜のシンフォニー
12)愛が暗いね
13)叫び
14)ケセラセラ
15)最後に笑おう(グルグルマイク付き→大成功)
16)CHU
17)ひまわり
en.1 歯車
en.2 ピアノ


冒頭で言ったように、スタートは力が抜けたファミリアなステージだったが、文字通り「風が変わる」辺りから流れが変わり、歌に力が入ってくる。あくまで聞く側の主観だけどね。

そして「眠れぬ~」から「愛がくらいね」「叫び」と立て続けに歌った辺りは、もう圧巻。特に「叫び」はいつ聞いても、心に響く感動的なマスターピース。後世に残し、悩める多くの人たちに聞いて貰いたいくらいだ。

それを語るエピソードが、今夜のMCにもあった。今回の西日本ツアー報告の一つだが、大阪のアーケードでやったフリーライブでこの曲を聞いた人からその夜、メールが入ったという。その人は何か大きな挫折を味わい、まさに死のうと考えていたが、「叫び」を聞いて、生きてみることにした――そんな内容だったという。

音符失敗ばかり やることなすこと どうにもならない
大殺界なら確か去年に終わったはずでしょう
こんなはずじゃなかった
そんなつもりも無くて
うつむいたなら終わってしまいそう
だからそれでも空を見上げ
ゆっくり深呼吸をして辺りを見回す
いったい何が幸せの形か考えてみる
~略~
まだまだ少なくとも百回くらいは
悲しみに打ちのめされるかもしれないけど
生きてく限り数えきれないほどの
喜びに満ち溢れるはずだから
喜びに満ち溢れるはずだから音符 (叫び)

いいくぼ本人はまだ、「自分が何のために音楽をやっているのか、今でも悩んでいる」から、私の曲で救われたと言われてもピンとこない、重い……と相変わらずの煮え切らなさ。まあ、その悩み現在進行形のところが、楽曲に憂愁を加え、心に響くわけだから、大いに悩んで、もっともっと大きくなって欲しいが。

いいくぼさおりと保阪さんのタッグが産み出すバラードは、それは美しく、かつメッセージ性の強い楽曲がズラリと並ぶ。その中でも、この「叫び」や「風が変わる」「ひまわり」「ピアノ」は素晴らしい作品だ。今夜も明るく楽しい「ベランダでボー」や「最後に笑おう」でお客さんを笑わせながら、バラードで会場を本当にしんみりとさせた。

会場の空気は完全に彼女のもので、その曲調に一喜一憂する。ライブハウス側もこんなライブやって貰えると、きっと嬉しいだろう。スイッチにしては、力作のライティングが随所にあり(特に眠れぬ夜のシンフォニーが良かった)、共にステージを作り上げようとする意欲が前面に出ていた。

今、いいくぼさおりに期待したいのは、さらなるメタモーフォシス。枠を破る新たな境地の開拓だ。その為には、保P以外の音楽プロデューサーと組んで、新たな化学反応を起こしてみるのもいい。

当然、いいくぼさおり達も分かっているのだろう。MCで今秋に発売する予定のセカンドアルバムに触れ、「戦ってみたい。戦うのは怖いが、新しい景色が見えると思うから」と力強く宣言した。うわーっ。彼女がここまで名言するということは、本当に新たな取り組みに挑むのだろう。

ワクワクする。秋にどんなアルバムを引っ提げて、どんなライブを見せてくれるか。今から楽しみで仕方ない。