今夜のヒグチアイは、素晴らしかった。渋谷gee-geに今夜来られて良かった。本当にそう思えるライブだった。
鉄平さん企画「鉄ロックフェスティバル!!!vol.44」は、月曜夜というのになかなか面白いブッキング。餃子犬 →加藤はるか →青山亮 →EMILY →TAKA-Bee →ヒグチアイという出番順で6組だったが、今夜はヒグチアイと久し振りのEMILYを見に行った。
そして、トリを努めたヒグチアイの圧巻のステージの余韻に今だに浸っている。
満員とはいかない客席だったが、ヒグチアイの最後の曲が終わると、とても熱い満場の拍手がアンコールを求めて鳴り響いた。鉄ロックではアンコールをやらないことを知っているお客さんも多かったが、それでも自分を含め、あれだけの演奏を聴いてしまったら、アンコール欲するよ。鉄平さんも同じ気持ちのはず。じゃあ、ということで快くヒグチアイをステージに帰し、異例のアンコール。それほど、いいステージだったのだ。
彼女の歌の良さはよく分かっているが、何というか今夜はとても音が澄んでいた。目をくらます色々な些事が取り払われ、淀みや曇りないステージに、ヒグチアイの音楽がビビッドに映し出されたかのよう。彼女自身が、気負いや雑念なく、意識することなく集中しているように見えた。
その透明感は、長いアカペラから始まる「証」を彼女が歌い始めた瞬間から広がった。ざわついていた会場が、その力強く訴えかける彼女のボーカルに静まり返る。声の調子も良いのか、ものすごく迫力の瞬間も、柔らかいながらも緊張感ある弱音も、丁寧にきれいに歌い綴るにつれ、お客さんの集中力も高まっていく。
「証」の壮大なスケール感は、gee-geの空間を大きく押し広げていく。その広がりの中に流れた次の「ココロジェリーフィッシュ」の前奏は、鍵盤の響きがいつになくくっきりとドラマを形づくっていく。この曲の前奏はライブごとに違うアレンジを試行してきたが、ついにこのレベルに達したのかと、歌の前にすでに感動。そして、歌詞の一言ひとこと、センテンスの一つ一つの説得力が、歌い始めたころのココロジェリーフィッシュより格段に増している。
冒頭のパワフルな2曲で圧倒した後の、バラード「崩れる音」の効果的なピアニッシモ。そして、仙台の加藤はるかや鹿児島のEMILYの後だっただけに尚更、地方出身者の抱く大都会への想いを描いた「東京」での共感が深まること。
不思議なことに、何かいろいろな要素がうまく結実するライブが時折あるんだよね。
セットリスト
1)証
2)ココロジェリーフィッシュ
3)崩れる音
4)東京
5)巡る記憶
en. 青い春
本人も東京を歌い終わったところで言ったが、これだけ懇親のライブなのに「あっという間」という感覚。次で最後、と言われた時の残念感といったらない。
MCは相変わらずの暗さだが、印象に残る。教科書で永久欠番の選手は亡くなっても、永遠に語り継がれる。そんなまくらを話して歌った最後の「巡る記憶」も劇的で、静かな最初のワンコーラスから尻上がりに、畳み掛けていくエンディングへ、息をつく間もない感じ。
そう、こんなヒグチアイをいつも見たいんだよねえ。
盛大な拍手と、鉄平さんの思い入れでアンコール。歌ったのは高校時代を思い返して作ったという「青い春」。この歌詞が、尾崎豊のようで格好よい。その反抗心溢れる詩は、下手に歌うととても嘘っぽくなりそう。ところが、ヒグチアイにはとても説得力がある。歌詞に普遍性があったのだ。タイトルはそのまま過ぎて芸が無いが(笑)、この曲も十分、彼女の代表曲の仲間入りだな。
人によっては気になる細部があるとは思う。ヒグチアイはかなり個性が強いからね。でも、これだけの迫真性とドラマを描ける若手女性アーティストはそういない。まだ21歳だから恐れいる。だから目が離せないんだよな。
今夜はもう一人、同じくピアノ弾き語りのEMILYが聞けたのも嬉しかった。多分、最後に彼女の歌を聞いたのが渋谷セルリアンタワーにあるJZBratでのワンマンだった。その後、故郷の鹿児島に帰ってしまい、時折東京でやるライブはなかなか予定が合わずにいたのだ。そのJZbratのライブは、それこそ今夜のヒグチアイのように、素晴らしく感動的だった。一度でもあの感動を味わってしまったら、もう生涯、彼女のファンになるしかないとさえ言えよう。
彼女は今夜、「ぶっこみアクト」なるショート出番で3曲しか歌えなかったし、のどの調子がよくないようで、声が最初は掠れ気味。それでも、3曲目に歌った「青い地球」では、あの時の感動がよみがえってきた。
1)花
2)帰らない
3)青い地球
そもそも、今夜は「花」が聞きたかった。彼女の歌はあまり音源になっていないこともあり、あの名曲が聞きたくて聞きたくて仕方なかったのだ。ちょっと声がかすれて、今夜は残念だったけど、あの日のライブの様子を思い出して、勝手に胸を熱くした。その模様は写真でyou tubeに上がってるけどね。
http://youtu.be/ZXrVrtfKiZs
彼女にジャズのスタンダードとか歌わせると、本当に心に沁みる。曲に丁寧に、大切に心をのせていることが伝わってくるのだ。そんな彼女のスタイルが、この「花」にはよく現れている。
彼女ももっと、東京でライブして欲しい一人だなあ。火曜夜にnavi cafeでワンマンやるがそちらには行けないのが残念。7月にまた東京でやるので、その時が楽しみだ。
この日は他に2人の女性に挟まれて、ラス前に登場した男性アコギ+ボーカルのTAKA-Beeが、また良かった。向井理によく似たルックスで、キマグレンとミスチルを足して割ったような楽曲とボーカル。今夜はプロのエレキギターとドラムのサポートを得ていたこともあり、音がとても豊かで、グルーヴもたっぷり。基本はアコースティックな楽曲なのだが、体が自然に揺れてしまう楽しさ。彼はいいですよ。
この最後の3人がとても良く、個人的には最高に楽しい夜に。それにしてもやはり、ヒグチアイはいい。