2011/5/19 龍之介 大黒美和子 松千@渋谷クロコダイル | 音楽偏遊

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最近見たライブや気になるアーティスト、気に入った店や場所など偏った嗜好で紹介してまいります。アーティストさんへの言及などは、あくまで私個人の見解であり、特に中傷や攻撃を意図したものではないこと、ご了解下さい。

ある意味、昨日以上にどのライブ行くか悩んだ今夜。

最初は前夜の余韻を引きずって、連夜の月見るでCittYを見るつもりだった。でもちょっと調べてファーストチョイスは、渋谷PLUGのジルデコ&ルンヒャン、リングという魅惑的な歌姫ライブに。もう少しネットをさ迷うと、お気に入りの靴を履いてcossami@北参道ストロボ~ミルキータンジェリン@代々木ザーザズーのはしごが面白そうにみえてきて方針を変更。その気になっていたのだが…(笑)

そこに一本のメール。読んで、みたび気が変わり渋谷クロコダイルへ。我ながら移り気。でも、これが大正解。他のライブも良かったと思うけど、今夜、クロコダイルで得た新しい衝撃は、多分他では体験できなかったと思う。

一番手は松千。男女ユニットだ。

これがブルージーで、ソウルフルで、ちょっと黒くて、島唄も入った感じ(笑)で、ええ感じなのです。ボーカルの花田千草のおっきな体から飛び出す元気でパワフルで伸びやかな声は日本人離れしていて、スケールが大きい。沁みるいい声なのだ。

そしてちっちゃいアコースティックギターの松本健太が、聞かせる超絶のテク!このギターだけでも価値あり。押尾コータロみたいにギターインストだけでワクワクする。

そんな2人が織り成す音楽の楽しいことったら。色々なところに、出会えば嬉しくなるようなアーティストがいるものです。

それと、どうも僕は男女ユニット好きなんだな。例えば、前夜に聞いたIndigo Blueを筆頭に、Sing2Youやアキドリ、BlueTrike、iora、かつてのBlue Blue、そしてEpocholなど、みんな一癖も二癖もある個性がキラキラしていて、引き込まれる。女性だけのDUOも好きだが、声質もフェロモンも違う男女の掛け合いは、どこか魅惑的だ。

そんな訳で松千も、新たにお気に入りリストに加わった。

2番手が大黒美和子。

松千の後を受け、しかも渋谷クロコダイルという米国南部の雰囲気を漂わす老舗の箱。彼女の繊細でフォークに近い暗い歌が、浮いてしまわないか心配になる。が、彼女もしっかり考えていたのだろう。あの大黒美和子が、この日はエレキが入るバンドを従えてきた(笑)

1)僕に
2)透明な私
3)初恋
4)真夏のエクスタシー(風味堂)
5)行方知レズ
6)コール
7)スカー
8)やさしい星
まさかのアンコール→洋楽 Just missed the train(Trine Reinカバー)

そして、彼女の繊細と思われたボーカルが決してギンギンのロック伴奏に負けていないのだ。ボーカル経験数年程度の歌手だと、声帯がやわだから音に負けてしまうか、声を張り上げることでピッチが無茶苦茶になりがち。よくロックバンドの下手な女性ボーカルが陥っている罠だ。それが格好いいと本人たちは思っているかもしれないが、それが成功している例は百に一つ程度。ほとんどは「イマイチだな」と思わ、ファンを一定以上に増やせずに終わるのだ。勿論、メジャーも遠い道だ。

ところが大黒美和子は、どんなに強く声を出していても、声は割れずピッチも安定している。音が狂わないのだ。そして、音に負けずよく通る。それはPAでマイクボリュームを上げているということだけではない。彼女の声帯が、発声がしっかりしているからだ。修練の賜物に違いない。

彼女は10代で演歌歌手としてメジャーデビューし、10年間演歌を歌ってきた。オリコンにもランクインする、それなりに知られた存在だった。だが一昨年、意を決して演歌とその業界に別れをつげ、ポップスのシンガーソングライターとして、インディーズとして新たな歌人生を歩み始めたのだ。だから曲調や歌い回しは演歌とは違っているが、鍛え上げられた声帯はいまだ健在。こうしてロックな曲を歌っているとなおさら、その強さが光り輝く。

演歌からポップスは決して珍しくない。美和子ちゃんが「神」とあがめる水樹奈々を始め島谷ひとみとが演歌出身ということは有名。坂本冬美がポップスを軽々歌いこなすシーンはテレビなどでよく見られる。坂本冬美と忌野清志郎、細野晴臣の3人のユニット「HIS」は結構気に入っていてアルバムも持っていたし(笑)

それに、こうして色々な曲にチャレンジする姿勢はあっぱれ。自らの歌の可能性をどんどん自分の力で広げている。挑戦なくして上達なし。そのことを、彼女はよく分かっているのだと思う。どこかの歌手にも見習ってもらいたいものだ(笑)

ただ、大黒美和子の声質がギンギンのロックに向いているかというと、それは少々の違和感があったのは確か。それでも多くのお客さんが彼女のステージで何かを感じたのだろう、2番手の出演というのにアンコールの手拍子が広がった。おどろきだ。

「本当に2番手でやっていいのですか?」ととまどいながら彼女がアンコールで歌ったのが、TRINE REINのカバー「Just missed the train」。なぜか日本で爆発的に売れたノルウェーの歌姫のメジャーデビュー曲。洋楽で全編英語で、大黒美和子は必ずしも英語に堪能という訳ではないのだが、この曲がとても美和子ちゃんに似合っているのだ。

曲調はロックというよりどこか懐かしいカントリー風のミドルバラード。それを、格好よく彼女が歌い上げて行く。声が強く通る彼女ならでは。実は大黒美和子は、こうした洋楽がよく似合うのだなあと実感。もっと激しくAlanis Morisette やTrine Reinにも似ていて解散してからかなり立つというのに未だに人気のThe Fairgroun AttractionのEddie Readerの曲とか、美和子ちゃんに歌ってもらいたいなあ。きっと、格好よく歌いこなせるはず。

これまでにライブでFairground Attractionの曲のカバーを歌うアーティストは何人か見てきたが、その中で一番巧かったのは初田悦子だった。美和子ちゃんも初田悦子に負けない歌唱力と声帯を持っているのだから、きっと格好いいEddie(女性だよ)のように歌えると思う。個人的なリクエストだな。曲はベストセラーアルバム「The First of Million Kisses」に入っている「Find My Love」か「Clare」辺り希望です。ってここで書かずに本人に直接言えって(笑)


さあ、そしてトリに龍之介が登場。

クロコダイルを今夜選んだ理由は大黒美和子なのだが、もう一つ、龍之介をかねがね聞きたいと思っていたからなのだ。そして今回初めてライブを見て、男惚れしたね。格好良過ぎる。

ブルースは大好きで、木村充揮や伊太知山伝兵衛のライブはちょくちょく聞いてきたが、また一人、男のフェロモン溢れるブルース唄いと出会えたこの感動。嬉しい。今夜、クロコダイルを選んで大正解だった。

1)?(星空のなんとかだったと思うが)
2)始発電車を待ちながら
3)浪漫家(ロマンチスト)の月
4)忌野清志郎カバー 曲名は?
5)ヒトリシズカ
6)ときどき電話を下さい
アンコール>Don't Worry My Friend

一人きりのステージで、ギター弾き語り。だが、惹き付けるそのギターの音色、憂愁をおびたボーカル、笑いをとる余裕にみえる懐の広さ。

現在、全国をツアー中で、北海道から九州にヒッチハイクやバスで移動している最中に久しぶりに立ち寄った東京でのライブ。こうして東京で聞ける機会は貴重なのだ。全国をさすらう者。ブルースには度がよく似合う。伝兵衛さんも木村充揮も、常に全国を漂流していて、バーでバーボンを傾けながらギターを紡ぐ姿が似合っている。龍之介も、その系譜に名を連ねているのだろう。

とにかく、人生のすべて投じて、一人で音楽に立ち向かっている、その風情が何ともいえず魅力的なのだ。多くを語らずとも(いや、ちょくちょく駄洒落をトークにはさんで、笑わせてくれるのだが)、その垣間見える姿勢に潔さと本物感を感じる。ああ、出会ってしまったのだなあと痛感する存在感なのだ。

多くを語る必要はない。龍之介はライブで見るべし。ライブでしか分からない泥臭さや汗が、響いてくるアーティストだ。