2011/2/23 蘭華 荘野ジュリ@LOOP 「ともしび」 | 音楽偏遊

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最近見たライブや気になるアーティスト、気に入った店や場所など偏った嗜好で紹介してまいります。アーティストさんへの言及などは、あくまで私個人の見解であり、特に中傷や攻撃を意図したものではないこと、ご了解下さい。

今夜は特別な日。キャンドルケーキを盛大に立てて祝いたいと思っていたら、ぴったりのイベントが。代官山LOOPで毎月開かれている「ともしび」だ。

何十もの巨大なロウソクをステージに立てた幽玄な空間を作りだす素敵なイベント。そのもう一つの楽しみは唯一、ほぼ毎回出演している蘭華の歌だ。

前回はお休みだったが、それ以前の「ともしび」には、毎回他の4組の顔ぶれが変わっても、蘭華だけはブッキングされてきた。二胡とキーボードのサポートを得て、「ともしび」にぴったりな、唯一無二のスケールの大きい癒しの空間を幻出してくれるからだ。人によって好みは色々だろうが、僕にとって、この厳かな空間と蘭華な歌の組合わせは、他に替えがたい無上の時に最近なっているのです。

今夜は、出演者5組の中で特に魅了されたステージが2組。一つはすでに語ってきた3番手の蘭華だが、もう一人、トリの荘野ジュリがまたとても良かった。何故この2人に惹かれたのか、後から考えるとある共通項が。キーワードは「セキララ」だ。

その話のまくらになる、こんな話を先日読んだ。1998年から2000年までの2年間に、短歌グループ「猫又」主宰の沢田康彦の思い付きで、ある文芸的な試みが行われた。素人にお題を出し、ファクスで送ってもらった短歌をプロが批評するというもので、その模様を「短歌はプロに訊け!」と題してまとめている。

例えばこんな短歌が届く。

「あ、妬いた?」「何を?しいたけ?炒めたわ」「ふうん、そうかあ」「なにがそうかよ!!」


こんな男女のさや当て、あるある。目に浮かぶ。これも短歌なり。ユーモア溢れる本下いづみさんという絵本作家の作だ。こんな風にプロには作れない素人の傑作で「猫又」は賑わうのだが、おしなべて女性作品が面白いという。プロでも女性歌人が絶対多数だ。

そうした状況について、批評役に選ばれた中堅実力派の2人の歌人がこんな言葉を交わしていた。

東直子「男の人って、どこか前頭葉で詠んでるって感じはありますね」
穂村弘「そう。どうしても頭で詠むのね。責任感があるからかなあ(笑)。ギャグならギャグなりに責任をとろうと思うからダメなんだろうなあ(笑)」
東「その『責任感』ってところがもうねえ(笑)」
穂村「責任感と詩は無関係だものね。そりゃもう性差だろうなあ。女は溢れっぱなしなんだもんなあ」
穂村「他人が本当に読みたがっているもの、見たがっているものは~略~ぎりぎりまで追いつめられて、これは恥ずかしい!って姿を見たいんです。それを見てすごく勇気づけられるというか、エネルギーをもらった感じがする」

どうでしょう?僕はこれ読んで5回くらい頷いてしまった(笑)で、先ほどのセキララ=赤裸々。男では歌えないだろう恥ずかしい(男目線でです)心の中身をさらすリアルな歌詞で、蘭華と荘野ジュリが赤裸々に畳み掛けてくる。惹き付けられる。

その歌詞がストレートに頭に突き刺さり、僕はもうヒリヒリとした焦燥感に苛まれ、どうにも落ち着かなくなってしまう。4番手に登場した「ともしび」初の男性アーティスト、木島裕も、BEGINのような島歌テイスト溢れる爽やかな好男子で、いい歌い手だった。ただ同性としてはもう少しインパクトが欲しかった。

例えば蘭華の「Helpless」や「ぬくもり」、荘野ジュリの「パパ」。今夜歌われたこれらの曲では、その歌詞に、晒した裸の心に、どうしようもなく感情が揺さぶられた。僕だけでなく、客席の周囲から聞こえる感嘆のため息や連れと交わす会話、そして拍手の大きさ――などから、会場全体がひとしく感情の波に包まれたんだと実感した。

勿論、綺麗事の歌詞でも良い歌は沢山ある。でも、しっかりした歌唱力と世界観を持った歌い手に、こう赤裸々に歌われたら堪りません(笑)だから、女性アーティストは面白いんだよな。

また、この日の蘭華のセットリストが、彼女の半生をたどる構成だったので、彼女の世界にシンクロしやすかった。

1)燕になりたい
2)Helpless
3)ぬくもり
4)花籠に月を入れて
5)ともしび
6)maama

中国語でAメロを歌う「燕に」は、彼女自身が聞いて育った子守唄。彼女のルーツに想いを馳せさせさすた。家を出て、1人東京で暮らし始めたが、親友も恋人もなく、仕事はうまくいかぬ「三重苦」の時代を赤裸々に歌ったヘルプレス。そして、若さゆえ周りも見えない一途な恋愛歌「ぬくもり」、それから幾年、現在の大人の恋心を淫靡にさえ取れる比喩に包んだ「花籠」。この流れが良かったなあ。

そして、このイベントのために作った「ともしび」の音符ゆらゆらゆらゆら揺れて~音符という、人の心や人生そのものと炎の揺らぎを重ねたメロは、頭にこびりつき離れない。名曲だね。
最後は親への感謝を綴った「マーマ」。シンプルな言葉がかえって、手紙のようで良く思えてくる。


「今夜のテーマは大切な人」として、2ヶ月ぶりの東京ライブとなった荘野ジュリもまた、赤裸々に想いをぶつけてきて感動的だった。

1)Late
2)ひとり
3)Everytime You Lie
4)ライオン・ハート(SMAPカバー)
5)パパ

自らの恋愛の過去と現在、亡くなった祖母へ贈ったデビュー曲、大切な人への想いを歌で伝えられる喜び、大切さを再認識できたヒット曲、そして父に反発し家を出た半生を振り替えるパパ。最後には感極まった彼女の目から溢れた涙。本物の感情の発露には、ぐっときてしまう。

でもそれも、しっかりした歌唱力のベースがあるから白けずに済むのだ。アーティストとの素敵な出会いを感じる夜だった。

終演後の物販席で蘭華がハッピーバースデー歌ってくれた。なんて贅沢ものなのだろうか。本当にハッピーな1日となった。蘭華はしばらくライブお休みするそうだけど、あの歌が聞けなくなるのは寂し過ぎる。色々あるだろうけど、待ってます。