やないけいこが21:15から代官山LOOPに出るというので、渋谷から駆け付けた。タクシーでなんとワンメーター。こんなに近かったのかあ。
彼女は卒業間近の慶應大学生だが、その実力は、同じ世代の中でも間違いなくトップクラスの女性シンガー。この世代の活躍は目を見張るものがある。
この日は学生みたいなアーティストが多かったようで、到着した時のLOOPの雰囲気は学祭のようだった。気だるげに体育座りしてる少年も多い。前に出ていた女性バンドContrary Paradeも、その点ではまだまだ若いなあ、と逆に羨ましくなる演奏だった。
ところが、オオトリでやないけが登場し、演奏が始まると空気は一変。学祭空間が瞬時にプロが歌うライブハウスの空気に変わったのだ。あまりにも明瞭、歌い手が空気を作るのだ。
その艶のある声は伸びやかで、グルーヴを作り出すリズム感は天性のものか。表現力も深く、感動する。
LOOPもその実力を分かっているから、最近は彼女が出る時はトリにすえている。もちろん、昨年6月にLOOPで開催した初のワンマンで200人動員した実績も大きいだろう。200人集めるってなかなか大変なこと。それができず、小さなライブハウスで停滞していアーティストのいかに多いことか。
彼女の強みは音楽だけでなく、応援団が大きいということだ。帰国子女で入ったSFC高校からの友人知人ネットワークが広いのだ。また去年、SFC中高の学祭に行ったが、体育館でやっていたステージはかなりレベルが高かった。自由にのびのびと音楽できる環境が、あそこには整っていた。
そこでバンドを組み、学祭や神奈川の学生大会などで名前を売ってきている中で、沢山のファンを掴んできてるのだ。マワリーと境遇似ており、接点もあったことだろう。
彼女が英語圏で学び、歌い始めたのも良かった。声帯の使い方や呼吸、発音などは、英語と日本語ではかなり違う。その全てが歌唱力と大きく関わっている。演歌には日本語が向いているが(というか日本語の歌に適した音楽として演歌は発展した)、ポップスやロックは明らかに英語の発声や調べに適した音楽なのだ。
不思議なもので、英語でしっかり歌う技法を身に付けていると、日本語に置き換えても、うまく歌えるものなのだ。
で、やないけ。彼女の秀でた歌唱力は間違いなく英語で培われた土壌を感じる。そこにさらに音楽的な素養が加わる。
最近の彼女のステージの売りの一つは、彼女が弾くバイオリンだ。前奏や曲間に弾く音色も素晴らしいが、何より奇抜なのはバイオリン弾きながら歌ってしまうスタイル。これはかつて見たことないね。吹奏楽器で歌えないのは当たり前だが、バイオリンだって顎で楽器を挟むため口腔可動域が限定され、歌いにくいものだ。
そこは、ギターボーカルが歌っている時、単純なストロークだけに手仕事を抑え歌に集中するように、彼女もボウを長く使って単音または和音を弾くに留め、歌に集中している。顎もやや浮かしているから、それほど歌唱の制約になってないようだ。
何よりこれだけバイオリンが弾けるということは、幼いころから恵まれた環境で育ったのだろう。音楽的にもね。
幼少からクラシックのピアノをやっていて、今ピアノ弾き語りしているアーティストは多い。学生時代にどこまで大曲をマスターし、運指を磨いたか、そのレベルが高い人ほどやはり弾き語りのレベルも高くなる。SHUUBIやいいくぼさおりが良い例だ。最初からポピュラーピアノしかやってないアーティストとは、その演奏力は雲泥の差だ。
その演奏力の差に加え、完成された作品の譜面を読み込み演奏することで身に付く音楽的素養は、やっている音楽が現在ポピュラーであっても、作品の完成度を高める際に役立つことは間違いない。
勿論、メジャーになるには、そうした完成度の高さが当然求められている。そして、名曲やヒット曲を作れるかは個々の才能によるもの。ライブで客席を沸かすにはエンターテイメント性がより重要だ。逆にクラシックの素養が邪魔して、楽曲が「きれい」にまとまり過ぎてダメな例もあるだろう。
ただ、やないけが登場しただけであれだけ空気が変わったことに、プロ(候補含め)とアマの差を感じずにはいられない。
好きな音楽をやりたいように演奏し、一握りのファンを喜ばして満足するのも、決して悪い事とは思わない。ただ、何かを犠牲にして音楽の世界で生きていきたいなら、あらゆる意味で水準や完成度を上げ続ける努力を怠ってはいけないのだろうな、と思った。
やないけもまだまだ荒削りでノビシロは大きい。これから、もっともっと成長した姿を見せて欲しいと思う今日この頃だ。
ちょっと偉そうなこと書いてしまいました(笑)