このイベント、毎回違う女性アーティストがおぼろなロウソクの炎に囲まれて、ムードあるステージを見せてくれる。昨夜もあった同じ代官山の「晴れたら空に豆まいて」のキャンドルライブは、完全にアンプラグドだけどLOOPはマイクも照明も入るから、アーティストは選ばずOK。それだけ、様々な歌い手が出てきて面白い。
その中で唯一、連続出演しているアーティストがいる。蘭華だ。和風でありながら、中華の風も薫ってくる魅力的な女性シンガー。バックに入る二胡の音色が、幽玄な雰囲気を醸し出し、いまでは「ともしび」というイベントの象徴になっている。彼女の歌を聞けるのが、このイベントの何よりの楽しみだ。
出演した5組の真ん中、3番手に登場したのだが、最初に彼女について触れたい。他の出演者では個人的にはcossami大好きだし、小柳ゆかりに注目していて、どちらも良いステージだったが、それは別稿で。
毎月このイベントで歌っている彼女だが、この日は並々ならぬ気合いが入っている様子は、彼女のブログから伝わってきた。ライブの数日前の書き込みでは、あえて今年の年頭に「夢叶える」としたためた書き初めの写真を張り、この日のライブにかけている、と書いていた。
さらに別の書き込みでは、作詞に日本語の美しさを取り入れたいと2年前から通っている句会の話に触れ、同じ門下生が彼女を題材に特選をもらったという一句を紹介していた。その俳句とは、「下積みを 耐えて花咲く 秋蘭華」。
今の事務所に入り7年。その下積みの先に見据えた「夢」は、言わずもがなだろう。秋日のこのライブは、そんな彼女にとり夢が現実になるかの正念場、少し気負いが見られた。
セットリスト
1)蘇州夜曲
2)ともしび
3)燕になりたい
4)花籠に月を入れて(新曲)
5)maama
6)草原情歌
蘭華の魅力は、そののびやかで心に響く高音の響きや、悠久の時を感じさせるスケールの大きいおおらかな歌い回しにある。だから、蘇州夜曲が年齢に似合わず、合っている。この曲をこれだけ大陸的に歌えるアーティストは、プロでもいないと毎回感動している。
なのだが、この日はどこか固い。声にいつもの伸びがなく、それでも十分上手いのだが、いつも感じる果てしない空間の広がりが、ライブハウスの中限定の広がりに留まっていた。
さらに苦笑してしまったのがMC。いつもは自由に思いの丈を話していて、本音の部分がひしひしと伝わってくるのだが、今夜は原稿の棒読みみたい。おーい、ガンバレー(笑)
3曲目の「燕に~」を中国語で歌い出す辺りで、少しほぐれた感じがあったのだが、4曲目が新曲でまた固くなったよう。
歌う前に、習っている俳句の話をして、会場にいらっしゃった句の師匠を紹介。新曲が最近読み込んでる室町時代の句集から着想したなどと紹介して会場から「ほー」なんて反応かあったものだから、なんか自分でハードル上げてしまった感じ。いつもの調子なら、それに見合った時が流れる感覚を詰め込めたろうが、少し弱い。
胡弓の音色は、それだけで大陸の水墨の世界に想いを馳せさせる。そう思っていたが、やはり歌の伴奏として入れている以上、ボーカルと響き合わなければ、その音色の効果も減衰してしまう。逆に二胡とボーカルが引き立て合えば、アジア人の心の琴線を間違いなく大きく震わすだろう。新曲は歌詞は面白いから、音にさらに磨きをかけるとぐっと良くなりそう。
でも最後の「草原情歌」は心に響いた。子守唄として聞き育ち、20年以上彼女が大切に歌い継いできたその歌には、母親の魂もこもっている気がする。彼女も格好つけずに大切に歌っていた。
そうすると、歌がイキイキとしてくるから不思議。ロックなら格好つけた方が効果的だったりするが、蘭華の情歌にはやはり外見より内面が重要なんだろうな。最後にいい歌声を聞けたので、ファンとしては「終わり良ければ、全て良し」だ。
また来月のともしび聞きに行けると良いな。きっと向上心の固まりのような彼女のことだから、ぐっと充実度の増したステージみせてくれるだろう。
そういえば、この日の深夜零時にボジョレー・ヌーボーが解禁に。あれ、あまり美味しくないよね。若木から取った葡萄の実を、長い時間熟成させることなく出荷してるから、しょうがないのだけど。ブームは一瞬。すぐ忘れ去られる。
本当に美味なワインのワイナリーでは、植えてから少なくとも10年以内の葡萄の木の実からは、商品化しないそうだ。若い実は十分な糖度や深い味わいが足りないらしい。
ワインに使われるまで、葡萄の若木は花を咲かせ、実をつけ、枯れて冬を越し、また芽吹き、花を咲かせ、実をつけて、と何度も繰り返して、その時に備えるという。そんな若木でも、優れたワイナリーの人達は手入れを怠ることはなく、慈しみ葡萄の木を育てていくのだ。
そして、その時がきたと判断したら、その実を使ってワインを仕込み始める。ただ自然が相手だから、果実のできが良い年もあれば、悪い年もある。不作の年でも、しっかり育てた葡萄の木はそれなりに良い実になるという。芸術作品だね。
さあて、こんな話書いていたら美味なワインが飲みたくなってきた。話脱線したかな(笑)
歌人なら、相聞歌でもしたためる所なのだけど(笑)僕も俳句習おうかなあ。ではまた

cossamiや小柳ゆかりは、次のブログに書きます。