川崎Bottoms Up と Modern Timesという、同じビルにある系列ライブハウス2つを舞台に繰り広げられたハロウィーン祭。台風が関東に最接近し大荒れの天気ながら、雨にも負けず、風にも負けず宮沢賢治の心意気です。
今日の目当ては、渋谷めぐみともう一人、堀川ひとみだ。堀川ひとみと久しぶりに都合があったので、楽しみにしていた。
ところが東海道線が運休に。川崎駅までどういくかが難題に、って横須賀線が動いているからいいじゃんと気楽に飛び乗る。そしてふと気付くと「新川崎~」。ん、そういえば横須賀線は川崎駅止まらないんだ。
あわてて、少し離れている南武線の「鹿島田駅」まで雨中歩くはめに。結局、かなり余裕で出たはずなのに、渋谷めぐみの前のアーティストが最後の1曲を歌うところに滑り込み。なんとか間に合った。
この日の彼女のライブは、ギター高田さんの伴奏のみのアコースティックな内容。箱の雰囲気はロックで、前のリトルシスターズもバンドだったから、やや寂しい。
さらにライティングが暗く、高田さん、楽譜が見えなくなり何度もとちる、という名手にしては珍しい展開。彼があたふた、コードを手探りしながらアルペジオする姿がおかしかった。
1)涙
2)東京
3)会いたい
4)秘密
5)Day after day
先日のジャズとはうって変わって、いかにもインディーズという雰囲気。アコギだけではロックにならず、いつもは激しい東京も、ミドルバラードに聞こえる。他の曲もバラード中心で、彼女の歌唱力がより引き立つ。違うアーティストをみにきたお客さんも聞き入ってる様子だ。
もっとライブハウス全体の空気を自分色に染められると、なお良いのだが。まあ、初めてのステージということで、若干探りながらうたっていた様子。それでも「会いたい」とか良かったな。
今回のハロウィーン企画は、色々なアーティストを集めていて何が飛び出すか分からないところが面白い。渋谷めぐみの次に出てきた、TOPLESS PIRATESも大いに笑わせてくれた。
衣装もボーカルとギターの男性2人が海賊、もう1人のボーカルである女性は中世の淑女のような衣装。そんな出で立ちで、歌の内容が「おしりフリフリ」だったり、兎に角楽しい。ワイルドな男声と、基本的にファルセットのソプラノ声で歌う女性の2人の掛け合いが、粗野なパイレーツ・オブ・カリビアンな雰囲気十分だった。
「ハロウィーンだからこの格好じゃなく、俺らはいつもこうだから」だって。楽しいイベントには、是非、呼びたくなるご機嫌な曲でした。
ここまでは6階のボトムズアップにいたが、9階のモダンタイムスへ転戦、堀川ひとみのステージを待つ。
すると巨大ペンギンに扮した堀川ひとみ登場。ハロウィーンだからね。笑いを取りながら、ペンギンの被り物したまま(手だけ出る)、キーボード弾き語り。2曲歌ってペンギンを脱ぎ捨てると、今度はティアラつけたお姫様に。力入ってる(笑)
しかし、歌は重い。中心的なテーマは障害で、彼女の場合は、欝とアスペルガー症候群だ。歌を通じ理解を広めたい、との願いが彼女の活動の源泉ともいえ、ライブやチラシ、ラジオを通じ啓蒙に努めている。
しかし、何より歌がいいのだ。黒々とした深淵を目の当たりにするようだ。明るい調子の歌も奥深い。
障害と表現活動は彼女の中で不可分だ。楽曲では健常者とのズレからくる苦痛や、心の弱さ、意気地無しへの焦燥、救いを求める切実な悲鳴、同じ人間として扱わない「人間」への批判、などなどが綺麗事なしでぶつけられていく。
そこには、作り事がない。本源的な心の叫びだけが満ち、迫真の緊張感に包まれる。中途半端なアーティストでは、とても醸し出すことはできない空気だ。本物なのだ。
ただし、心はざわつき、彼女の曲で安らぐことはないかもしれない。聞く側の心性が問われるからだ。近寄りたがらない人も多いだろう。万民にとってメジャーな存在にはならないかもしれない。
だが、彼女の発する悲鳴は静かに社会に波紋を拡げている。そのことは間違いない。節目のライブなどで何百人と集めるのだ。これからも目が離せない存在だと思う。