間もなく重い扉が開かれ、BAR330の開店だ。こじんまりとした店内のど真ん中に返しのスピーカーで囲まれた即席のステージが。ぐるっと囲む椅子席の1つに腰を落ち着け、山崎12年を流し込む。体がほっと息をつく。
目の前、手を伸ばせば届く距離のステージで、おもむろにこのバーのマスター、笹生実久がギターをつま弾きながら歌い始める。えっ、始まってるの?という疑問は、「この様子はUstreamで流すけど、セッティングできるまでリハしてます」みたいな話で納得。
ホホーッ、Ustライブ会場に居合わせたのか。俄然やる気に、ってただの客だが。
Ustの映像が、ステージ斜め後ろのスクリーンにも映し出され、準備完了。ライブというかラジオ番組みたいに22時半ごろスタートした。
マスター笹生実久が意外とおしゃべり。今日、店で出している特別メニューのつまみは、缶詰のサンマの蒲焼き、おろし添え。毎回、何かの缶詰つまみ提供しまーす、と案内。
おもむろに歌い始める。東新宿を舞台に、気を張って、大人の中でいつもブラックコーヒーを飲んできたが、今日の疲れきった心をカフェオレが優しく包んでくれる。そんな歌を、少し気だるげに、時にジャジーに。夜の地下に、実はそれほど疲れてない張りのある歌声が響く。笹生実久、雰囲気あるアーティストだなあ。
新宿ゴールデン街のオカマバーに入り、他に選択肢がないので、めったに飲まないウイスキーを頼み、さらに1万円出してジャックダニエルのボトル入れてしまった話などを、仄かな色気と疲れを漂わせながら、しっかり語っていく。その店には、それ以来、行ってなくて、なんでボトル入れたのだろう、と笑いをとる。
多分、この流れなら、マスターがヤサグレて見えそうなものだが、笹生実久はシャンとしている。背筋が通ってるのだ。さすが剣道2段。最近は筋トレにはまっていて女性ながら体脂肪率14~15%と話すだけある。健全な力強さと、退廃的な雰囲気の同居こそ、彼女のアンビバレントな魅力かもしれない。
高3までサンタを信じてたと、またのけ反るような話をして、ベースの板やんを呼び込み「Hello」など2曲。合間には「Ustネーム○○から、こんな質問頂きました。なんかUstネームって新しいね」とズイズイ進行していく。目前のお客さんとの掛け合いもあり、みんなで番組というかライブというか、を一緒に紡いでいる感覚。
あらゆる個人をメディアにするブログやツイッターに続き、急速に市民権を得つつあるUstream。あらゆる個人をリアルタイム放送局に変えてしまう力はマジックだ。
新たなメディアを得て、表現者にとってのメジャーとインディーズの境界線は、ますますボヤけるだろう。新たな武器を得たアーティストがメジャーに依存する必要性がさらに失せつつあるのだ。ユースト最適化を考えた表現者が、新しいヒットの形を体現するだろう。今後そんな例が続々と生まれそうだ。
アーティストが地方ツアーの様子を来られないファンに伝えたり(こないだから神山みさもやってるね)、時事的な出来事への自らの考えをタイムリーに表明したり。小売りと製造業の直取引で卸不用論が広がったように、マスメディアの中抜き現象が多発するだろう。その流れはもはや不可避だ。
今夜のBAR330も30人を超す視聴者がいたようだ。大きなイベントで、沢山の人に宣伝できれば、何千何万の視聴者を集めることも可能だ。不特定多数に情報や広告を流せるテレビなどのマスメディアと、ニッチに需要と供給をダイレクトにリアルタイムで結ぶユーストやツイッター。住み分けか融合を考えないと、全ての関係者にとり不幸なことになりかねない。
さて、この会員制BAR330@新宿SACTは先週開店したばかりの、ほぼ週一企画。つまり今日が二回目。来週は25日(金)夜22時開店だって。誰でも来れば会員になれる。6月中は(その後は分からない)。
平日の遅い時間、他のテレビチャンネルと競合するだろう。ユーストにチャンネルを合わせる。そんな選択肢、これから当たり前な時代になってきた。
ただ今夜の感想は、やはりライブに勝るものなし

さあ、迷うことはない。来週金曜夜は、復活した笹生実久の生の姿を見にBAR330へ行こう。