2月9日 初田悦子 星村麻衣 森恵 半崎美子 @DUO | 音楽偏遊

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最近見たライブや気になるアーティスト、気に入った店や場所など偏った嗜好で紹介してまいります。アーティストさんへの言及などは、あくまで私個人の見解であり、特に中傷や攻撃を意図したものではないこと、ご了解下さい。

今夜は渋谷DUOで「原風景其の三」に。出演は上記の通り、4人の女性アーティスト。ライブ聞いたことあるのは森恵だけ。300座席(スタンディングなら700)は軽く入る大きめな箱だけに、メジャーデビューしていても中途半端な演奏や歌唱力じゃ辛い。そこで、いやーっ、感動したにひひ。4人の中で誰にかって?「初田悦子」だ。ファンの方々には申し訳ないが、はるかに集客力も(ママさん層除く)活動歴もありそうな他の3人より、かなり良かった。というかツボにはまった。

一言で言えば、大人のアーティスト。先に書いてしまうと、昨年、深夜の音楽番組「歌スタ!!」の敗者復活戦からデビューを決めた、5歳の娘さんがいるママさん歌手。デビュー曲は、自分の娘に「生まれてきてくれてありがとう」と歌う「きみのママより」(昨年2月発売)。

僕の事前の知識はそれくらい。ただの企画もの歌手かと思うよね。ところが、そんな先入観は完全に覆された。それも、とても心地好く。

いきなり「こんばんわー、初田悦子でーす」
客席が「こんばんわー」と返すと、「うわー、暖まってるね」と余裕。場数はそんなに踏んでいないと思ったが、どうしてどうして。

そして1曲目にデビュー曲。ややハスキーだが、とても穏やかで包容力を感じる暖かい声。絶やさぬ笑顔。会場のどこかにいる娘を慈しむような愛があふれていて、見ているこちらも嬉しくなってしまう。大勢の客にもまったく物怖じせず、堂々と自然体。母は強しなのか、それともこの人の持っている元々の才能、性格か。

伴奏はキーボードに鎌田雅人。番組で彼女に札を上げ、自らプロデュースに乗り出したレゲエメガネ(失礼)。体も大きそうなのに、繊細なタッチで、このママが娘に語りかける歌を優しく弾く。後の曲では力強く、正確に。盛り上げ方もドラマチック。さすがプロだわ。

MCで「これから歌うのはみな新曲です」と紹介して2曲目「Rainy Blue」。これがいい。雨の午後、カフェの雰囲気を壊さず、逆に盛り上げてくれるような、しっとりとしたバラード。ジャズのようなテーストさえ感じる大人の音楽だ。「しとしとしと~」というフレーズ、耳にこびりつく。

後から歌った曲もそうだったが、彼女の歌のAメロの特徴はさりげない日常を、わざと抑えた狭い音域の中でフレーズを繰り返す。下手が歌うと飽きるところだが、彼女の正確な音程と効果的なブレス、一音一音考えられた音の艶、伸びやかな高音。表現力ある歌声が、じわじわーと心に響いてくる。しかも、繰り返しの先にドラマが来ることがしっかり伝わってきて、ワクワク感が徐々に盛り上がる。柳ジョージのソウルフルな雨の曲と対になりそうなボーカルだ。すごい音楽感。どっぷり良質な音楽に長年浸かってきたのだろう。音楽の引き出しが豊富にありそうだ。

3曲目「髪を切ってしまおう」加藤いずみ(?)のカバー。これもぴったり。Rainy Bluesと同様に、大人の鑑賞に耐えられる素敵なボーカル。雰囲気が、声が、そして何より彼女の表情がライブハウスを歌の世界に塗り替えていく。分かれたあなたが好きだった大事なもの、髪をきってしまおうといった歌詞だが、主人公の女性に感情移入してしまう。

そして彼女のソウルフルな音楽性をさらに感じさせてくれたのは、4曲目の選曲。カバーしてくれたのは、僕が愛してやまないFairground Attractionの「Allelujah」だ。

25年ぐらい前、MTVが始まったばかりのころ、マイケル・ジャクソン全盛と同時期だったが、僕はFairground AttractionのPVに釘付けになった。「クレア」「Find My Love」「The Moon Is Mine」など、ボーカルのEddie Readerが無茶苦茶格好よかった。カントリー風?アイリッシュ風?ディケンズの嵐が丘に出てきそうな衣装や雰囲気で、強さとジャイブ感たっぷりに歌う。最近メガネっこ日本で流行してるが、彼女はそのときもメガネしてたんじゃないかなあ。それが似合っていた。

そのFairground Attractionの歌を初田悦子が歌った。難しい曲だ。彼女は軽やかに、表現力たっぷりに、歌い上げた。感動したなあ。カバーした歌手は何人かいたが、日本人でEddie Readerをあれだけ見事に歌う人は初めてだ。これだけでも聞きにきたかいがあった。

これまで僕が聞いたことある範囲で、一番FairgroundAttractionをうまく歌ってくれたのは、ジャズ歌手で日本最高の女性バーテンダー(だった?)、奈々恵さんだな。ハートカクテル復活しないかな。閑話休題。

5)天使のめがね
6)光
この2曲も良かった。特に「光」は特筆ものの感動の一曲。曲に入る前に、きゅーっと引き締まった表情。曲想に気持ちがぐーっと入っていく表情の変化が凛々しい。この曲を収録したファーストアルバムは即断購入した。じっくり聞いてみたい。しかし、彼女の大人路線の魅力を鎌田さんが見事に引き出していると思う。ナイスプロデューサー。

全くすばらしい。心がこれだけ動かされる歌手はちょっといない。スーパーフライやMISIAらにも感動するけど彼女らはプロ。初田悦子がツボにきたのは、彼女が素人っぽいところを残しているところかもしれない。性格がいいよね。明るく前向き、関西人のノリもあり、柔軟で感受性豊か。こんな素敵な奥さんをもらえた旦那さんは幸せものだな。こどもにとっても素敵なママ。もしかしたらちょっと恐いかもしれないが。

数年後、ハセガワミヤコさんの子供が大きくなっているころ、きたはらいくさんも加えた3人のママさんシンガーでライブしてくれないかなあ。素敵な空間になること間違いなし。絶対見に行くね。

彼女が大人な雰囲気を作ってしまったので、その後にトリを努めた星村麻衣さんが子供に見えてしまった。初田さんだけで長くなったので、他の3人については、別に書き留めたいと思う。

いやー、今夜は初田悦子に出会えて本当によかった