ふと気づくと
夜道に蝉の泣き声がない
一昨日まで
与えられた種の保存という宿命を果たすには
あまりに短い寿命を知り、
最期まで焦りもがくかのように
力の限り泣き叫んでいたのに
今この夜道に聴こえるのは
コオロギやクサキリ
さあ、ついに訪れたわが季節、秋を祝うのか
8月30日
襲い来た台風は夏と共に蝉どもを連れ去りたもうたのか
8月31日
雨上がりの夜空に月は無い
ただ空から地上のものを押し潰すかのように
垂れ込める灰色の雲ばかり
このまま眠りにつけば
光の中に目覚めるだろう
そして遠くにあの蝉時雨の喧騒を思い出すのだろうか
明日、意識の闇からこの世に戻る時、
ミーン ミーン ミーン と
つんざきが響いてくれたら
ぼくはどれほど幸せだろうか
過ぎし人よ
情け容赦なく時は
うつろうのか