通常の翻訳なら3時間で終わるところ12時間もかかってしまった重労働とは(翻訳の仕事の厳しい一面)
先日、ある日本の自治体の観光ガイドのマップの固有名詞を、日本語から英語に訳す仕事をいただきました。
たとえば「博物館」とか「駅」とか「山」とか「公園」とか、一部は英語にするという作業もありましたが、大半は日本語の地名や固有名詞をアルファベットに転記するという作業。
これ、一見するととても楽勝のように思われるかもしれませんが、実はとっても大変
恐らく、仕事を発注してくださった翻訳会社さんも「簡単な作業だろう」と高を括っていらっしゃったのだと思いますが、翻訳料のお支払いも、通常の英訳のお仕事と同じレートで設定されていました。
納期は、通常よりは少し余裕がある感じで設定されていたので、「もしかしたら時間がかかるかも?!」との予想は(翻訳会社側には)あったのかもしれません。
原文の日本語はだいたい1,500文字。
私の場合、通常の和英翻訳でしたら3~4時間で終わる作業です。
ところが、今回の地名・固有名詞の英訳の仕事は、そう簡単にはいきませんでした。
今回の自治体の仕事に限らず、地名や固有名詞の翻訳の仕事の困難なところ(時間がかかるところ)は以下のとおりです。
・そもそも読めない名前
・幾通りかの読み方がある名前
・(資料がなくて)確認が取れない名前
ネットで簡単に見つかる名前もあれば、文献を漁ったり、現地の人に聞かないと分からないマイナーな地名なども多くあります)
自分の常識で考える読み方と違ったりするので、憶測で訳することができません。
ですから、知らない場所の地名は、本当に慎重に訳する必要があります。
一方、自分の知っている地域、たとえば自分の地元などの場合は、経験から読み方を知っている地名が多いので、その分、調べる手間暇が少なくて済みます。
逆に、知らない土地だと、当たり前に思われる地名でさえ調べる必要があるのです。
たとえば「長谷寺」というお寺の名前。
このお寺を英語表記するとしたら、どうしますか?
少し考えてみてください。
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(答えは写真の下)
UnsplashのNguyen TP Haiが撮影した写真
Hasedera Temple?
読み方は「はせでら」ですか?
関東の人は、自動的にこの読み方が思い浮かぶかもしれません。
しかし、「ちょうこくじ」と読む場合もありますし、「はせじ」という読み方もあるようです。
Wikipediaの「曖昧さ回避」のページを見ると、むしろ「ちょうこくじ」の方が一般的のような印象です(関東でも)。
私は、鎌倉の「長谷寺」の印象が強く、ずっと「はせでら」の方が優勢だとばかり思っていました。
ともかく、「長国寺」がどういう読みなのかを判断するには、現地のお寺が実際にどう呼ばれているかを知らなければなりません。
憶測で判断することは不可能なわけです。
町名の「町」の読み方もそうですよね。
「まち」と読ませる場合もあれば、「ちょう」と読ませる場合もある。
こういう細かいところすべてを確認しながらアルファベットに起こしていくのが、地名・固有名詞の翻訳なのです。
ですから、確実に知っている地名でない限り、「念のため」にすべて1つ1つの読み方を、現地の資料を元に調べながら訳していく作業になります。
すでに英語表記のある場合は比較的楽です。
あるいは、せめて「ひらがな表記」があればまだましです。
しかし、ひらがな表記がなかなか見つからないときもありますし、最悪はインターネット上では入手不可能な場合もあります。
その場合は、現地の人に直接確認したりすることもあります。
そんなこんなで、1つの単語、たとえば「長谷寺」一つの英訳に、15分も30分もかかったりすることさえあります。
今回の約1,500文字の仕事は、そんな作業の連続でした。
結果的に、翻訳作業自体に要した時間は9時間ちょいでした。
しかも、作業を開始するまえに、地図から文字を拾いデータ化する(ワードに打ち込む)作業にも数時間を掛けているので、実質的には12~13時間ほどかかった仕事でした。
もちろん、これでいただける翻訳料金は1,500ワード分です。
人によっては、後から翻訳会社と交渉をして、実際に支払ってもらう翻訳料を増やしてもらうこともあるでしょう。
それが可能なこともあります(交渉すること自体はおかしいことではありませんし、無理なことでもありません)。
しかし、翻訳会社の側で、多くの場合はお客さん(発注者)との間で翻訳料の契約が成立した後での発注なので、あとから「時間がかかったからもっと金をくれ」と言っても、料金を上げてもらうのがとても難しいことの方が多いです。
自分が翻訳を発注する側の立場になったら、あとから「実際の作業に倍の時間がかかったから、翻訳料を倍請求します」と納品の段階で言われたら、あまり良い気はしないですよね。
今回の作業は、資料も提供してもらえたのでもっと短い時間でできると、私自身も高を括っていたのが判断ミスでした。
自分のミスでもあるので、何時間かかろうとも追加請求はしません。
追加請求するなら、仕事を引き受ける前にするべきでしたね。
まあ、翻訳の仕事をしていると、こんな判断ミスをたまにしてしまいます。
そこを含めて、仕事を引き受ける際にしっかりといただく翻訳料も決めた上で引き受けるということです。
そこは、個人事業主、フリーランスの自己責任の部分ですよね。
ただ、たまにすごく簡単にスムーズにいくこともあります。
すごい良い資料を見つけたり、自分の知っている地域の仕事だったり。
そんなときは、費用対効果がアップするわけです。
フリーランスの仕事の醍醐味のひとつかもしれません。
以前、偶然に翻訳会社からいただいた仕事が、自分の住んでいる地元のマップの英訳だったのです。
細かい地名の中には知らないのもありましたが、ほとんどが知っている地名や固有名詞でした。
そういうことは、頻繁ではありませんが、たまにあると「ラッキー!」と思いますよね。
ちなみに、地元の人ならすぐに分かる地名の読み方なのですが、みなさんは、以下の地名、どうよむかお分かりですか?
ネットで調べて、すぐに分かりますかね?
調べても分からない地名があれば、コメントなどで教えてください。
ご要望があれば、いつか答え合わせをさせていただきます
①本町
②大山
③外内島
④日本国
⑤遠賀原
⑥手向
⑦文下
これらの地名はすべて私が住んでいる山形県鶴岡市にある地名で(一応、下に行くほど難度を上げているつもり)、ネットで調べることができる地名だと思います。
地元の人にとっては簡単ですが、知らない場合は、1つ1つ調べる必要があります。
これが10個や20個ならまだいいですが、100個、200個となってくると、それなりに時間と労力がかかります。
これに、地域の小さな神社やお寺の名前などが入ってくると、ネットでは出てこないのも結構あります。
同じ市内にある同じ名前のお寺が違う読み方をしたり・・・
ネットで読み方が出てきても、果たしてどっちのお寺のことなのか・・・
地図と住所を照らし合わせて・・・
なんてことも、よくあります。
ともかく、地名・固有名詞の仕事は本当に大変です。
みなさんも、引き受ける際には十分に注意し、覚悟を持ってお引き受けください。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
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