Childの複数形はなぜchildsではないのか?(複数形が-enで終わる単語はいくつある?)
先日の5月5日は「こどもの日」、その英訳は「Children's Day」ということで、これはご存じの方も多いかと思います。
今日5月5日のこどもの日は「こどもの人格を重んじ、こどもの幸福をはかるとともに、母に感謝する」日とされています。
— Marusan🇯🇵拙訳『WHOLE』5刷出来(コリン・キャンベル著)📚6ヶ国語翻訳者&通訳 (@marusan_jp) May 5, 2024
大事なことなので、もう一度言います。今日は「母に感謝する」日です。
みなさんも、善い1日を🎏 pic.twitter.com/S0iAgX6Aug
この「子供」という意味の「Children」という単語ですが、複数形だということはご存じですよね。
ちなみに、単数形は「Child」(チャイルド)
英語の複数形といえば、語尾に「s」を付けるのが一般的なわけですが、Childに関しては「s」を付けて「Childs」とはならず「Children」。
この語尾の「ren」は何なのでしょうか?
語尾が「s」にならない、いわゆる不規則な複数形を取る単語は他にもありますよね。
foot < feet(足)、tooth < teeth(歯)、man < men(男性)、person < people(人)、mouse < mice(ネズミ)などなど
なぜ不規則な名詞があるのか、考えたことはありますか?
逆に、英語の複数形が「s」で終わるのはなぜなのか?「s」は何なのか、考えたことはありますか?
これは、英語の歴史を見ると分かるのですが、ここで鍵となる言語学的な知識として「格変化」を知っておく必要があります。
詳しくは、語学書やネットで調べてもらえれば良いと思いますが・・・
簡単に言うと、英語の名詞は、その単語が文の中でどういう役割かによって、語尾が変わるのです。
たとえば、「he」(彼)という名詞(代名詞)。
主語になるときは「he」ですが、目的語になるときは「him」に形(語尾)が変わります。
「彼の家」というふうに所有を表す場合は「his」(所有格)になります。
このように語尾が変わることを格変化と言います。
複数形も、この格変化の一種だそうです。
代名詞ではなく、他の単語の場合(たとえばdogなど)は、変化がありませんよね。
主語のときも、The dog is running. ですし、目的語になるときも、I have a dog. と言った風に、どの役割でも「dog」と語尾に変化はありません。
実は、昔の英語は格変化をしていたのですが、近代英語に近づくにつれて徐々に変化をしないで、どこでも同じ形で言うようになったのです。
ただ、複数形だけは、現代の英語でも格変化をしているというわけです(これを「格変化」と一般的には呼びませんが)。
英語のいとこにあたる言語の「ドイツ語」には、今でも多少格変化が残っています。
このような「格変化消滅」の変遷は、ラテン語系の言語にも見られます。
ラテン語には格変化が明確にありましたが、ラテン語から派生した現代のフランス語やスペイン語は、英語同様にほとんど格変化がなくなっており、顕著な変化は複数形くらいです。
格変化は、どの言語にでもあるわけではありません。格変化のない言語もあります。
その他、ロシア語、ハンガリー語など、格変化のある言語はたくさんあります。
ちなみに、日本語は名詞自体は格変化をしませんが、「助詞」という単語を名詞の後につけることで、格の変化を表現しています。
形としては語尾にくっつけるので、欧州言語の格変化と似ているともいえるかもしれません。
(ハンガリー語は、日本語の助詞的な感覚で語尾に格変化を表す単語を付けます)
さて、格変化について説明したところで…
本題の英語の「複数形」のお話です。
お察しの方もいらっしゃるかもしれませんが、「child」の複数形が「s」で終わらず「ren」で終わっているのは、古い英語の名残です。
昔の英語は、格変化をして複数形を表していたのですが、その語尾は「s」に限らずさまざまでした。
先程例に挙げたfoot < feet、tooth < teeth の他にも、egg < eggru(卵)、book < beek(本)などなど。
しかし、長い歴史の中で徐々にこのバラエティに富んだ複数形の語尾が、「s」に簡素化されていったのです。
一説によると、この簡素化に大きな影響を与えたのが、8世紀終わりころからイギリスを侵略しはじめた「バイキング」たち。
当時、スカンジナビアから渡ってきた人たちが英語を取り入れる過程で、複雑な語尾変化に対応するのが面倒で、徐々に「s」の語尾一択になっていたということのようです。
そして、日常語として頻繁に使われていた単語(childrenやfeet、teeth、peopleなど)は、そのまま伝統的な語尾変化のまま使われ続けてきたということのようです。
ということで、英語の複数形の語尾の大半が「s」なのは、当時の古い英語の複雑な複数形に対応しきれなかったバイキングたちが、なんでもかんでも「s」を付けて済ませようとしたから、ということのようです。
ちなみに、この「s」の複数形語尾は、フランス語の影響だとのことですが、フランス語の複数形語尾が「s」である理由については、機会をあらためて勉強してみたいと思います。
実は、フランス語の祖先である「ラテン語」は、複数形語尾が「s」というわけではありませんでした。
また、フランス語自体も、複数形語尾は主に「s」ですが、「x」であったり、「z」(単数形と変わらない)であったり、いくつかパターンがあるのです。
この辺については、フランス語の歴史を紐解かなければならないと思います。
いずれにしても、英語の「child」の複数形がsで終わらずない「children」である理由は、バイキングの簡素化の影響にも負けず、古い形を固持したからということになります。
UnsplashのAustin Pachecoが撮影した写真
ちなみに、複数形の「en」の語尾を今でも残している単語は・・・
ox < oxen(雄牛)
man < men(男性)
woman < women(女性)
だけだそうです。
他に思いつく方がいらっしゃったら、是非コメント欄で教えてください。
他は全部「s」の語尾に淘汰されてしまったということですね。
気になるのは、「children」の場合、child と en の間に「r」が入っている点。
これはなぜでしょうかね?
発音のしやすさとかでしょうか・・・
「childen」が訛ったのでしょうか。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
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