ある有名なオンライン予約サイトに学ぶ、有能な翻訳者が「誤訳」をしてしまう理由 | 翻訳で食べていく方法★プロの翻訳者養成所

ある有名なオンライン予約サイトに学ぶ、有能な翻訳者が「誤訳」をしてしまう理由

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これはあるオンライン予約サイトですが、この中に「誤訳」があります。

 

この会社は、ネットやテレビの広告でよく出てくるので、ご存じの方も多いでしょう。

 

日本では、人気お笑い芸人コンビがCMに出演している印象が強いかもしれません。

 

私も最近、ときどき利用しています。

 

この運営会社はシンガポールの会社ですが、創業者はアメリカ人のようです。

 

現在、40言語以上で展開されているようで、おそらくこのサイト自体も、英語から多言語に(同時に)翻訳されているものと思われます。

 

人間翻訳者が翻訳をしている言語もあるかもしれませんが、もしかしたら、自動翻訳で対応しているのかもしれません。

 

でも、だいたいは読めますし、ホテルや航空機の予約をするときに、サイトの日本語(訳)で困ったことはありません(今のところ)。

 

でも(翻訳者として)気になるところはあちこちにあります。

 

その一つが、上のスクショの中にあります。

 

どの訳がおかしいかお分かりになりますか?

 

答えは・・・

 

 

この「返却日」がおかしいのです。

 

一見、問題なさそうですが・・・

 

よく考えると、「何を返却するの??」という感じで、疑問が生じます。

 

実際、私もここが気になりました。

 

で、よく考えてみると・・・

 

ああ、「Return」の日本語訳かな?と思い当たったのでした。

 

気になったので、このサイトの言語設定を英語に変えてみました。

 

やはり、思ったとおりでした。

 

 

「Return」の日本語訳としては「返却日」でも、間違ってはいません。

 

より正確には「返却」だと思いますが。

 

でも、おそらくこの自動翻訳は、ある程度、コンテキスト(前後関係)も読んでいるものと思われます。

 

その前の「Departure」の訳が「出発日」となっているように、ここが日付の欄だということは認識できているようです。

 

だからReturnにも「日」が付いています。

 

でも、残念ながらこれが「航空券」の帰りことだということまでは気づけなかったようです。

 

とても初歩的なことだと思うのですが、それでも機械翻訳(AI)にとってはまだまだ難しいことなのです。

 

ハチハチハチ

 

ちなみに、今、この翻訳が機械翻訳でやられたことを前提としてお話をしていますが、それもで、まだ人間が翻訳した可能性も捨てきれません。

 

では、この会社はそこも判断できないレベルの低い翻訳者に翻訳を依頼したということなのでしょうか?

 

その可能性もありますが、それでも優秀な翻訳者が翻訳しても、こういうことが起こり得るのです。

 

その理由は、「翻訳者の能力の限界」ではなく、最近の翻訳作業のプロセスに問題なのです。

 

端的に言うと、最近の翻訳作業は、CATツールというものを使って「セグメント化」して翻訳をしているからなのです。

 

CATツールのセグメント化とは、翻訳の作業をするときに、ホームページのコンテキストは無視して、翻訳対象の単語や文だけを抜き出して翻訳する方法です。

 

その場合、翻訳者の手元に届く原稿はこんな風になります↓

 

 

実際には、これをCATツールに入力した状態でくるのですが、これを見て翻訳をします。

 

通常は、この元となる実際のウェブサイトも参照しながら翻訳をするので、ちゃんと参照しながら翻訳する翻訳者であれば、おそらく「Return」は「返却」ではないと分かるでしょう。

 

しかし、たまにその翻訳元を参照しないで、CATツールの単語だけを見て(コンテキストを無視して)翻訳する人もいます。

 

(完全に、翻訳者の怠慢ですが)

 

そうすると、このサイトのような誤訳を起こしてしまうわけです。

 

 

かたつむりかたつむりかたつむり

 

翻訳の仕事は、こんな風に、翻訳者に翻訳の能力がありながらも、作業手順の過程で誤訳が起こってしまうことがよくあります。

 

翻訳作業が最近、CATツールを使うようになって、ますますこういうヒューマンエラーが起きやすくなっていると思います。

 

機械を導入してメリットもたくさんあるのですが(メリットについては、このブログの他の記事でいくつか取り上げています)、

こういう風に、また別の角度からミスが起こりやすくなってしまっているという現状があります。

 

それもこれも、よくよく考えると、機械が悪いのではなく、それを使っている人間の問題の気もしますが・・・

 

今回発見した誤訳の例は、そのほんの一部ですが、こういうミスが起きないように、しっかりとツールを使いこなせる翻訳者といものが、最近は求められているのかもしれません。

 

私の個人的な印象では、元の原稿(ウェブサイトなど)をちゃんと見て訳語を検討しないという、結局は翻訳者の「怠慢」が原因の大半だと思うのですが・・・

 

いずれにしても、そういったところまできちんと対処できる、ていねいな仕事が求められているのだと思います。

 

翻訳者に求められている能力とは、英語から日本語(あるいはその逆)に上手い訳ができることだけでなく、コンテキストや現場の状況や情報を的確に把握して、それをきちんと訳に反映できることです。

 

翻訳に求められる能力とは、言語運用能力だけでなく、こういう状況判断能力が大きな部分を占めるのだと思います。

 

ちなみに、機械(AI)の翻訳ミス・誤訳について、昨日あるSNSの事例を記事にしましたので、よろしければそちらもお読みください。

 

フラメンコとフラミンゴを区別できないAI(機械翻訳の残念な現状)

 

 

 

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

 

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