評価が上がらない翻訳者には何が足りないのか?俳優と翻訳者の共通点に着目すると見えてくる | 翻訳で食べていく方法★プロの翻訳者養成所

評価が上がらない翻訳者には何が足りないのか?俳優と翻訳者の共通点に着目すると見えてくる

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俳優の仕事をよく知っているわけではないのですが、いろいろな話を聞くと、役作りのために大変な労力と時間をかけて勉強や研究をされている印象です。

 

(発声から演技などの基礎的な訓練はもちろんですが)

 

お医者さんの役をするときには、実際に病院などに見学に行ったり、縫合の練習までする役者さんの話を聞いたこともあります。

 

もちろん、わずか数日や数週間、数カ月で習得できるほど簡単な仕事ではないわけですが、自分の役に対してリアリティを求め、少しでも本物に近いものを作り上げたいという、プロ意識がそこに表れているのではないかと思います。

 

そういった俳優の話を聞くと、いつも自分の仕事に重ね合わせて考えてしまいます。

 

翻訳の仕事も、俳優にちょっと似ているところがあるのではないかと思うのです。

 

まず、日々、大小さまざまな仕事をしているわけですが、次に何の仕事が来るかは仕事が来てみないと分からず、新しい仕事がきたら、(俳優さんが役作りするように)その仕事の内容の勉強から始まります。

 

翻訳者には「自分の専門分野」というものはあるわけですが、毎回同じ会社から同じ仕事が来るわけではありません。

 

たとえば、同じ「医療機器メーカー」からの仕事といっても、同じ仕事が来るわけではありません。

 

医療機器も医療分野に寄って随分と違いますし、それに応じて求められる知識が変わってきます。

 

医療に関する論文の翻訳が求められる場合もあります。

 

また、医療機器メーカーからの仕事だからといって、医療分野の仕事とは限りません。

 

従業員の就業規則やコンプライアンス関係の書類、契約書の仕事が来ることもあります。

 

その仕事の内容はまいかい違うわけで、それに合わせて、かなりの勉強は必要になります。

 

既に持っている知識だけで翻訳ができてしまうことは、ほとんどありません。

 

どんなに慣れている仕事でも、何らかの勉強は必要です。

 

そして、そのような「レギュラー」の仕事であればまだしも、通常は、特に実務翻訳者の仕事は、毎日毎日、違ったクライアント(発注者)からの仕事が入ってきます。

 

つまり、今日は医療機器メーカーの仕事をしたと思ったら、次の仕事は航空会社のホームページだったり、その仕事をしていたと思ったら、緊急案件で金融機関の仕事が入ってきたり・・・

 

そのたびに、その会社のことや業界のことを勉強してから翻訳をするのです。

 

ハチハチハチ

 

いや、もしかしたら、「リアリティを求める」という点においては、翻訳の仕事はもっと大変かもしれません。

 

特に、テレビや映画の場合はカットをかけたり、編集したりして、それなりに見せるということもあるかもしれません(それが悪いとか、劣っているとかいう意味ではまったくありませんので!)

 

翻訳の場合、実際にクライアントの手に訳文を手渡し、それを現場で使ってもらうところまでが仕事です。

 

手渡す訳文は、カットをかけることも(手渡してから)編集をかけることもできません。

 

医療機器の翻訳であれば、実際に現場で使われるものです。

 

ですので、「リアリティ」というよりは、「リアル」が求められる仕事。

 

そういう意味では、俳優さん以上に研究・訓練をしなければならないと思うのです。

 

実際に、俳優さんたちの中には研究や訓練、練習にかなりの時間をかけて努力をされている方がいらっしゃるのを知っているので、自分も(それ以上に)もっともっと努力しなければならないなぁ(まだまだ足りない)という風に思うわけです。

 

翻訳の仕事(通訳もそうですが)というと、「外国語が流暢に話せること」「外国語の知識」「日本語の表現力」といった、言語的な側面に着目されがちです。

 

翻訳の仕事をするうえで必要なことは何か?とよく尋ねられることがあり、そのとき、多くの人は「どうやって言語力を上げればいいか」「どういう教材を使って英語をマスターすればよいか」という(言語学的な観点からの)質問を中心にいただきます。

 

もちろん、言語的な能力がなくては仕事になりませんが、その先に「実務の内容に関する勉強」というものがあるということを、私はよくお伝えさせていただいています。

 

実際に、翻訳の仕事をしていると、そういう実務の勉強が大半を占めているような気がします。

 

その実務のイメージを持つために、俳優さんの仕事を想像してもらえると分かりやすいと思うのです。

 

つまり、たとえば、俳優さんが医師の役をする場合を考えてみます。

 

俳優さんは医師の役を研究し、その稽古を一生懸命にやるわけです。

 

翻訳者の場合も同じです。

 

しかし、翻訳者の場合、その医師の役をする際、台本は日本の医療現場で説明されているのですが、それを外国の医療現場に置き換えて再現しなければならないのです。

 

その置き換えた後の役を演じるのが(あるいはその台本を書くのが)翻訳者の仕事のイメージです。

 

必要な知識は、演技そのものの知識とスキルはもちろんですが(その演技をするために日本の医療現場の知識が必要)、同時に(演じる)外国の医療現場の知識(どんな言葉が交わされ、どんな機器があり、どんな患者がいて・・・)もないと演じられないわけです。

 

そのための勉強も必要になります。

 

それが翻訳だと思います。

 

誰かが、「アメリカではこういう風に演じるのですよ」と教えてくれるわけではありません(翻訳の場合は)。

 

翻訳者自身がそこまでやらなければならないのです。

 

外国の医療現場の情報を反映せず、日本の医療現場をそのまま(外国人の姿などで)演じてしまうのが、「日本語からの直訳」という感じです。

 

それでは、(そういうのが求められているのでない限り)仕事にはなりませんよね。

 

こういった感じで、翻訳の仕事で求められるのは、日本の医療現場をそのまま演じることではなく、それを(たとえば)アメリカに置き換えて演じるということ。

 

ですから、現地の医療のことを何も知らない人が演じることができないのと同じで(たとえ台本があっても、どう演じればいいか教えてもらわないと演じられない)、日本語を読めて、日本の医療現場の事を知っているだけでは、医療翻訳はできないわけです。

 

 

UnsplashTopSphere Mediaが撮影した写真

 

 

では、現地での経験がなければできないかというと・・・

 

まあ、経験があれば(翻訳の現場でも)即戦力になると思いますが、経験がない人は、何らかの方法で現地の医療現場のことを教えてもらう必要があるわけです。

 

これは、医療翻訳に限らず、どの現場でも同じです。

 

日本語で書いてあることをそのまま訳しても、現地の現場では、その翻訳は使い物にならない。

 

少なくとも、現地でも通用する用語や文言、言い回しを偶然にもできている場合は除き、日本語の原文をそのまま訳しても、現地では使えないわけです。

 

このことは、翻訳を依頼する人(発注者)も理解していない可能性があります。

 

日本語をそのまま訳せば(あるいはその逆)、それだけで十分と考えている人は多いです。

 

そこまで、分かったうえで翻訳をしないと、翻訳してもあまり意味がないということになります。

 

以上を踏まえると、翻訳をするために必要なこととしては、次の2つの面の勉強が必要ということになります。

 

 

①原文を理解する能力

 

②ターゲット言語の現地でどのような用語が使われ、どのような表現がなされているかの知識・理解

 

これは、日本語を外国語に翻訳する場合ですが、外国語を日本語に訳す場合も同様です。

 

医療の翻訳で言えば、原文を理解するには、アメリカの医療業界でどのようなことが行われているかを知らないといけないのですが、訳文に表現するには、日本の医療業界ではどのようなことが行われているかを知らないといけないのです。

 

そのまま訳しても、ほとんどの場合は、意味を把握する程度の訳文しか出来上がりません。

 

「実務翻訳」は、実務の現場で使える翻訳をすることが求められる仕事です。

 

このポイントを念頭に置くと、実務翻訳者を目指す人が翻訳の勉強をするときに、何を勉強するべきかが見えてくるかもしれません。

 

ターゲット言語の現地で、完璧な演技ができるようにすることを目指して勉強をするのです。

 

大根役者の翻訳では、買ってもらえないというわけです。
 

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

 

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