下手すぎる同時通訳がテレビに出てくるのはなぜか?(通訳を発注する際につまずかないためのポイント)
テレビなどでよく、とても聞きづらい(あまり上手とはいえない)通訳が出てくることがあります。
SNSなどの書き込みでも「通訳下手すぎ」「聞きづらい」「笑った」と話題になっているのをときどき見かけます。
確かに、プロとして(同業の私の目から見て)あれはマズイよねと思うような人がテレビのスピーカーから聞こえてくることはあります。
なぜそんなことが起こるのでしょうか?
通訳は人材不足なのでしょうか?
通訳の仕事はそれほど難しいということなのでしょうか?
テレビの場合、テレビ局お抱えの通訳士がいるわけではなく、必要に応じて外注します。
製造業などの場合、社内にお抱えの通訳がいることもよくあります(最近はご時世もアリ、少ないんでしょうかね・・・)
私の大学時代の後輩も、派遣社員だったと思いますが、社内の専属通訳・翻訳者として雇用されていました。
それだけ需要があるから専属でいられるのだと思いますが、テレビの場合は、常にそういう需要があるわけではありませんので、必要に応じて、外に頼むというわけです。
詳しい事情は分かりませんが、おそらく、基本的には通訳士を派遣する派遣会社にその都度発注するのだと思います。
私も2社ほど登録しているところがあり、よくテレビ関係の仕事の打診も来ます。
通訳を外注するテレビ局(あるいは番組制作会社)としても、実績があって信頼できる派遣会社に依頼するのだと思いますが、何らかの事情で、あまり上手でない人が派遣されてきてしまうこともあるのかもしれません。
あるいは、その通訳士さんが、たまたまその日、調子が悪くなってしまったとか?
もしくは、テレビ局(番組制作会社)が、実績もない、信頼できるかどうかもわからない派遣会社に依頼してしまったとかも、あり得ない話ではありません。
最近は、テレビ業界も景気が(以前と比べて)よくないみたいで、出演者のギャランティーも随分と下がっていると聞きます。
通訳士のギャランティーも、そんなに安いものではないと思うので、「少しでも安い通訳士を・・・」という会社の都合で、いつも発注している派遣会社ではない会社に派遣を依頼してしまうこともあるでしょう。
そんな通訳を出演させてしまっては、確かに番組やテレビ局に対する印象も悪くなってしまい、何よりも「良い番組を届ける」という局のミッションを果たせないわけです。
しかし、1回きりの番組であれば、それほど総合的に不利益を被るものでもないし、「まあいいか」といった感じで、やはり経費が優先されてしまうのかもしれません。
そういう意味では、やはり実績のはっきりしない派遣会社などに頼んでしまうと、こういうリスクを抱えることになります。
通訳を頼む場合は、そういう点も念頭に置いておくと良いかもしれません。
通訳は、特定の仕事をしようとすると資格が必要な場合もありますが、基本的には何も資格がなくても仕事ができてしまうので(お声がかかるかどうかは別として)、様々なレベルの人が「通訳」と名乗って登録などをしてしまっていると思います。
明確な資格があれば、もっと分かりやすいのに・・・と思います。
唯一、公的にある通訳の資格が「通訳案内士」という資格です。
これは国土交通省の国家資格です。
参考までに・・・
公的な資格はこれだけなんです。
この資格は、観光案内的な通訳の資格なので、かなり難易度が高い資格であるとはいえ、有資格者(現在、2万7000人弱いるそうです)のレベルもまちまちです。
ましてや、同時通訳ともなれば、さらに特殊なスキルと経験と知識が必要になるので、この資格を持っているかどうかというのが、テレビ番組で上手く通訳ができるという保証になるわけではありません。
ということで、現状では、良い通訳を手配するには、やはり良い派遣会社を知っていることが必須になります。
あるいは、通訳とのつながりを直接持つというのも一つの手だと思います。
UnsplashのMelyna Valleが撮影した写真
話の視点は変わりますが、通訳の側からすると、どの派遣会社に登録するかというのも、大きな問題です。
1つ目の問題は、仕事をたくさんもらえるのか?
2つ目は、自分の得意とする分野の仕事があるのか?
3つ目は(これが一番大事だと思いますが)、高いギャランティー(報酬)をもらえるか?
これらは、どの会社でも同じ条件なわけではなく、その派遣会社の得意・不得意が出てしまいます。
特に3番目のギャラに関しては、力のある派遣会社はやはり高いギャラの仕事を取ってきてくれるなぁという印象です。
最近は、コロナ禍もあって出番が少なくなってしまいましたが、このブログでも何度かお話した、あるテレビ番組の通訳の仕事を取ってきてくれている、私が所属する派遣会社は、社長さんが業界でわりと力のある方のようで(業界の人からそういう噂を間接的に耳にします)、通訳の立場をよく考えてギャラの交渉をしてくれています。
ギャラの単価も高いのですが、それだけではなく、たとえ1時間の仕事であっても、1日分のギャラを制作会社に交渉してくれます。
また、あるときは、番組の収録の時間が押してしまい、予定よりも長い時間にわたってしまったときは、制作会社に苦情を出してくれ、さらにギャラも上乗せしてくれました。
さらにあるときは、早朝(4時くらい)からの撮影があったときは、現地までのタクシー代を出してくれたのはもちろん、前日から収録があったという想定で、要するに1日半分のギャラをくれたこともありました。
これはすべて、番組制作会社と交渉してくれた結果なわけですが、このように力のある会社(人)だと、やはりきちんと払ってくれるわけです。
テレビ局や制作会社としては、本当は安く済ませたいところなのかもしれませんが、これで成り立っているところもわあるるわけです。
こういう派遣会社だと、自分も下手な仕事はできない!と思いますし、もっと良い仕事をしてこの会社に喜んでもらいたい!と、通訳側としても思うわけです。
話は戻りますが・・・
テレビ番組に出てきた通訳があまり上手でない場合、どういう経緯や事情でその人が番組を担当したのかは分かりませんが、その通訳自身の問題もありますが、その人をキャスティングした通訳派遣会社の問題、さらには、その派遣会社に発注をしたテレビ局(番組制作会社)の問題というところもあるということを、ご理解いただければと思います。
もし、みなさんが通訳を発注する場合は、そういう事情もあるということを考慮して発注されると、トラブルも少なくなるかと思います。
何かの参考になれば幸いです。
余談ですが、テレビ番組の通訳などの仕事は、テレビ局から直接発注されるよりは、番組制作会社から発注されることのほうが一般的だと思います。
特に民放の場合は。
N〇Kだと、わりとN〇Kからの発注ということも多い印象です(私が仕事をもらっている派遣会社だと)。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
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