人間の翻訳者の仕事がなくならない最大の理由(具体的な例を挙げて解説します)
機械翻訳(AI翻訳)がプロの翻訳者(人間)の代わりに(今のところ)なれない理由
「100%正しいと限らないから」
これは、人間の翻訳者の仕事がなくならない最大の理由だと思います。
仮に、機械翻訳にやらせた翻訳が90%の確率で正しいものが出てきたとしましょう。
でも、10%は間違いを含んでいたり、正しくない部分が含まれている「かもしれない」のです。
分かりやすい例を挙げてみます。
「これはペンです。」という文があったとします。
これを、100%ではないけど精度の高い信頼できる機械翻訳で英語に翻訳させてみます。
「This is a pen.」という答えが返ってきました。
この機械翻訳は、信頼できそうですか?
では、同じ機械翻訳に、ポルトガル語に翻訳させてみます
エストニア語
ハンガリー語
さあ、これらはすべて正しいかもしれませんし、どれかが間違っているかもしれませんし、全部違うかもしれません。
確率は10%です。
あなたなら、この翻訳者に翻訳を依頼しますか?
今、翻訳業界で起こっていることは、こういうことです。
で、多くの翻訳会社では、機械翻訳は信頼できない部分があるので、必ず信頼できる人間の翻訳者に少なくともチェックをしてもらっています。
私もそういう仕事をすることがあります。
間違いを直す場合もありますが、まったく手を加えない場合もあります。
「手を加えない場合」には、実は2通りあります。
1つは、訳文として全く問題がない場合。
つまり、人間が翻訳したのと変わらない質の文章ができている場合です。
もう1つは、変なんだけど、意味的に間違いなく、違和感があっても理解してもらうことができる場合。
後者の場合、「明らかに機械的な訳文(直訳など)だけれど、人間が頭を使って理解しようとしてくれれば問題なく理解できるというときには、手を加えないでください」という指示が出ているのです。
これは、基本的には翻訳会社や発注者の問題であり、お金をかけたくないので、機械にやらせて、問題がある場合だけ人間が手を加える(=お金を払う)という意図があるときです。
こういうときは、私たち翻訳者は手を加えてはいけませんし、仮に手を加えてもお金は支払われません(だからやりません)。
ちょっと理不尽だと思いますよね?でも、そういう案件が実際にあり、最近は、機械翻訳が普及しているためか、そういう案件が格段に増えてきています。
こういう仕事を、MTPE(Machine Translation Post Edit)などと言います。
もちろん、人間の翻訳者としては、お金が稼げませんし、納得のいかない文章でも認めなければならないので、こういう仕事は引き受けないという人も多くいます。
自分のプライドもあると思います。
ちょっと脱線しましたが・・・
MTPEの話はまた別の機会にするとして・・・
このように、現状では、機械の翻訳した文章を、どんなに機械的に対処可能な分野の仕事であっても、問題ないかどうかを確認するために、すべて人間の目を通すことになっています。
機械の質が上がり、良い文章が増えたとしても、この作業はなくなることはありません。
1%でも「間違いの可能性」が存在することが分かっていれば、チェックせざるを得ないのです。
先程挙げた、「これはペンです」の訳文。
英語、ポルトガル語、エストニア語、ハンガリー語・・・
みなさんならすべて採用しますか?どうしますか?
正しいかもしれないんです。
この言葉が、みなさんが経営するお店に掲示されるとしてみてください。
まあ、今回は比較的単純な例文だったので、「少しくらいいいや」と思ったかもしれません。
しかし、これが重要な契約書であったり、医療機器の説明書だったり、自分の会社のプロフィール文だったりしたら、どうですか?
何度も言いますが、「正しいかもしれない」のですが、「間違っているかもしれない」のです。
この、「不確実性」がポイントなんです。
仕事としての翻訳では、この不確実性が20%であろうと15%であろうと10%であろうと、関係ありません。
ミスが存在することが分かっている限り、チェックしないわけにはいかないのです。
ここに、機械翻訳をチェックする人間が不要にならない理由があります。
この「品質チェック」に関しては、製造業の世界では、この「不確実性」を、自分の会社(製造者側)が担保するのではなく、お客様(消費者)にある程度負担してもらっています。
その代わり、何か不具合などがあったら「返品」や「お詫び」で替えているのです。
場合によっては「リコール」をしたり、最悪の場合は「訴訟」や「損害賠償」で償うわけで、これは企業経営においては、リスクとして自社で抱えているわけです。
翻訳も、もしかしたら将来的には、このような「大量生産方式」のように、リスクをお客様に負担してもらうような形になるのかもしれません。
いや、機械翻訳を採用しているところは(翻訳会社もそのお客様も)、すでにそういう考え方なのかもしれません。
「ミスがあったらごめんなさい」
大事なところは、そういう事実がきちんとお客様や消費者に伝わっているか否か、という点だと思います。
翻訳会社側としては、どうしても機械翻訳の「メリット」ばかりを強調してしまい、利用する人には以上のようなリスクを矮小化して伝わってしまっているかもしれません。
この点は、もちろん翻訳会社(我々翻訳者も含め)が認識して説明していかなければならないのですが、翻訳を依頼する側も、機械翻訳というものを正しく理解して、機械翻訳のデメリット(そして、人間翻訳のメリット)をきちんと理解していただく必要があるのではないかと思います。
そして、特に重要な文書になればなるほど、ミスの可能性をはらんでいる以上は、人間によるチェックを抜きに翻訳をすることは不可能ということになります。
機械が100%正しいと証明できる日が来るまでは。
個人的には、100%正しいと言えるかどうかは、機械側の問題ではなく、信じる人間側の問題であり、そういう「不信感」は、人間である限り、機械から払拭することはできない気がします。
つまり、機械が絶対ミスをしないと信じることができるかどうかは、人間側の問題のような気がするのです。
UnsplashのAlexas_Fotosが撮影した写真
ところで、先ほど挙げた「これはペンです。」の訳文ですが・・・
間違いがあるかどうか、お分かりになりますか?
実は、ハンガリー語が間違っています。
ハンガリー語で書いてある文は
Ez pénz.
pénz は「お金」という意味で、「ペーンズ」と読みます。
「ペン」はceruza(ツェルザ)と言います。
ハンガリー語は英語などとはまったく関係のない言語で、共通していない言葉が本当におおく、私的には紛らわしいです。
ハンガリー語を勉強してもう2年以上になりますが、なかなか英語など、すでに持っている言語のイメージから抜け出せない単語も多く、なかなか苦戦しています(そこが楽しいのですがw)
「Ez pénz」の「Ez」もそうですね。
「エズ」と読むのですが、どうもスペイン語の「es」(英語のbe動詞のようなもの)のイメージが自分の中にこびりついていて、いまだに勘違いしてしまうことがあります。
さらにややこしいのが、ハンガリー語の冠詞「a」。
a ceruza(ア・ツェルザ)
英語の不定冠詞「a」のイメージがいまだにつよく、どうしても「1本のペン」のように勘違いしてしまうのですが、ハンガリー語で「a」は定冠詞(英語のthe)。
ですから「a ceruza」は「a pen」ではなく「the pen」なんです。
これは今でも本当によく間違えます。
いずれ慣れるときが来るんでしょうか?!
まあ来るんでしょうが、そういうところも楽しみつつ、ハンガリー語をやっています。
と、最後はハンガリー語の話に脱線してしまいましたが・・・
話を本題に戻すと、「機械翻訳の信頼性」と「人間翻訳者の必要性」といった話と、まとめることができるでしょうか。
機械翻訳の精度が上がると、確かに人間翻訳者の活躍の場は減るかもしれませんが、人間翻訳者の重要性は、逆にますます高まっていくような気がします。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
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