翻訳者の専門分野はどうやって決めればいいのか?専門分野はそもそも必要なのか?
翻訳の仕事をしたいけど、「翻訳者になるには専門分野が必要」とか「専門がなければ翻訳は無理」なんていう言葉に、ちょっと不安を感じたり、自分には無理なんじゃ・・・と思ったりしたことのある人も多くいるのではないかと思います。
私は翻訳の学校に通ったわけでもなく、『翻訳者のなり方』のような本を読んだりネットで調べたりして翻訳業界に飛び込んだのですが、やはりそう言われているのを知っていたので、自分のバックグラウンドにある分野を自分の専門にしようと思い、それで「契約、法律、金融」といった分野の専門家と(勝手に)名乗って翻訳の仕事を始めたのでした。
とはいえ、登録した翻訳会社からすぐに大事な仕事を任されるわけでもなく、まともに仕事すらもらえな状況でした。
そりゃそうですよね。実際に私が翻訳者としてどれくらい信頼できるかなんて、最初の段階では分かりませんし、しかも、翻訳会社にはすでに翻訳者がたくさん登録しているでしょうから、自分に初仕事が回ってくるのなんて、次のまた次といった感じでしょう。
実際に、私がその翻訳会社から頂けた最初の仕事は、結婚のお祝いメッセージをイタリア語に翻訳する仕事でした。
実は正直に言って、その当時はそんな仕事で("そんな仕事”といっては失礼な話ですが)安堵したところもありました。
私は、そもそもアメリカの生命保険の代理店に勤めていて、現地で生命保険の営業や資産運用の販売業務のアシスタント的な仕事をしていました。ですので、金融関係の翻訳の仕事をしていたわけではありませんでした。
その後、日本に帰ってきて、金融とは関係のない会社に就職したのですが、独学で会計と金融の勉強をしていました。いずれ、証券会社などに転職しようと考えていたからです。
そういう背景があったので、その後(方向性が変わり)翻訳者として仕事をしようとなったときに、「金融」を専門分野とする翻訳者になったのでした。
しかし、専門といってもその程度の知識と経験ですので、業界の専門家というには程遠い感じです。
まったく経験のない人よりは少しだけ頼りになる程度。
ですので、翻訳の仕事をし始めたばかりのときは、「本当に金融の仕事がきて、自分では対処できないようなレベルの仕事だったらどうしよう・・・」という不安で毎日を過ごしていました。
そんな私の不安とは裏腹に、現実の問題として、金融関係の仕事は最初の数年間、まったく私の元にはやってきませんでした。
その後は、自分の専門とは関係のない分野の仕事をポツポツともらえるようになり、実際に自分の専門分野の仕事がもらえるようになったのは、2年目か3年目だったと思います。
しかし、翻訳自体の基礎がなかった私にとっては、専門分野だろうがそれ以外の分野だろうが、大変さは同じだったような気がします。
どっちにしろ、翻訳をするという作業の大変さを感じていました。
では「翻訳者にとって専門分野は意味がないことなのか?」というと、そうでもありません。
専門用語や専門的な表現を知っているというアドバンテージがあります。
また、言語的な情報だけでは訳せないときもあります。それは、日本語と英語(外国語)で異なるアプローチで説明することもありますし、用語自体、直訳でない場合も多くあります。
業界は、そういう風に一筋縄でいかないことであふれていますので、やはり業界の情報や内情、そして専門的な知識を予め知っておくことは重要です。言葉で訳すだけでは対処できないことが多いのです。
つまり、両方の言語で、両方の国の業界事情や専門分野の情報を持っている必要があるということです。
ですから、私もいまだに、新しい概念や新しいものを翻訳するときには、両方の言語でその知識について勉強をして、知識のすり合わせをします。
とくに、金融や法律(契約)、工業やITなど、いわゆる専門知識が必要となる分野は、そういうことが必要となります。
文字だけを読んで訳せるほど、簡単にはいかないのです。
UnsplashのDavid Pisnoyが撮影した写真
では、専門分野がないと翻訳者になれないのか?というと、そういうことはありません。
先ほども話したように、いずれにしても翻訳者になってから勉強をして学んでいくことも多くあり、もしかしたらそちらのほうが 多いかもしれません。
業界は、どの業界であっても日々変化していますから、昔の知識(自分が業界にいたときの知識)ではすぐに古くなってしまいます。
ですから、「自分に専門分野がないから翻訳ができない」というふうに考えるよりは、「自分が勉強していくことに抵抗のない分野を翻訳の専門分野にしていく」というふうに考えた方がよいでしょう。
私も、最初は「金融」「法律」などを専門分野にしていました。
しかし、長年翻訳の仕事をして、いろいろな分野を担当していく間に、自分の得意分野が「マーケティング」であることに気づきました。
広告やPRのキャッチコピーを考えたり、プレゼンテーションを作成したり、ニュースレターを書いたり・・・
そして、キャッチコピーの勉強をしたり、プレゼンテーションの作り方の勉強をしたり、いろいろ試しながら翻訳の力を磨いてきたということがあります。
いや、翻訳の力というよりは、ライティングの力と言ったほうが的確でしょうか。
このように、自分の得意な分野を後から見つけ出して、それを自分の専門分野としていくことも十分に可能です。
「専門」と言うからには、その分野で他に人に負けないだけの力を持っている必要があります。
何か尋ねられたら、それに対して(自分なりの)答えを出すことも求められるでしょう。
また、クライアント(発注者)に気に入ってもらえる文章を書けなければ、その分野の「専門家」とは言えないでしょう。
しかし、翻訳は「答えが一つ」というわけではありません。
特に、人間がする翻訳の場合、クライアントの好みに合わせて表現や文体、用語の使い方を調整することもできるわけです。
そういうことも含めて、自分が専門とする分野の文章をクライアントに提供(提案)することができれば、その分野を自分の「専門分野」と言うことができるのではないでしょうか。
いずれにしても、翻訳者になって最初から専門分野がなくても大丈夫です。
しかし、いずれは自分の「専門」と呼べる分野がないと、翻訳者として長く活躍していくのは難しいかもしれませんし、つらくなるときがあるかもしれません。
ですので、翻訳者というキャリアを築き上げていく過程で、専門分野を見つけ、そこを「得意」と言えるようになるまで鍛え上げれば良いと思います。
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