実は映像の仕事だらけの翻訳業界。字幕翻訳のチャンスをは多く転がっている
翻訳の仕事をしたいという人の中には、映像の字幕翻訳をしてみたいと思っている人も少なくないかと思います。
「字幕翻訳」と言って最も多くの人が思い浮かべるのは、映画の字幕でしょうか…
しかし、「字幕翻訳」の仕事は、映画以外にも実は結構多くあります。
最近では、特に需要が増えているかもしれません。
何だか分かりますか?
今日は、「映像翻訳」あるいは「字幕翻訳」にはどのような種類のものがあるか、私が携わっている仕事を中心にお話してみたいと思います。
先ほども言ったように、映画の字幕翻訳は多くの人がイメージする「映像翻訳」の仕事かもしれません。
実際に、業界でも「映像翻訳」と言うと、映画のことを指すことが多いです。これには、テレビやビデオなどの字幕翻訳も含まれるでしょう。
そして、こう聞くと「結構、狭き門なのではないか?」と感じている人も多いかもしれません。
実は、映像翻訳の世界はもう少し広がっています。
最近の現象と言えると思うのですが、特にITの発達のお陰で、以前に比べて映像を活用する場面が、各段に増えたのです。
テレビを含めた映像技術の発達が始ったころから、映像がいろいろな場面で使われるようになったと思いますが、ITの発達が映像の爆発的伸びに寄与していると思います。
実際に、まだまだ若かった〇十年前、私が初めて成田からバンクーバーへ飛行機で行ったとき、座席にテレビはありませんでした。
CAさんたちが食事などを用意するギャレーやトイレのブースの後ろの壁にスクリーンがあって、そこにフライト情報や映画が映し出されて、みんなで同じものを見るのです。
映画は、みんなが寝ているような時間に2本立てくらいで上映して、終われば何もありません。
音は、座席にイヤホンで聞けるので、機内に大音量で流れるわけではありませんが、でも基本的には映画館のようなもの。
室内灯は落とされますが、映画が一晩中上映されているので、夜中はずっと映画の薄明かりの中で過します。
今では、各座席にスクリーンがあって、いくつものチャンネルがあり、それぞれ好きなものを見れますよね。あるいは、見なくてもいいわけです。
チャンネルも多様化し、ゲームもできますし、今ではインターネットも利用できます。
それだけ、機内でも映像が多用されているわけです。
また、離陸までの間の安全の案内も、今では映像が基本で、CAさんたちは補助的な存在ですよね。昔はCAさんがしゃべって、実演するのを見ていたのです。
昔のことを思い出して、つい長々と飛行機の話をしてしまいましたが…
飛行機ひとつを例にとっても、映像だらけです。しかも多様な映像があります。
これで、多様な搭乗客のニーズに応えているわけです。
これだけ映像が多様されている現代は、一昔前(私が若かったころのように)と比べても、映像字幕翻訳の需要がかなり高くなっていることがお分かりいただけると思います。
飛行機に関連するものだけでも、多種多様な映像があります。映画だけではありません。
機内安全ビデオ、航路案内、現地観光案内、ショッピング、ゲーム、テレビ番組、入国審査の案内…
その他にも、航空会社自体のPR映像(テレビCM、ホームページ映像、YouTube動画など)も最近ではたくさん制作されています。
どこもかしこも「映像」です。もはや、貼り紙とかパンフレットなんていう時代ではありません。
一般のお客さんは目にすることが少ないですが、たとえば航空会社の営業活動(セールス)にも、映像が多く活用されています。
新型機のPRや旅行会社への売り込み、なんていう、営業担当者の活動でも映像が使われます。営業先でノートパソコンを開いて客先に見せたり、見本市(トレードショー)などで来場者に見せたりなど、そんなところでも映像が多用されています。
今どき、何十ページもの分厚いカタログを開いて、お客様に仕様データ表を見せながら売り込む人は、ちょっとできないセールスマンって感じです。
これは、航空業界に限った傾向ではありませんよね。
飲食店でも、自動車のショールームでも…
今、消費者を相手にする企業以外でも、ほとんどの企業が今は自社のPRを映像で行っています。ホームページやテレビCMを見てください。
映像、映像、映像です。
こういうところすべてに、我々翻訳者の仕事があるのです。
すごくないですか?今の世の中は、映像翻訳の仕事だらけです。
こういう映像すべてに字幕が付くわけではありませんが、それでも、グローバル化が進んでいる今、1つの言語(母国語)だけで映像を展開しているところは、むしろ少数派でしょう。
お金が潤沢にある企業は、それぞれの言語で映像を作っています。
あまりお金がないところだと、外国語の吹き替えをいれ、もっとお金がないところは、字幕を付ける…という感じでしょうか。
ともかく、欧州の企業も、中東の企業も、アメリカの企業も、アフリカの企業も、アジアの企業も、オセアニアの企業も… どこの企業も自国言語+英語+中国語の3言語くらいは、必ず展開していると思います。
産業翻訳をしていると、このような企業が展開する映像の字幕翻訳の需要が本当に高いです。
映画の字幕翻訳の、何千倍、何万倍にもなるでしょう。
どうですか?みなさんがイメージしているのと違ったでしょうか?
産業翻訳(実務翻訳)では、実にさまざまな映像の仕事が来るわけですが、最近私がよくやっている仕事をいくつか例にご紹介しましょう。
・企業や製品のPR映像(ナレーション字幕)
これは、先ほどお話したとおりです。
ホームページや公式YouTubeチャンネルなどで流すものが多いです。テレビCMのもありますが、これはわりと映画の字幕をやる会社に発注する場合が多いようです(棲み分けが少しあります)。
ナレーションを字幕にして、その字幕を多言語に翻訳するケースが多いと思います。
ナレーションを字幕にするのは、実は日本の企業は多くないようですが、世界的には(翻訳でなくても)標準です。
インクルージョンの観点から、耳の聞こえない人向けに字幕を入れるのが普通です。
ですので、翻訳するためには、そのスクリプトをただ訳してもらえばいい、という考えのところも多くあります。
ついでに、中国語やスペイン語の字幕も入れてしまえ、という感じでしょうか。
日本市場向けの映像には、もちろん日本語の字幕を付けるわけです。
吹き替えだと、翻訳した後にナレーターも必要ですし、音声技術者も必要ですし、また大変なわけです(いずれにしても、翻訳は絡みますが)。
とにかく、今は世界に向けた映像を使わない企業はまずありません。
・会議やウェビナーの字幕
これ、最近本当に多いのですが…
企業の社員研修もそうですし、顧客向けの製品の使い方の説明などもあります。
たとえば翻訳業界で言えば、CATツールの使い方のセミナーなんかがあると、映像をアーカイブとして残して登録している翻訳者が後から見れるように用意されたりします。その映像に日本語の字幕を付けるということもあります。
翻訳会社だけではなく、私は、たとえばIT企業や製薬会社、金融機関、メーカーなどのセミナー(ウェビナー)の字幕翻訳をすることが多くあります。
もちろん、国際会議などでアーカイブを残すというとき、多言語で字幕を入れることも多くあります。
・テレビや動画のインタビューなど
これももしかしたら、(翻訳会社ではなく)映画の字幕をやるような会社に発注されることが多いかもしれません。
でも、私のところにも結構、この手の仕事が回ってきます。翻訳会社や映像制作会社からの依頼が多いです。
在宅でするときは、短い映像やクリップなどの映像に付く字幕の翻訳で、スクリプトが渡されて、それをただ翻訳して、翻訳したスクリプトを返して、あとは制作会社が字幕を入れてくれます。
テレビ番組の場合、実際に翻訳した部分がすべて放送されるわけではないので、制作のディレクターさんが分かるように翻訳をして、あとはDさんがうまく書き直してくれることも多くあります。もちろん、最後に私がチェックします。
長い映像や、パソコンでやりとりができない映像(テレビ番組など)の場合は、テレビ局や制作会社のスタジオに行って翻訳することもあります。
また、先日もこのブログでお話しましたが、私の場合はeスポーツのイベントのインタビュー映像やPR映像の字幕翻訳もやっています。
これは翻訳会社が受注しているものを、私がいただいているのですが、字幕のスタイルとしては映画の字幕に近いと思います。
そうなんで、「字幕」といっても、みんな同じスタイルなのではなく、今日お話ししたような、映像の種類によって、字幕の付け方が違うのです。
それについては、また機会をあらためてお話できればと思います。
UnsplashのImmo Wegmannが撮影した写真
私がよくやる仕事は、だいたい以上だと思いますが、何か忘れているのがあるかな…
他の翻訳者仲間の中にも映像をやっている人がたくさんいると思いますが、他にどんな映像の字幕をやることがあるでしょうかね。
このほかに、私も映画の字幕を何度かやらせてもらったことがあります。もちろん、今でもやっていますが。
映画の仕事は、私の場合は映像字幕翻訳の専門の会社から仕事をもらいます。
やはり、業界の慣習として、そういう風になっているのかもしれません。
ただ、最近では、映画もフィルムだけでなく、たとえばインターネットのみで上映されるようなものもかなり多くあり、そういう映像の字幕の仕事は、翻訳会社からいただいたり、私の場合は個人的にご紹介いただいて、制作会社から直に受注することが多いです。
YouTubeの動画の字幕の需要も増えていると思います。
ただ、YouTubeの字幕は、機械翻訳で自動的に付けているような人も多いので、みなさんが視聴するYouTube動画の字幕すべてが、翻訳者のやっているものとは限りません。
でも、YouTube動画も、本格的なプロの投稿が増えている今、本格的な翻訳の需要が高まっていることも確かです。
特に欧州からの引き合いが多いと、個人的には感じています。
先ほどもちょっと言ったように、映画か企業PR動画かなど、映像の種類によって字幕の付け方も変わってくるので、必ずしも「字幕翻訳をしたい!」と思っている人のイメージ通りの仕事にはならないかもしれません。
そういう意味では、映画字幕をやりたいという人は、相変わらず狭き門かもしれませんが(作品数が圧倒的に少ないですから)、映像に関係する翻訳をしたいという人であれば、最近はかなり多くの機会があると思います。
どんな仕事があるか、イメージを掴むための参考になったなら幸いです。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
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