どんなに優秀な翻訳者でも、いきなり仕事をするのを難しくする翻訳実務の2つのプロセス | 翻訳で食べていく方法★プロの翻訳者養成所

どんなに優秀な翻訳者でも、いきなり仕事をするのを難しくする翻訳実務の2つのプロセス

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先週末から週明けにかけて

かなり仕事が詰まってしまい

いつも担当している

ある金融機関の仕事を

今日は引き受けることができませんでした

 

じゃあ

そういう仕事は

他の翻訳者のところに回ってしまうのか?

と言うと

そう簡単にもいかず

 

翻訳は他の人にやってもらい

私が最後にチェックすることになりました

 

このとき

代わりの翻訳者の方が

レベルが低いから私がチェックする

というのではなく

その翻訳者さんも

実績と信頼のある翻訳者なわけです

 

基本的には

代わりの翻訳者を立てる場合も

私と変わらず

第一線で活躍している翻訳者です

 

それでも私がチェックを入れる理由は

2つあります

 

1つは

金融関係の用語や表現

内容が正しく訳出されているかのチェック

 

ベテランの翻訳者とはいえ

金融関係の仕事を普段からしていないと

最前線の専門用語とか

事実関係とかを

正しく表現できていない恐れがあるからです

 

今回の案件は

私がすでに訳出していた部分を

踏襲できる部分もかなりあったのと

 

そこまで

専門的な用語や概念が

記載されている原文でもありませんでしたし

 

難しい金融商品などの概念が登場するような

文章でもなかったのです

 

ただし

ニュアンスの間違いや

業界の言い回しや慣習的表現など

慣れていない翻訳者が

時間をかけて調べたり

勉強したりしながら

神経をすり減らして翻訳するよりは

私が最後にサーっと見てしまったほうが

総合的な時間と労力の節約になるのです

 

やはり

慣れている人や

業界に精通している人が

最後にサーっと見るのと見ないのとでは

品質保証の観点から

大きな差が出ると思います

 

ハチハチハチ

 

私がチェックを入れる理由の

2つ目は

 

もっと狭い目で

文体やスタイル

それから

スペースの使い方や

半角・全角文字を使うルール

固有名詞を訳すか否か

などなど

そのクライアント独特の

書き方のルールというものがあり

そのチェックをするためです

 

これは

語学力とか業界知識とは全く関係ない話

 

たとえば

金融機関の案件でも

A社とB社では

文章を書くときの技術的なルールが

違う場合があります

 

このような

訳文を書くときのルールのことを

「スタイルガイド」

などと呼びます

 

これは

共通のものもありますが

クライアント別にまちまちの部分もあります

 

たとえば

A社は

人名や会社名は訳さず原文のまま

 

B社は

人名は訳さないけど

会社名は日本で日本語表記が一般化している場合は

その日本語表記を使う

 

C社は

すべてカタカナ表記(音表記)に訳す

 

といった具合です

 

その他にも

「%」を半角文字にするか全角文字にするか

とか

 

半角文字のと全角文字の間には半角スペースを入れる/入れない

とか

 

たとえば

「1泊2日」

と書く場合

半角スペースを入れなければこのとおり

 

半角スペースを入れるルールを採用している場合は

「1 泊 2 日」

となります

 

こういうルールは

恐らく

出力したときの読みやすさ

視認性に配慮してのことだと思います

 

その他にもルールはたくさんあり

それが

クライアントごとにまちまちなのですから

急に私の代わりに翻訳をしてくれる人が

それをすべて間違わずに書くことができるかというと

なかなか難しいものです

 

その翻訳者に

スタイルガイドをしっかり勉強してもらい

スタイル的に正確な文章を書いてもらうよりも

基本だけ抑えてもらい

あとは私が確認してしまったほうが

効率的だというわけです

 

要するに

私が訳文を最後にチェックすることで

訳文がスタイルガイドに沿っているかを確認する

というわけです

 

 

翻訳の仕事は

このように

「訳文を産出する」

という作業だけではなく

どのように書くかという

スタイルをそろえたり

あるいは

同じクライアントの別の文章と

いろいろな用語を統一したりと

さまざまな作業が絡んでいます

 

ですので

いきなり新しい翻訳者が

「〇〇銀行の翻訳をしてください」

と言われて原文だけ渡されても

どういうルール(スタイル)で書けばいいか

分からないので

ただ翻訳する

というわけにいかないのです

 

 

Photo by Roman Melnychuk on Unsplash

 

 

こういうことを考えると

翻訳って

語学力があって

翻訳の技術力があったとしても

いきなり仕事をするということは

なかなか難しいということが

お分かりいただけると思います

 

翻訳の技能がいくらあっても

業界の知識や慣習、流行など

その業界に精通している人でなければ

いきなり翻訳するのは難しいのです

 

そして

クライアントごとに細かく設定されている

スタイルガイドも

知らないことには正しく書けないですし

それを熟知するには

相当の時間がかかるわけで

翻訳の技能の有無とは関係のない話

なわけです

 

もちろん

スタイルや文体

それから

クライアント独特の表現や語彙など

しっかり勉強をしてから訳出する

ということもできます

 

しかし

それにはどれくらいの時間がかかるでしょうか?

 

この事実を踏まえると

翻訳者の存在意義というものも

かなり大きいものだと

感じていただけるのではないでしょうか

 

いきなり優秀な翻訳者が現れたとしても

そう簡単には

その人に任せられる

というものでもないのです

 

翻訳の仕事の

奥行を

少し知っていただけたら

幸いです

 

最後までお読みくださり

ありがとうございました

 

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