「魔の置き手紙」の話⑤ | 悪性リンパ腫になった僕のはなし

悪性リンパ腫になった僕のはなし

〜いち患者の、ある入院の話〜
  悪性リンパ腫
  ホジキンリンパ腫
  AYA世代を通り過ぎ

「休みの日に、職場を開けていただくことはできませんか?」

 

 

 

こうもちかけた私に対し、上司は首を縦に振ってくださった。

 

完全なる私のわがままなのに、大切な休日の時間を割いてくださった。

 

本当に頭が下がるばかり。

 

自宅のベッドの関係で、物理的には上司が住む方角に足を向けてしまうのだが

 

精神的には足を向けて眠れない思いでいっぱいである。

 

 

 

 

そして、週末にガランとした職場で仕事を始めさせていただいた私。

 

溜まった仕事を何とか進めていかなければという思いや

 

お付き合いくださる上司への申し訳なさから

 

少しでも早く終わらせなければという焦りを感じながらも

 

「仕事はかどる〜♪」なんて、恩を仇で返すような思いが浮かんでしまうようなダメな私。

 

 

 

しかし、いろいろな思いはありながらも

 

私に貸された命題が【なるべく早く仕事を終える】ということには変わりなかった。

 

 

 

 

実際、職場で仕事ができる時間を効率的に進めるため、平日の間に自宅で考えをまとめたり

 

準備をしたりしていた。

 

そして、週末の職場では、準備し、溜めてきたものを一気にスパークさせるが如く

 

書類に目を通し、パソコンを打ち続けた。(なんて思っているのは、自分だけ〜〜w)

 

 

 

まずは、自分が進めなければならない仕事。

 

出来るビジネスマン(勝手な妄想)が如く、パソコンのエンターキーをパーン!と打ち鳴らす。

 

 

 

その後は、仕事の確認や依頼のための文書を作り。

 

 

同じことを伝えるにも、同じことをお願いするにも

 

自分の考え方や伝え方一つを意識できるだけで、相手が受け止める印象は変わってくる。

 

しかし、「仕事を進めなければ!」「なるべく早く終わらせなければ!」

 

ということが至上命題だと盲信していた私に

 

我がことながら残念ながら、受け止める相手の気持ちを慮る余裕はなかった…

 

 

 

仕事内容の確認や関係者への連絡・調整の依頼、検討事案の提起などを一覧にして

 

プリントアウトしたものを、何の事前連絡もなく、直接の仕事仲間や関係者の机上に

 

ぺぺぺっと置いていった。

 

 

 

 

 

 

そして、週が明ける。

 

 

休日明けでスッキリした方もいれば

 

仕事へのモチベーションを徐々に上げていこうとされている方もいる。

 

 

いろいろな思いをもって出勤された月曜の朝に、身に覚えのない置き手紙。

 

気分スッキリの方にとっても、モチベーション低下気味の方にとっても

 

この置き手紙が気分を落とすことはあっても、上げるものではなかったことは確かであろう。

 

 

それも、置き手紙の差出人が、よくわからない理由で突如姿を消している人間…

 

気持ちの悪さこの上なしであったことと思う。

 

 

 

 

 

本当に、見通しの甘かった自分。

 

 

今振り返ると、自分の病気のことや治療のことなどを受け止めていたつもりであったが

 

この時期の私は、どこか自分事として考えられていなかったように思う。

 

 

より正確にいうと、がんという病気やがん治療というものがやってきた時に

 

自分の今や今後について考える知識や材料、情報を私自身が持ち得ていなかったのだ。

 

 

具体的な治療経過や治療を進めていく上で起こり得ること、自分の仕事と病気や治療との関係性

 

その上での仕事への影響や働き方などには、ほとんど考えが及んでおらず

 

周りにご迷惑をおかけし、「魔の置き手紙」を出し続けることになってしまったのだ。

 

 

 

 

病気の告知や治療中の生活、その後の経過などに関して

 

有難いことに失敗や反省をほとんど感じることなく過ごせているのであるが

 

ほぼ唯一であり、かつ最大の失敗・反省が、この「魔の置き手紙」を始めとする

 

私の仕事に関する考え方や対応であった。

 

(仕事との向き合い方は、現在進行形で難しさを感じているかも〜ですね…

                       なかなか精進できませんw)