「その1」
「その2」
「ある日の風景 その1」
「その3 1/2」
「その3 2/2」
「ある日の風景 その2 1/3」
「ある日の風景 その2 2/3」
「ある日の風景 その2 3/3」
社長との話はスムーズに行った。千早の海外進出に伴うユニットの解散、そして再デビューの話には、渋い顔するどころか、むしろ喜んでくれた。本当に懐の深い人だと思う。
ただ問題は春香だ。現在765プロに候補生はいないし、活動中の娘達もこれからだったり、やっと軌道に乗り始めたところだ。安々とユニットを組み直すことは出来ないというのは、俺も社長も同じ見解だ。ソロで売り出すにしても、正反対の方向性とは言え、千早と比較されることは目に見えており、余り良い効果は期待できない。
「それに、僕は春香自身にそう言う意識を持たせることは、酷じゃないかと思うんです」
「むぅ……。まあ、君がそう言うのなら、そうなのかも知れないね。ただね」
「ただ?」
「春香くんは、そんなに弱い娘なのかね?」
「それは……」
「まあ、結論を急ぐことはない。まだ時間はあるんだ。もう少し様子を見ようじゃないか」
「はい」
「そうは言っても、ドームライブ後の企画は見直さないとな」
「あ、その話なんですけど、僕はまだ聞かされてなかったんですが、どういう企画だったんです?」
「彼女たちの冠番組だよ。ま、深夜枠だがね。とは言っても、23時半から45分間の一社提供だよ」
「そ、それは、凄いですね」
「うむ、765プロ始まって以来の快挙だ。いや、しかし、こうなったからには、それも夢だったがね」
「すみません、折角のチャンスを……」
「君が謝ってどうする。それにもっと大きな夢が掴めるんだ。前を向こうじゃないか」
「はい」
「では、わたしは明日にでもテレビ局に行ってくるよ。社長のことはよく知っているので快諾してくるとは思うが……」
「やはり、現場ですよね」
「うむ。千早くんの話がどういう形で進行するにせよ、プロダクションとしての責任は負わねばならない」
「はい」
「そこで、忙しいところ済まんのだが、明日中に代替案を考えておいてくれ。書面でもデータでも構わん。先方に分かりやすい形で頼むよ」
「……わかりました」
「この業界はスピードが命だ。本来であるなら、明日赴いた際にでも提案しておきたかったところなのだが……」
「色々ワガママ言ってすみません」
「ま、今回ばかりは致し方がないさ。━━━━それでは早速で悪いが、頼むよ」
「はい。失礼します」
代替案……か。さて、どうしたもんかな。とりあげらるかどうかは分からないが、実のあるものを考えないと。とりあえず、構成作家に何人か電話してみるか。
と、ドアに手をかけようとした時、
「あー、それともう一つ」
「はい」
「千早くんの件だがね。うちはアイドルのマネジメントは出来てもアーティストの実績は皆無だ。ましてや市場は海外」
「はい」
「そのことは、心に留めておいてくれ」
「……分かりました」
ふぅ……。
「あ、プロデューサーさん、少し良いですか?」
「あれ? 小鳥さん、まだいたんですか? もう21時廻ってますよ?」
「ええ、ちょっと仕事を溜め込んでしまって。━━━それで、この請求書なんですけど、スタジオ収録時の代金が入っていないのですが、このままでも良かったんですか?」
「ああ、すみません。それはそのままで。そこだけプロモーションになるんで、レコード会社負担で廻してあります」
「わかりました。あと、これが先週の伊織ちゃんの業務実績です」
「え? もうやっちゃったんですか? 悪いなあ……。じゃあ、早速チェックさせて貰いますよ」
「プロデューサーさんこそ、明日でも良いじゃないですか」
「いやあ、明日は立て込んでまして……。今日のウチにやっておきたいんです」
「そうですか……。でも、くれぐれも、無理はしないでくださいね?」
「ええ、大丈夫です!━━━━それにしても、小鳥さん」
「はい」
「律子が抜けてしまってから、やっぱり一人はきつくないですか?」
「ええ。でも、もうすぐ新しい人が来ますから。それまでの辛抱です」
「あ、そうなんですか。それは良かった。それで、どんな人です?」
「とっても綺麗なひとですよ」
いや、容姿じゃなくて……。ま、いいか。
「しかし、あんまり綺麗だと、また社長がアイドルにしたりしませんかね」
「それは、大丈夫だと思いますよ」
なら良いんだけど……。
さてと。
仕事にかかろうと机の上を改めて見てみると、妙な筆致のA4サイズの紙が一枚……。
「なんだこりゃ? ……亜美と真美の世界征服計画?」
「あ、ごめんなさい、すぐに片付けます」
「なんです? これ」
「落書きですよ。もう、あの娘達ったら」
「おー、似顔絵付きか。なになに? 亜美が大王で真美が魔王? で……真が地獄の騎士で雪歩がお茶くみ係。んで、伊織が意地悪な魔法使いってか」
他にも765プロの全員にキャラクター付けがされていて、
「って、なんだこれ? 俺は門番って、キャラ薄いなあ」
「うう……、プロデューサーさんはまだ良い方ですよ。わたしなんて窓口係なんですよ?」
「それを言ったら律子なんてもっと非道い。鬼嫁って、もう世界征服関係ないじゃないですか」
律子のイラストは、目をつり上げ角を生やし、牙を剥いている。しかも、ちょっと怖いぞ、この絵は。俺のマル書いてちょんが可愛くみえるじゃないか。これは律子が見たら大変だな。ただじゃ済まないぞ。
「すみません、プロデューサーさんの机で遊ばせてしまって」
「いえいえ、構いませんよ、これくらい……!。これは……」
「ど、どうしたんですか?」
「これは、上手くすると上手くいくかもな……」
「え? あの、プロデューサーさん?」
「小鳥さん!」
「は、はい!」
「ありがとうございます! 机をそのままにしておいてくれて!」
「は、はあ……」
「社長!」
これでテレビの件はいけるだろう。確信を持って俺は、社長室のドアを叩いた。
蒼い鳥 番外編 少しだけ未来のお話 - Christmas For You -
※略記号・用語解説
SS=サイドストーリー
P=プロデューサー
IU=アイドル・アルティメイト
ゲームソフト・アイドルマスターSPのストーリーモードに新たに設定されたシステム。形式は通常のオーディションと同じだが、これに落ちることはゲームオーバーとほぼ同義。
765プロ=765でナムコと読む。アイドル達が所属する芸能事務所のこと。
961プロ=961でクロイと読む。ゲームソフト・アイドルマスターSPのストーリーモードにから登場する、765プロのライバル事務所。
ニコマス=ニコニコ動画で制作されるアイマス作品の総称、またはその愛好家。
・その3
ここで小鳥さんと美希が登場します。
小鳥さんのポジションは公式のまま。あくまでアイドル達の先輩でありお姉さん的存在で、ニコマス的なエロ設定や妄想癖は今回は省きます。
Pが765プロに入社する前、まだ弱小プロダクションだった頃の黎明期を支えたアイドルの一人です。小鳥さんのアイドル時代のランクはBに手が届きそうで届かないC。知名度は高かったのですが、歌手活動よりもバラエティ番組やグラビア主体の活動にシフトした為、熱烈なファンの数はそんなに多くはありませんでした。
小鳥さんの他にもアイドルが居た記述がありますが、本編では登場しません。何時かSSをやり尽くした頃に、気が向いたら小鳥さんの現役時代の話を書くかも知れないので、その時に出て来るかも知れません。
研修生と候補生の違い
研修生は謂わば見習い、候補生は予備軍を意味します。ですから、研修生は同時に候補生でもあるわけです。大きな違いは、研修生はアイドルとしての歌や踊り、表現技術が未熟な娘達で、レッスンでそれらを強化する必要があるということ。候補生は、例えアイドルとしての素地が整っていても、精神的に未成熟であったり、時流に乗せるタイミング、企画等が整っていない娘達であると言うことになります。こう書くと研修生の期間を修了しないとデビューできない様ですが、決してそうではなく、状況さえ整っていれば一足飛びでデビューさせてしまう娘もいます。大事な実力は実地で身に付けてもいい、問題は機運だ。基本的にはそう言う理念の制度です。
そこで美希が登場します。「ある日の風景 その2」では研修生としてチラッと出て来ますが、美希は一足飛びでデビューするクチです。あずさ引退時なのでSS現在的には約二年前になり、その間ずっと研修していたのかというそうではありません。彼女は一度活動を中断しています。その話を書くかどうかは、今のところ未定。
そして彼女は765プロ史上最速の速さで一気にSランクまで行きます。彼女は言うなれば、SMAPで言うところの木村拓哉、モー娘。で言うところの後藤真希の様な存在で、生まれ持った華やかさに恵まれ、スター性の固まりの様な娘なのです。そして彼女は、765プロが最も華やかだった時代の象徴になるのです。
少し悩みましたが、律子を美希のPにあてがいました。Pが育てた律子が、美希を比類のないスーパーアイドルに育てる。それはやっぱり書きたかった。もちろんPもそのことにゼネラルプロデューサーとして大きく関与します。どう言った展開になるかは、今後のお楽しみ。
今回は961プロは一切登場しません。これはアイドル達の成長記録なので、ライバルは事務所の仲間達であり、彼女達自身なので、事務所としてのライバルを必要としないからです。
あずさをAランク、律子をSランクに育てたPですが、その道のりは決して平坦ではなく、むしろ失敗の繰り返しでした。なんと言っても年齢的に厳しいあずさ、ビジュアル的に大衆受けしない律子、この二人を担当して苦労しないわけがありません。しかし苦労はしていても挫折は知りません。二人がトップアイドルにまで登り詰めて来れたのは、P自身の能力ではなく、彼女達自身の実力と運だと考えているからです。そこがPの強みですね。
しかしこれからPは、少しだけ挫折の様なものを味わうことになります。この作品はアイドル達の成長記録であると同時に、Pの成長記録でもあるのです。
SS=サイドストーリー
P=プロデューサー
IU=アイドル・アルティメイト
ゲームソフト・アイドルマスターSPのストーリーモードに新たに設定されたシステム。形式は通常のオーディションと同じだが、これに落ちることはゲームオーバーとほぼ同義。
765プロ=765でナムコと読む。アイドル達が所属する芸能事務所のこと。
961プロ=961でクロイと読む。ゲームソフト・アイドルマスターSPのストーリーモードにから登場する、765プロのライバル事務所。
ニコマス=ニコニコ動画で制作されるアイマス作品の総称、またはその愛好家。
・その3
ここで小鳥さんと美希が登場します。
小鳥さんのポジションは公式のまま。あくまでアイドル達の先輩でありお姉さん的存在で、ニコマス的なエロ設定や妄想癖は今回は省きます。
Pが765プロに入社する前、まだ弱小プロダクションだった頃の黎明期を支えたアイドルの一人です。小鳥さんのアイドル時代のランクはBに手が届きそうで届かないC。知名度は高かったのですが、歌手活動よりもバラエティ番組やグラビア主体の活動にシフトした為、熱烈なファンの数はそんなに多くはありませんでした。
小鳥さんの他にもアイドルが居た記述がありますが、本編では登場しません。何時かSSをやり尽くした頃に、気が向いたら小鳥さんの現役時代の話を書くかも知れないので、その時に出て来るかも知れません。
研修生と候補生の違い
研修生は謂わば見習い、候補生は予備軍を意味します。ですから、研修生は同時に候補生でもあるわけです。大きな違いは、研修生はアイドルとしての歌や踊り、表現技術が未熟な娘達で、レッスンでそれらを強化する必要があるということ。候補生は、例えアイドルとしての素地が整っていても、精神的に未成熟であったり、時流に乗せるタイミング、企画等が整っていない娘達であると言うことになります。こう書くと研修生の期間を修了しないとデビューできない様ですが、決してそうではなく、状況さえ整っていれば一足飛びでデビューさせてしまう娘もいます。大事な実力は実地で身に付けてもいい、問題は機運だ。基本的にはそう言う理念の制度です。
そこで美希が登場します。「ある日の風景 その2」では研修生としてチラッと出て来ますが、美希は一足飛びでデビューするクチです。あずさ引退時なのでSS現在的には約二年前になり、その間ずっと研修していたのかというそうではありません。彼女は一度活動を中断しています。その話を書くかどうかは、今のところ未定。
そして彼女は765プロ史上最速の速さで一気にSランクまで行きます。彼女は言うなれば、SMAPで言うところの木村拓哉、モー娘。で言うところの後藤真希の様な存在で、生まれ持った華やかさに恵まれ、スター性の固まりの様な娘なのです。そして彼女は、765プロが最も華やかだった時代の象徴になるのです。
少し悩みましたが、律子を美希のPにあてがいました。Pが育てた律子が、美希を比類のないスーパーアイドルに育てる。それはやっぱり書きたかった。もちろんPもそのことにゼネラルプロデューサーとして大きく関与します。どう言った展開になるかは、今後のお楽しみ。
今回は961プロは一切登場しません。これはアイドル達の成長記録なので、ライバルは事務所の仲間達であり、彼女達自身なので、事務所としてのライバルを必要としないからです。
あずさをAランク、律子をSランクに育てたPですが、その道のりは決して平坦ではなく、むしろ失敗の繰り返しでした。なんと言っても年齢的に厳しいあずさ、ビジュアル的に大衆受けしない律子、この二人を担当して苦労しないわけがありません。しかし苦労はしていても挫折は知りません。二人がトップアイドルにまで登り詰めて来れたのは、P自身の能力ではなく、彼女達自身の実力と運だと考えているからです。そこがPの強みですね。
しかしこれからPは、少しだけ挫折の様なものを味わうことになります。この作品はアイドル達の成長記録であると同時に、Pの成長記録でもあるのです。
「その1」
「その2」
「ある日の風景 その1」
「その3 1/2」
「その3 2/2」
「ある日の風景 その2 1/3」
「ある日の風景 その2 2/3」
漏れ聞こえるピアノの音に、ノックの手を止めた。
耳を澄ましてみる。これは、あずささんの……。
空にだかれ 雲が流れてく 風を揺らして 木々が語る
目覚める度 変わらない日々に 君の抜け殻探している
『隣に…』作詞:貝田由里子 作曲:NBGI (椎名豪)
なんて澄んだ声……。わたしはドアの前で、千早ちゃんの唄う『隣に…』を、黙って聴いていた。そしてピアノが最後の伴奏を奏で終えた時、そっとドアを開いた。
「天海さん?」
「千早ちゃん……」
千早ちゃんは少し驚いた様子だった。
なにを言えばいいのだろう。わたしは、なにを言おうとしたのだろう。心はたくさんの気持ちで溢れているのに、千早ちゃんを目の前にして、その気持ちは今にもこぼれ出しそうなのに、どこにも言葉が見つからなくて。
「ここを使うの? わたしはもう終わるから、どうぞ?」
なにも言えなくて、わたしはただ首を振るばかりで。
「どうしたの?」
どうしようもないわたしは、気が付いたら千早ちゃんの袖口を掴んでいた。
「天海さん……。心配、してくれるの? ありがとう。でも、もう大丈夫よ。吹っ切れたわ」
そう言って千早ちゃんは、わたしの手を握りかえしてくれた。
「そうね。ショックだった……。だって、ずっと憧れていたんですもの。あずささんの唄が好きで、好きで、いつかわたしも、あんな風に唄いたいってずっと思ってた。今でも。でも、あずささんがしあわせになるのなら、よろこばなくちゃいけないでしょ? わたしも、いつまでもあずささんに甘えてばかりじゃいけないし。突然だったけど、良い機会だったのよ」
手のひらに、千早ちゃんの気持ちが伝わって来る気がした。こんな時でも、あなたはそうやって笑うんだ……。
そう思ったら、
「千早ちゃん!」
「な、なに?」
「わたし、あずささんを呼んでくる!」
「え? な、なにを言っているのよ、あずささんは今……」
「いいから、ここで待ってて!」
わたしは一気に駆け出した。プロデューサーさんに連絡を取って、あずささんが何処にいるのか教えて貰おう。一杯、一杯怒られるだろうけど、構うもんか。
そうしてドアに手を掛けようとした時、
スカッ。
「へ?」
ノブを掴むはずだった手は空回り。バランスを崩したわたしは、
「わたっ! どんがらがっしゃーん☆」
「あ、天海さん!?」
「あいたたたた……」
「あらあら、大丈夫? 春香ちゃん」
え?
「え……」
「あ……」
そこには居るはずのない、来るはずのないあずささんが、少し肩で息をしながら立っていた。
「あずさ……さん。どうして……」
「ん~~、どうしてかしら~」
「そんな……、だって……」
「千早ちゃんに会いたくなったから。じゃ、いけない?」
「いえ、でも……」
千早ちゃんの目からは、次から次から、涙がこぼれ落ちていた。
「千早ちゃん」
「あずさ……さん……」
「はい」
「わたし……、わたし…………。う……うぅ……うわぁぁぁ~~~ん」
千早ちゃんの泣き声が、部屋の中に響き渡った。あずささんは、そっと、千早ちゃんを抱き寄せた。
「わ、わたしの、大切なものは、みんなわたしから離れて……ひ……いく……。弟も、家族も、あずさ……さん……も……ひっ……うわぁぁぁ~~~ん……うわあああぁぁぁああ~~~……」
「なにを言ってるの~。わたしは、千早ちゃんから離れたりはしないわ。ずっと、わたしはわたしよ。プロデューサーさんも、春香ちゃんも」
「あずささん……グスッ……」
「はい」
「あずささん……、あずささんあずささんあずささん!」
「はい。ここにいるわよ」
「うわあああぁぁぁああ~~~……」
二人に気付かれない様、わたしはそっと音楽室を出た。ドアを閉めたわたしの背中に、
「やれやれ、だな」
「プ、プロデューサーさん?」
「なに泣いてんだよ、このドジッ娘」
「だ、だって……。━━━そういうプロデューサーさんだって、ちょっとウルウルしてるじゃないですかぁ」
「バカお前、これは、アレだよ。外が乾燥しててだなあ」
「ふふふ。ねえ」
「ん?」
「プロデューサーさんが、あずささんを連れて来てくれたんですか?」
「そんなわけあるか。俺がホテルでチェックインの手続きしてる間に、あずささんは迷子になったんだよ」
「えええええ!?」
「それで携帯で連絡取ったら車に乗ってる感じがしてさ。なんとも要領を得ない返答しかしないんで、もしやと思って事務所に戻ってみたら案の定、というわけだ」
「な、なんか凄いですね……」
「エスパーか、あの人は」
いえいえ、そう言うプロデューサーさんだって。
「まったく……、この大変な時に。後でお説教してやらないと」
そう言うプロデューサーさんは、ちっとも怒ってなくって。そしてちょっとだけ、嬉しそうで。
みんな、気持ちの何処かで繋がり合ってるんだよね。でも……。
「なんだ、どうした?」
「いえ、なんか、わたし一人で空回りしちゃったのかなって……」
「バ~カ」
「あー、ひどい! わたし、これでも少し気にしてるんですよ?」
「空回りだなんて、そんなこと言うなよ」
「でも!」
「千早がまた寂しがる」
「あ…」
「だろ?」
「……はい!」
「ほら、お前も今日はもう帰れ。学校もあるし、明日も明後日もレッスンがあるんだろ。千早のことは、大丈夫だから」
「はい!」
千早ちゃん。
これでちゃんと、おめでとうって、言えるね。
良かったね。
本当に、良かったね。
蒼い鳥 その4
漏れ聞こえるピアノの音に、ノックの手を止めた。
耳を澄ましてみる。これは、あずささんの……。
空にだかれ 雲が流れてく 風を揺らして 木々が語る
目覚める度 変わらない日々に 君の抜け殻探している
『隣に…』作詞:貝田由里子 作曲:NBGI (椎名豪)
なんて澄んだ声……。わたしはドアの前で、千早ちゃんの唄う『隣に…』を、黙って聴いていた。そしてピアノが最後の伴奏を奏で終えた時、そっとドアを開いた。
「天海さん?」
「千早ちゃん……」
千早ちゃんは少し驚いた様子だった。
なにを言えばいいのだろう。わたしは、なにを言おうとしたのだろう。心はたくさんの気持ちで溢れているのに、千早ちゃんを目の前にして、その気持ちは今にもこぼれ出しそうなのに、どこにも言葉が見つからなくて。
「ここを使うの? わたしはもう終わるから、どうぞ?」
なにも言えなくて、わたしはただ首を振るばかりで。
「どうしたの?」
どうしようもないわたしは、気が付いたら千早ちゃんの袖口を掴んでいた。
「天海さん……。心配、してくれるの? ありがとう。でも、もう大丈夫よ。吹っ切れたわ」
そう言って千早ちゃんは、わたしの手を握りかえしてくれた。
「そうね。ショックだった……。だって、ずっと憧れていたんですもの。あずささんの唄が好きで、好きで、いつかわたしも、あんな風に唄いたいってずっと思ってた。今でも。でも、あずささんがしあわせになるのなら、よろこばなくちゃいけないでしょ? わたしも、いつまでもあずささんに甘えてばかりじゃいけないし。突然だったけど、良い機会だったのよ」
手のひらに、千早ちゃんの気持ちが伝わって来る気がした。こんな時でも、あなたはそうやって笑うんだ……。
そう思ったら、
「千早ちゃん!」
「な、なに?」
「わたし、あずささんを呼んでくる!」
「え? な、なにを言っているのよ、あずささんは今……」
「いいから、ここで待ってて!」
わたしは一気に駆け出した。プロデューサーさんに連絡を取って、あずささんが何処にいるのか教えて貰おう。一杯、一杯怒られるだろうけど、構うもんか。
そうしてドアに手を掛けようとした時、
スカッ。
「へ?」
ノブを掴むはずだった手は空回り。バランスを崩したわたしは、
「わたっ! どんがらがっしゃーん☆」
「あ、天海さん!?」
「あいたたたた……」
「あらあら、大丈夫? 春香ちゃん」
え?
「え……」
「あ……」
そこには居るはずのない、来るはずのないあずささんが、少し肩で息をしながら立っていた。
「あずさ……さん。どうして……」
「ん~~、どうしてかしら~」
「そんな……、だって……」
「千早ちゃんに会いたくなったから。じゃ、いけない?」
「いえ、でも……」
千早ちゃんの目からは、次から次から、涙がこぼれ落ちていた。
「千早ちゃん」
「あずさ……さん……」
「はい」
「わたし……、わたし…………。う……うぅ……うわぁぁぁ~~~ん」
千早ちゃんの泣き声が、部屋の中に響き渡った。あずささんは、そっと、千早ちゃんを抱き寄せた。
「わ、わたしの、大切なものは、みんなわたしから離れて……ひ……いく……。弟も、家族も、あずさ……さん……も……ひっ……うわぁぁぁ~~~ん……うわあああぁぁぁああ~~~……」
「なにを言ってるの~。わたしは、千早ちゃんから離れたりはしないわ。ずっと、わたしはわたしよ。プロデューサーさんも、春香ちゃんも」
「あずささん……グスッ……」
「はい」
「あずささん……、あずささんあずささんあずささん!」
「はい。ここにいるわよ」
「うわあああぁぁぁああ~~~……」
二人に気付かれない様、わたしはそっと音楽室を出た。ドアを閉めたわたしの背中に、
「やれやれ、だな」
「プ、プロデューサーさん?」
「なに泣いてんだよ、このドジッ娘」
「だ、だって……。━━━そういうプロデューサーさんだって、ちょっとウルウルしてるじゃないですかぁ」
「バカお前、これは、アレだよ。外が乾燥しててだなあ」
「ふふふ。ねえ」
「ん?」
「プロデューサーさんが、あずささんを連れて来てくれたんですか?」
「そんなわけあるか。俺がホテルでチェックインの手続きしてる間に、あずささんは迷子になったんだよ」
「えええええ!?」
「それで携帯で連絡取ったら車に乗ってる感じがしてさ。なんとも要領を得ない返答しかしないんで、もしやと思って事務所に戻ってみたら案の定、というわけだ」
「な、なんか凄いですね……」
「エスパーか、あの人は」
いえいえ、そう言うプロデューサーさんだって。
「まったく……、この大変な時に。後でお説教してやらないと」
そう言うプロデューサーさんは、ちっとも怒ってなくって。そしてちょっとだけ、嬉しそうで。
みんな、気持ちの何処かで繋がり合ってるんだよね。でも……。
「なんだ、どうした?」
「いえ、なんか、わたし一人で空回りしちゃったのかなって……」
「バ~カ」
「あー、ひどい! わたし、これでも少し気にしてるんですよ?」
「空回りだなんて、そんなこと言うなよ」
「でも!」
「千早がまた寂しがる」
「あ…」
「だろ?」
「……はい!」
「ほら、お前も今日はもう帰れ。学校もあるし、明日も明後日もレッスンがあるんだろ。千早のことは、大丈夫だから」
「はい!」
千早ちゃん。
これでちゃんと、おめでとうって、言えるね。
良かったね。
本当に、良かったね。
蒼い鳥 その4