ファイル整理してたら未発表の短編が出て来た。その中の一つ。タイトルは今風に変えてある。
退屈である。
日常はあくまで平穏だ。隕石が降ってきたり、UFOが飛来したり、謎の転校生が超能力バトルを繰り広げるという事態など起こるはずがない。
そんなもの思いに耽りながら、「眠れと」と言わんがばかりに催眠ガスを撒き散らす数学教師との消極的な精神バトルを繰り広げるクラスメイト達を後目に、僕は窓外に目を向け、無我の境地を達成すべく瞑想にひたるのであった。
これが“前フリ”であることに気が付くもはずもなく。
シューーー……。
空気を切り裂くような音が鼓膜を振るわせた。と思った刹那、
ドォオオオン!!!
大轟音が空気を振るわせた。
な、何ごとだ?
気が付くと教室は紅蓮の炎に包まれていた。
事態を全く理解出来なかったが、本能がこの場から逃げるようシグナルを大音量で発している。
幸いにしてこの教室は一階だ。僕は転がるように、ヒビの入った窓ガラスに身を投げてその場から脱出した。
とその時、頭上から胴間声が響き渡った。
「フハハハハハハハハ、甘いぞ石作皇子! これしきの奇襲に怯むとはな。常套戦術ではないか!」
は? なに?
そこ、つまり僕の頭上に、なんだか円盤状のものの上で大仰な槍を振り回すヒゲ面のいかつい体躯の男が僕を見下ろしていた。
ただ唖然とする僕を一顧だにすることなくその男は、
「その様な体たらくでは、姫君は、この阿倍御主がもらい受けることになりそうだな!」
姫君? 誰が? って言うかあんた誰?
そう口を開きかけたその時、
ヒュッ!
という風切り音が聞こえた。
「ムゥッ!」
と阿倍御主と名乗る男は、目にも止まらぬ速さで槍を中空で一閃。
ガキンッ!
という金属音がしたかと思うと、一本の矢がへたり込む僕の足元に突き刺さった。
「うわぁあ!」
咄嗟に僕は後ずさる。
「油断は禁物だな、阿倍御主」
僕は反射的にその声のする方向に首を動かした。そこには、白馬にまたがった優男風の二枚目崩れが、弓を片手に前髪をかき上げながら無意味に白い歯をちらつかせ、「キラキラ」という効果音を辺りに撒き散らしている。
不敵に笑みをこぼすその優男をヒゲオヤジは睨め付け、
「貴様は……、車持皇子!」
「如何にも。ほう、そこにいるのは石作皇子ではないか。これは都合がよい。まとめて屠ってくれよう」
「貴様に出来るかなぁ?」
そう言うが速いか、二人はデタラメな空中戦に突入した。
凄まじい閃光と風圧。それを追いかけるように轟音が校内を駆け抜けた。
「付き合ってられん」
そうつぶやいて僕はその場を後にしようと腰を上げた。
と、物陰からこちらを伺う人影が見える。
「新キャラかな」
そう思ってウンザリしたのだが、よくよく見るとそれは女の子だ。
可哀相に。突如として訪れたこの意味不明な事態に怯えたんだろう。と言うか、今まさに僕がその心境にある。だから彼女に声をかけたのは、まったくもって僕本位な動機によるのであった。
「あの、怪我は無い?」
精一杯の笑顔を振りまいたつもりだった。しかし彼女は、怪訝な面もちで僕を睥睨すると、ズイッと僕との距離を縮めて一気にまくしたてた。
「石作皇子さま! 貴方はなぜ、戦いに参加なさらないのです?! あの時姫の前で誓った言葉は嘘でしたの? 姫はあの時、皇子さまにならこの身を託しても良いと思ったのに! それとも姫のことがお嫌いになったのですか?!」
「へ? いや、その……」
その時僕は油断していたんだ。美少女のドアップに見とれていた訳じゃない。断じて。
姫はおもむろに僕の胸座を掴むと、
「男なら……、戦って散っ下さいましーーーっ!!」
そう言うや人外ならぬ剛力で、さっきから繰り広げられているデタラメバトルの渦中に僕を放り投げた。
なんでー?
「フハハハハハハハ、来たか石作皇子!」
「フッ、面白い。どうやら本気を出す時が来たようだな」
もみくちゃにされてもはやボロ雑巾と化した僕は、薄れゆく意識の中で、
「明日には月に帰るんだからねー! 三人とも頑張ってー! ファイトー!」
と叫ぶ姫の声を聞いていた。
ああ、かぐや姫ね。
……………………。
で?!
僕は気を失った。
気が付くとそこは教室だった。
夢か! と思ったが、割れたガラス、穴だらけの床、天井、そして未だに燻り続ける炎が、さっきの出来事が現実であったことを否が応でも知らしめている。しかし幸いにもクラスメイトは全員無事で、所々煤にまみれてはいたものの、特に大きな怪我をすることもなく、むしろ何ごともなかったような顔つきでイスに座っていた。
その雰囲気が異様で何ごとか言葉を発しようとしたその時、
「あー誰か、火を消して下さい」
と声がした。
見ると、こちらも煤けた風貌はクラスメイト同様、数学教師が何ごともなかったが如く教卓に御在しました。
「それでは授業を再開します」
呆ける僕を余所目に、そう宣言が下された。
もうわけが分からない。
でもいいや、納得してしまおう。平穏が一番だ。
ただ一つ、あの勝敗の結果が気懸かりなことを除いて。
かなり前に書いたものなので色んな点で未熟も甚だしいのだけど、今では書けない題材なので読んでて面白い。個人的に。
窓を開けると、何処からか藁を焼くにおいが漂ってきた。風がそよと、僕の頬を撫でる。表の通りでは、黒と赤のランドセルが二人並んでリコーダーを吹いていた。曲はなんだろう。聴いたことがある気はするけど、なんという曲だったかまでは思い出せない。
君からの手紙を、たぐり寄せる。
君は知っていたのかな。
この曲の名前を。
「手術は、そうだね。一週間後を目途にしておこうか。簡単なバイパス手術だから心配は要らない。少し時間はかかるけどね」
生まれつき心臓の悪かった僕は、中学卒業を間近に控えたある日、病院のお世話になることになった。高校に行ったら、これまで参加できなかった学校行事にどうしても参加したかったから。
それから検査と投薬のために早めに入院することにした。具合が悪いわけじゃないので、準備はほとんど自分でやることにしたけど、お母さんはなにかと世話を焼いてくれた。少し恥ずかしかったけど、嬉しかった。
ある雨の日のこと。何処からか歌声が聞こえてきた。
窓を開けてみると、声は隣の病室から聞こえてくるみたいだ。何気なく僕は、窓から首を出した。
女の子だった。歳は僕と同じくらいかな。淡い水彩画の様な、風景に溶け込んでしまいそうな感じがした。
その子は僕の方をチラッと見た。少し笑った気がした。
高く澄んだ声が、雨の音に溶け込んでいく。
雨樋をはじいた雫が、霧になってまた空気に溶け込む。
やがて雨粒は歌声を包み込み、ここから見える家や、通りかかる人の傘、丸くなって眠る犬の屋根に、静かにそっと降りそそいでいった。
「雨が好きなの」
歌い終わったその子は、恥ずかしそうにそう言った。
それから僕と彼女は、窓越しに話をするようになった。時々手紙のやりとりもした。彼女の手紙は、必ず最後に可愛らしいイラストが描かれていて、一人の時も、それを眺めているだけで暖かい気持ちになることが出来た。だから僕は、寂しいと思ったことは一度もない。
「海、行ったことある?」
「あるよ。お母さんの田舎、海が近いから」
「いいなあ」
「君は行ったことないの?」
「ずっと入院してるから」
「そうなんだ……」
「━━━━でもね」
そう言って彼女は空を見上げた。
「ほら」
紫色に焼けた夕焼け空に、オレンジ色に反射した雲が浮かんでいる。
「海に見えない? 空が海で、雲は島」
「ああ……」
本当だ。海に見える。まるで、空の上から夕焼けに染まった海を見下ろしているみたいだ。
「これがわたしの海。きれいでしょ?」
「うん」
それから二人、看護師さんに注意されるまで、ずっと海を見ていた。
手術が終わり、三日ほど集中治療室で過ごした。その間僕は、手術の前の日に、僕の似顔絵と「がんばれ!!」と書いてくれた彼女の手紙をお守りにしていた。
その日は朝から雨だった。歩けるまで回復した僕は、窓を開けてみた。少し待ったけど、彼女は顔を出さなかった。
退院の前の日、看護師さんに一枚の手紙を渡された。
そこには海と、空と、雲が色鉛筆で描かれていて。一言「ありがとう」と書かれていた。
僕は看護師さんにたくさんのことを話した。
高校に行ったら部活をすること、修学旅行にも行くこと、体育祭にも文化祭にも出ること。友達もたくさん作って、たくさん遊びに行く。夜遊びだってするし、ひょっとしたらお酒を飲んじゃうこともあるかもしれない。夏休みには、一人で旅にも出てみたい。知らない街を歩いて旅するんだ。テントと寝袋、飯ごう炊さんなんかしたりして。そして一杯、一杯勉強して、お医者さんになりたい。そんなことを、とめどなく話した。
全部話終わった時、看護師さんがそっと、
「もう泣いてもいいよ」
と言ってくれた。
手紙を置くと、外はもう夕方になりかけていた。
君が最後に見た海も、きれいだったのかな。
ごめんね。
僕はまだ、まっすぐに君の海を見ることが出来ないんだ。
こんなにきれいなのに。
風が頬をそっと撫でた。
君の声が聞こえた気がした。
君からの手紙を、たぐり寄せる。
君は知っていたのかな。
この曲の名前を。
「手術は、そうだね。一週間後を目途にしておこうか。簡単なバイパス手術だから心配は要らない。少し時間はかかるけどね」
生まれつき心臓の悪かった僕は、中学卒業を間近に控えたある日、病院のお世話になることになった。高校に行ったら、これまで参加できなかった学校行事にどうしても参加したかったから。
それから検査と投薬のために早めに入院することにした。具合が悪いわけじゃないので、準備はほとんど自分でやることにしたけど、お母さんはなにかと世話を焼いてくれた。少し恥ずかしかったけど、嬉しかった。
ある雨の日のこと。何処からか歌声が聞こえてきた。
窓を開けてみると、声は隣の病室から聞こえてくるみたいだ。何気なく僕は、窓から首を出した。
女の子だった。歳は僕と同じくらいかな。淡い水彩画の様な、風景に溶け込んでしまいそうな感じがした。
その子は僕の方をチラッと見た。少し笑った気がした。
高く澄んだ声が、雨の音に溶け込んでいく。
雨樋をはじいた雫が、霧になってまた空気に溶け込む。
やがて雨粒は歌声を包み込み、ここから見える家や、通りかかる人の傘、丸くなって眠る犬の屋根に、静かにそっと降りそそいでいった。
「雨が好きなの」
歌い終わったその子は、恥ずかしそうにそう言った。
それから僕と彼女は、窓越しに話をするようになった。時々手紙のやりとりもした。彼女の手紙は、必ず最後に可愛らしいイラストが描かれていて、一人の時も、それを眺めているだけで暖かい気持ちになることが出来た。だから僕は、寂しいと思ったことは一度もない。
「海、行ったことある?」
「あるよ。お母さんの田舎、海が近いから」
「いいなあ」
「君は行ったことないの?」
「ずっと入院してるから」
「そうなんだ……」
「━━━━でもね」
そう言って彼女は空を見上げた。
「ほら」
紫色に焼けた夕焼け空に、オレンジ色に反射した雲が浮かんでいる。
「海に見えない? 空が海で、雲は島」
「ああ……」
本当だ。海に見える。まるで、空の上から夕焼けに染まった海を見下ろしているみたいだ。
「これがわたしの海。きれいでしょ?」
「うん」
それから二人、看護師さんに注意されるまで、ずっと海を見ていた。
手術が終わり、三日ほど集中治療室で過ごした。その間僕は、手術の前の日に、僕の似顔絵と「がんばれ!!」と書いてくれた彼女の手紙をお守りにしていた。
その日は朝から雨だった。歩けるまで回復した僕は、窓を開けてみた。少し待ったけど、彼女は顔を出さなかった。
退院の前の日、看護師さんに一枚の手紙を渡された。
そこには海と、空と、雲が色鉛筆で描かれていて。一言「ありがとう」と書かれていた。
僕は看護師さんにたくさんのことを話した。
高校に行ったら部活をすること、修学旅行にも行くこと、体育祭にも文化祭にも出ること。友達もたくさん作って、たくさん遊びに行く。夜遊びだってするし、ひょっとしたらお酒を飲んじゃうこともあるかもしれない。夏休みには、一人で旅にも出てみたい。知らない街を歩いて旅するんだ。テントと寝袋、飯ごう炊さんなんかしたりして。そして一杯、一杯勉強して、お医者さんになりたい。そんなことを、とめどなく話した。
全部話終わった時、看護師さんがそっと、
「もう泣いてもいいよ」
と言ってくれた。
手紙を置くと、外はもう夕方になりかけていた。
君が最後に見た海も、きれいだったのかな。
ごめんね。
僕はまだ、まっすぐに君の海を見ることが出来ないんだ。
こんなにきれいなのに。
風が頬をそっと撫でた。
君の声が聞こえた気がした。
これは凄いですね。歌い出しでゾワッと来ます。ほのも音域は割と高い方で、B♭まではファルセット無しでなんとか出せますが、さすがにここまでは無理ですね。
しかし音域もさることながら、歌い方が素晴らしいです。ミンゴスとの同調も申し分ありませんね。ミンゴスて相当に上手い人なのに、それに合わせられるって、そら恐ろしいです。
話を微妙に変えてしまいますが、ほのの中でミンゴスと千早って、もの凄く被るんですよ。性格は全く違いますけれど、歌っている時はもう区別出来ていません。ミンゴスを通して千早を見てしまいますし、千早を通してミンゴスを見てしまっています。ですから、千早が例えば「もじぴったん」とか「キラメキラリ」などの幼い歌を歌っても、性格とのギャップとかそう言うものを全く感じないんです。なにより、あの千早がみんなと楽しそうに歌って踊っているのを見ていると、嬉しさに感極まってしまうこともあります。みんなと、そしてミンゴスと出逢えてよかったな、と、
気持ち悪いですね。いい歳した大人なのに。でも、小説書きはみな妄想癖があるのですよ? そうやってちゃんと捌け口と言うか、感情の持って行き処は心得ているので安心して下さい(なにを?)。