iM@Sとかなんとか(仮) -28ページ目

iM@Sとかなんとか(仮)

アイドルマスターSSとか駄文をのっけてます。←とか書いてても、ちっとも更新していないので「サイドストーリー」と言うタイトルはは取り下げました。最近のメイン記事はニコマスの紹介記事が9割を締めています。

 28歳。
 気が付いたらそんな年齢になってしまっていた。合コンに呼ばれる回数も激減。お化粧や服装にもそれなりに気を遣わねばならない。お局さまとはいかないまでも、お局さまと女の子達との間を取りなす微妙な役割は自然と回って来るようになった。そんなあれやこれやを割り切って、虚勢や取り繕いを止めたら男が寄らなくなった。
 彼氏が居なかったわけではないけど、ついぞ結婚という話に至ったことはない。もっともそれは、あたしの気性に負うところがほとんど全て、と言うのは友人の弁だけど、もちろんそんなこと認めるわけにはいかないわ。とゆうか、世の男どもが軟弱すぎるのよ。なんてことを言ったら、鼻で笑われた。なんなの?
 はあ…。人生てこんなものなのかしら?

「一子さーん」
 お昼休みにそんな物思いに耽っていた、これはバチだろうか。
 後ろ手に聞こえてくるその声を、あたしは全力で無視した。無視したにも関わらず、
「いーちーこさん?」
と、そいつはさらに声のボリュームを上げてあたしの前に回り込んできた。お昼休みの食堂がにわかにざわついたことを察したあたしは、飲みかけのカフェオレをその場に残し、徹頭徹尾、そいつを無視して食堂を後にした。
「あれ? 一子さん、ご機嫌斜め?」
 去り際に聞こえたそいつ、高城一輝の一言に、深い溜め息を付きながら。

 案の定、帰りのロッカールームで質問攻めにあった。みな異口同音に「昼休みの高城君のアレはなんだったのか」と言う内容だった。どの声にも悪意や嫉妬の色はなく、好奇心以上の感情はないと読み取ったあたしは、とりあえず「高城くん居た? 気が付かなかった」等と言って煙に巻くことにした。もちろんそれで納得はしてくれなかっただろうけれど、「ごめんなさい、本当に知らないの」と言うあたしに、それ以上食い下がって来る娘はいなかった。

 正門を出るとメールの着信があった。
”アーネンエルベで待ってる”
 はあ…。今日二度目の溜め息を噛み殺しつつ、携帯の画面を閉じた。
 お昼休みの出来事を全く意に介していないかのような内容に、あいつらしいな、と不覚にも笑みを漏らしてしまったことは、内緒にしておこう。だってこれからあたしは、彼の勘違いを正しに行くのだから。

「ひゃんひはい?」
 お口一杯にミートソースを頬張りながら、そいつはのたまった。
 怒鳴りたくなる衝動を抑えきったあたしは、大したもんだと思う。それでもこめかみがピク付くのを止められなかったけれど。
「……あたしが悪かった。とにかく全部食べちゃいなさい」
「一子さんは食べないの?」
「結構。どうでもいいけど、名前で呼ばないで。不快だわ」
 そう言って、コーヒーに一口付けた。今日はブラック。引導を渡すのに甘みも優しさも要らない。
「それで、勘違いって?」
 ナプキンで口廻りを拭って、彼はそう口火を切った。
「確かにあたしと君はこの間デートしたわ。でもそれっきり。付き合ってるわけじゃないってこと」
「僕もそう思ってるけど?」
「だったら今日のアレはなに?」
「アレって?」
「お昼休みのこと」
「別に普通じゃん」
「名前で呼んだでしょ」
「呼んじゃいけないの?」
「誤解するでしょうが」
「そうかなあ?」
「そうなの。今まで姓で呼んでたのが変わったら何かあったと思うでしょ、普通」
「思わないよー」
「思う人もいるの」
「思わせておけばいいじゃん」
「放っておけるのならそうするわよ、あたしも。でもねえ、自覚がないだろうけれど、もてるんだよ、君は」
「そうなの?」
「そう。だから、謂われのない嫉妬の対象になりたくないの。そういうこと」
 話はそれだけだと言わんばかりに帰ろうとするあたしを、彼は慌てて呼び止めた。
「ちょ、ちょっと待って、一子さん。僕の用事が済んでないよ」
 そう言えば元々呼び出したのは彼だった。
「ごめん。それで、なに?」
「付き合って欲しい。一子さんが好きなんだ」
 一瞬、息が詰まった。
 い、いけないわ、ここで怯んじゃ。
「た、高城君、君は人の話を聞いていたのかな?」
「聞いてましたよ。だから、ちゃんと手順を踏めばいい話でしょ?」
「そうじゃなくて!……その」
 次の言葉出てこなかった。そんなあたしのことは構わずに、彼は話し始めた。
「この間のデート、すごく楽しかった。最初は軽い気持ちで誘ったんだ。年上でおっかなそうだけど、きれいな人だなって思ったから。それで何処に行くか迷ったけど、遊園地にして正解だったね。あんな一子さん見れたの初めてだったから。そんなだから、一日で目が離せなくなった」
 彼は、見たこともない真剣な顔をしていた。あたしは彼の顔をまっすぐに見れないで居た。
「一子さんのこと以外考えられなくなった。誰にも渡したくない。離したくない。だから」
「ごめん」
 思わず席を立った。
「気持ちは嬉しいけど、君の期待には沿えそうにないわ」
「一子さん……」
「あたしより若くて可愛い子はいくらでもいるし」
 自分でも何を言っているのか解らなくなっていた。
「一子さんこそ人の話聞いてよ。僕は誰でもない、一子さんが好きなんだ。一子さんじゃなきゃダメなんだよ」
「ごめんなさい」
 出来るだけ冷徹に努めた。彼の視線から目を逸らさないように。
 でもあたしは、絞り出すように、
「悪いけど……」
とだけしか言えず、彼を残して店を出た。まるで逃げるように。

 その日はまっすぐ帰る気になれなかったので、帰りがけに家族への土産にとドーナツショップに寄って帰った。時ならぬ娘の振る舞いに怪訝顔の両親を尻目に、あたしはドーナツにかぶりついた。後から後からこぼれてくる涙を一緒に飲み下すように。

 翌日。
「一子さーん」
 午睡に微睡む昼休みのお食堂に、調子外れに脳天気な声が響き渡った。こめかみのピク付きを抑え切れないあたしは、
「なに?」
と、どうにか反応することは出来たのはもはや奇蹟に近い。
「あれ? 今日は無視しないんだ」
「どうせ無駄でしょ」
 どうしてこいつは、昨日のあたしの気持ちとか決意とかをこうも軽々しく踏みつけにしてくれるんだろう。まあ、こういうヤツだという予想は付いていたんだけどさ。
 カフォオレを飲み干す。
「で、なに?」
「別に」
 ぐっ……。落ち着きなさい、一子。ここで切れてしまえばこれまで築き上げてきたイメージとか立場とか、なんかそう言うしがらみ的なものがみんなパァになるわ。
「ここに来れば一子さんに会えると思って。それで、来てみたら居たから声をかけただけ」
 こいつの言動も痛かったがそれ以上に周囲の好奇の視線が痛かった。
 ここは冷静に。いつものあたしで行かないと。
「そ、じゃあ、用はもう済んだのね」
 この脳天気バカは、足りない脳みそを働かせたかのように少し考えた風な表情を作ったあと、まるで子供のような笑顔でこう言ったんだ。
「あるよ、今できた。一子さん、デートしよう」
「ハア?!」
 この時、声が1オクターブ上がったあたしを誰が責められよう。
「君は……。昨日のあたしの話聞いてた?」
「もちろん。だからさ、リセット」
「へ?」
 この時のあたしの間抜けさ加減を誰か記録しておいて欲しかった。
「もう一度最初から。で、僕が一子さんに告白するところから始めるんだ」
 開いた口がふさがらない。
 これってゆとりってこと? バーチャル世代?
「アハハハ」
 不意に笑い出す彼に、思わず声を荒げた。
「なにが可笑しいのよ!」
「ごめんなさい。でも一子さん、考えてることが分かりやすすぎ」
「言ってみなさいよ」
「僕がゲーム感覚で喋ってるとか思ってたでしょ?」
「違うの?!」
「そんなわけないじゃん」
「だったら」
 そこでお昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「あ、お昼休み終わりだね。それじゃ行くよ」
「ちょ、ちょっと!」
 歩き去りながら彼は、
「後でメールする」
とだけ言って、途方に暮れるあたしを残して行った。

 その後。帰宅してすぐに短いメールが届いた。内容は他愛もないことだった。ただ、
”僕は一子さんと居ると、それだけでしあわせなんだよ”
と書かれた一文だけが、あたしの心に引っかかった。

”一子さんはどう?”

 きっと末尾にそう続いたはずなんだ。
 見透かされてるなあ。
 正直に言うと、あたしも彼を一人の男性として好ましく思っている。それは間違いない。それを認めたくなくて、それが悔しくて、あたしはきっと彼に抗っているのだろう。
 そうやっているウチに彼が離れてしまうかもしれない、と言う不安も無いではない。でもそれ以上の不安が暗雲のように胸を覆って居るんだ。
 それはどうしようもないことで。そして誰にも言えないことで。
 だってこんなオバサンのことを真剣に想ってくれている人に、年齢の差を理由にそれを拒むなんて、きっと侮辱もいいところだ。だから、ハッキリと言えず、さりとて彼の申し出も素直に受け容れられないんだ。それが伝わらないことに苛立ちを感じつつも、伝わることが怖かった。
 そして多分。
 彼は、あたしのそんな悩みとは別の次元に、きっといるんだ。そんなこんなも全部ひっくるめて、あたしを好きでいてくれてるんだ。そう言うヤツだから。
 そんなことを考えながら、彼からのメールを何回か読み返し、

”わたしも”

と、戯れにそう打ち込んだら、急激に頬が熱くなるのを感じた。
 なにを、中高生の恋愛じゃないのに! バカじゃないの?!
 心の中でそう毒づき、いそいそと携帯を閉じて、その日は早く寝た。

 日曜日。
 まんまと口車に乗せられたあたしは、何故か駅で彼を待っていた。待ち合わせの10分ほど前には着いていたので張り切っている風に思われそうだが、遅刻はあたしの美学が許さない。本当にただそれだけだ。

 遠くから彼が歩いてくるのが見えた。手を振っている。あたしも小さく振り返す。
 そうか、さすがに人混みでは大声で呼ばないんだな。当たり前のことだけど、そんなことが新鮮に思えた。
 それが少し、嬉しい。

 これからどんな毎日が訪れるかは、誰にも判らない。きっとなるようにしかならないのだろうけれど。
 それでも君となら、たくさんの楽しいこと、嬉しいことを、一緒に見つけられる。

 次第に近付いてくる彼の笑顔を眺めながらあたしは、

 そんなこと、思ったりするんだ。






「卒業生、退場」
 その声に我に返った。皆に倣ってあたしも席を立つ。リハーサル通りに整然と退場が続く。
 後ろをちょっと振り返る。
 みんな進行方向を向いている中、つかさ一人だけが違う方向を見ていた。その視線の先にいるのは美里。確かめるまでもない。あたしたちの三年間は、こんな風に最後まで影踏みごっこの追いかけっこ。

 ねえ、つかさ。
 君が美里にふられたあの日、どうして君はあたしに会いに来たの? 君は知らないだろうけれど、あの時あたしは、そこにいたんだよ。ふられたって言うのに君は、ふった美里のことばかり気遣ってたね。最後まで。
 だからね。
 それを知っていたあたしは、君が試合で負けた時に、あたしの前だけで流した涙の意味が解ってしまったんだ。だってあの日の君は、なんていうか、前に進みたいのに進めない、そんな感じだったから。

 ねえ、つかさ。
 君は知らないだろうけど、あの試合、あたしは見に行っていたんだよ。君が一人で戦っているんだと思うと、いてもたってもいられなくて。走って走って。
 聞こえた? 大きな声で「つかさーーー!!」って言ったの、あたしだよ。

 出口を出たところで、つかさと目があった。
 あたし達は互いに肩をすくめ、少しだけ笑った。

 ねえ、つかさ。
 それでもやっぱりあたしは、君の背中を追いかけるんじゃなくて、君と並んで、一緒に同じ方向を見て、笑って、泣いた三年間の方が良かったって思う。
 君がいたから、君といたから、今、こうやって前を向いていける。ほんとうに思うんだ。

 そして、君のことを好きになってよかったって。

 ねえ、つかさ。
 知ってた?












 雀が一羽、街路樹の根元でひっそりと死んでいた。行き過ぎる人や車に紛れたその光景は、なぜかとても静かなものに見えた。
 吐き出した息が淡く空気に溶け込む。
 わたしはその場を離れることが出来ない。それがなぜだか分からないまま。

 披露宴が始まるまでの数分をわたしは、列席者で埋まる控え室から離れて、会場の中庭に備えてあったベンチに座って、満開に咲き乱れる桜の木を見ながら時間を潰していた。
「美由起」
 香奈恵が姿の見えないわたしを心配してか、探しに来てくれたみたい。
「桜、きれいだね」
 わたしの視線を追っていたのだろう。そう言う香奈恵にわたしは、
「そうね。晴れて良かったわ」
と、軽くこたえた。
「美由起は桜嫌いなのよね」
「話したことあったっけ?」
「合宿の時に」
「いつの?」
「一回の時よ」
 思いだした。
「よくそんな昔のこと。もう十年も前じゃない」
「まだ九年よ」
「どっちにしたってもうオバサンだわ」
「なーに言ってんのよ」
 そう言ってわたし達は声を上げて笑った。あの頃のように。
「まるで昨日のことのよう」
 そう、色んなことが鮮やかに思い出された。
 わけも分からないまま香奈恵に引っ張られて、いつの間にかわたしの名前が書かれた入部届が置かれた机を挟んで、恥ずかしさで話を切り出せずに俯くだけのわたしに、そっと微笑んでくれたあの人の笑顔まで。
「先に行ってるね」
 そう言って腰を上げた香奈恵にわたしは、
「本当はね、嫌いじゃないの」
と声をかけていた。香奈恵は足を止めて、肩で振り返った。
「ん?」
「桜」
 見上げた空は、どこまでも青かった。
「そっか」
 香奈恵の後ろ姿を桜が覆った。

「新郎新婦の入場です」
 照明に照らし出されて、薄桃色のカラードレスに身を包んだ新婦と手を取り合い、その人が入場口に佇んでいた。
 人伝に似合いの二人と聞いた通り。二人は静かに、穏やかに微笑みをたたえていた。
 香奈恵の隣で、わたしとは反対の席に座っている友人が、体を少しだけ寄せて、「美由起に少し似てるね」
とささやいている。
 香奈恵の「そうかな」という声は、やがて拍手の音にかき消された。

 二次会が終わって、香奈恵達とは駅で別れた。
 お化粧を落として普段着に着替えたわたしは、しばらくベッドに横たわったままでいた。
 天井のベージュ、カーテンのアイボリー、紅褐色のクローゼット、薄水色の花瓶。変わらないいつもの景色。そこに彼の笑顔が見当たらない。もう何年も前のことなのに、わたしの目はその姿を探している。その時わたしはきっと、なにか一つの形をそこに描こうとしていたのだと思う。欠けてしまったパズルのピースを探すように。

 朝、テーブルの上に出しっぱなしにしていたアルバムに、桜の花びらが落ちていたことに気が付いた。着替えた時に衣裳からこぼれ落ちたのだろう。それをしばらく玩んだあとわたしは、写真を一つ一つ、アルバムから外していった。

 小さな火が日差しの中に揺らめいている。
 気が付くと、涙が次々とこぼれ落ちていた。それを手のひらに受けた時に、やっと分かった。
 ああ、そうか。泣きたかったんだ、ずっと。
 わたしは声を上げて泣いた。
 
 
 
 煙が空に一筋、どこまでも高く昇ってゆく。
 やがて全てが消えてしまう頃にはもう、涙は乾いているだろう。

 さようなら。
 あなたに出会えて、しあわせでした。
 
 
 
 巣立ちを終えた鳥が一羽、一つ鳴いて春の空に舞い上がっていった。