蒼い鳥 その5 | iM@Sとかなんとか(仮)

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アイドルマスターSSとか駄文をのっけてます。←とか書いてても、ちっとも更新していないので「サイドストーリー」と言うタイトルはは取り下げました。最近のメイン記事はニコマスの紹介記事が9割を締めています。

「その1」 「その2」 「ある日の風景 その1」 「その3 1/2」 「その3 2/2」 「ある日の風景 その2 1/3」 「ある日の風景 その2 2/3」 「ある日の風景 その2 3/3」 「その4」 「番外編 少しだけ未来のお話 - Christmas For You -」


 今日は集中力が冴えている。自分でもビックリするくらい。周りの音も、千早ちゃんの声も動きも良く見えている。
 ピアノがアクセントを入れた。千早ちゃんのトーンが少し上がる。ここのハモリは少し抑えよう。うん。やっぱり、千早ちゃんの声が延びた。千早ちゃんの歌に併せるのは難しい。何度も何度も唄ってきた曲なのに、いつも違う歌い方で、わたしを引き上げてくれる。やっぱり、千早ちゃんは凄い。そもそもこのわたしが、千早ちゃんと歌う様になるまで、難しい、なんてこと、言える様になるなんて思わなかったな。
 それにしても、今日は高音が凄く出ているなあ。ミキサーさんも調整に戸惑うくらい。
 1…、2…、3…、ここでターン……。あれ? ちょっとずれた? 息も上がってきている。こんなところで?
 そう思った途端、わたしの視界から千早ちゃんが消えた。

「39度2分」
 スタッフさんは体温計を見ながら、機械的な声でそう言った。
 千早ちゃんはスタジオの隅に横たえられ、たくさんのスタッフさんに囲まれていた。
「今日は、プロデューサーさんは?」
 スタッフさんの一人がわたしに尋ねた。
「少し遅くなるそうです」
「そう。だったら、レコード会社の人に一緒に行って貰おうか。プロデューサーさんには私から連絡しておくから」
「あ、あの……」
「点滴を打ちにね。千早ちゃん? 歩ける」
「はい……、大丈夫です。すみません、ご迷惑をおかけして」
 そう言う千早ちゃんは、すごく辛そうだった。でも、なんでそんな体で……。そう言いかけて、止めた。だって気持ちは分かるから。同じだから。
「タクシー来たよ」
 スタッフさんの一人がスタジオに声をかけた。
「あの! わたしも」
「あなたはここに残っていなさい。大丈夫よ。点滴ぐらい、すぐに終わるわ」
「大丈夫よ、春香。すぐに戻ってくるから」
「え? 千早ちゃん、戻ってくるんですか?」
「当たり前でしょう? もう明後日には本番なんだから。一秒だって無駄に出来ないわ」
「だって、でも!」
 体を壊したら元も子もない。そう言いかけたわたしに千早ちゃんは、わたしのほっぺにそっと手を当てて、
「大丈夫。信じて」
 手のひらから伝わる体温が、すごく熱かった。
「……わかった」
 そして千早ちゃんは、スタッフさんの肩を借りてタクシーに乗り込んだ。

 結局、千早ちゃんは戻ってこなかった。
 リハーサルはわたし一人で行われた。プロデューサーさんは、一度病院に顔を出してからスタジオに来た。その後のリハーサルは、やっぱり千早ちゃん一人抜けただけで、まったく別のものになっていた。みんな一生懸命なんだけど、どこかしっくり来ないと言うか、なにか物足りない感じがして、結局は消化不良のまま、予定の時間を終えた。
「お疲れさん」
「……はい」
「……ここに来てジタバタしても始まらない。やれることをやろう」
「ええ、わかってます。言われなくても」
「……」
 どうしてそんなキツイ言い方になったのか、自分でも分からなかった。リハーサルが上手くいかなかったことのイライラでもないし、その八つ当たりでももちろんない。なにか、なにかが納得いかなかった。
「これから俺は千早の所に行くけど、お前はどうする? 時間も遅いけど」
「……」
「……迷っているなら来い」
 わたしはプロデューサーさんに促されるまま、千早ちゃんの居る病院へと向かった。

「あ、プロデューサー」
 空きのベッドを借りていた千早ちゃんは、プロデューサーさんとわたしの姿を見つけると、ベッドから身を起こした。
「本当にすみません。大事な時なのに、みなさんにご迷惑をおかけして……」
 プロデューサーさんは、傍にあった椅子に腰掛けた。
「なに、たまにはこう言うことだってあるさ。まあ、今日のところは寝てろ。疲れだって溜まっていたんだろうし」
「はい、すみません、本当に……。春香も……、迷惑かけて。ダメですね、わたし。こんな時なのに……」
「そう思うのなら、早く治しなさいよ」
 気が付いた時にはもう、そう口走ってしまっていた。でも、もう止められない。
「こんな大事な時に、一人だけ休んでるなんて、いい気なもんだわ」
「おい、春香」
「春香……」
「今日のリハーサル。千早ちゃんのせいで台無しだった。みんなテンションがバラバラで、呼吸も合ってなくて。今までで最悪の出来だったわ」
「そんなこと言ったって、お前……。千早は病人なんだから仕
「みんな明後日の本番の為に必死なのよ。みんなそれぞれにこれまでの人生とか、培ってきたものとか、そういうたくさんのことを背負って集まって来ているの。きっと、今日来たスタッフさんの中にだって、倒れそうな人だって居たはずよ。でもみんな、本番を成功させたいから、わたし達のライブを最高のものにしようと思ってくれているから、その場所に立っていられるの!」
 わたしは千早ちゃんの目を見据えた。千早ちゃんは、それを真っ向から受け止めている。
「そしてなにより、わたし達には、ステージの向こうで待ってくれているファンがいるんじゃないの!? 千早ちゃ……如月千早!」
「……」
「あなたはアイドルよ。ツライところなんて見せちゃいけないの! あなたはその命が燃え尽きるまで、ステージに立ち続けなければいけないの!」
 わたし達は、しばらくお互いに黙って見つめ合っていた。
 そうして、どれくらいの時間だったか分からないけど、千早ちゃんは口を開いた。
「……あなたの言う通りよ、春香。はあ……わたしは、みんなに甘えていたのね。そうなんでしょ? ホント、こんなままじゃ、最高のステージなんて、とてもじゃないけど……。ありがとう、春香。あなたのお陰で……って、ちょっとちょっと、なに泣いてるのよ」
 千早ちゃんの言葉を聞いているうちに、耐えきれなくなったわたしは、ボロボロボロボロと涙をこぼしていた。千早ちゃんやプロデューサーさんにキツイ言葉を言ったことや、今日一日、張り詰めていた緊張感が解けたこと、そう言うことが全部押し寄せてきて、もうなんで泣いているのかなんて分からなくて。
「ううん……ううん……」
 そんな風に、子供みたいに泣きじゃくるしかなくて。
「もう、春香ったら……。あの、プロデューサー」
「ん?」
「今から取れるスタジオってありますか?」
「え? 今からやるのか? もうバンドメンバーもスタッフも解散しちまったぞ」
「いいんです。二人だけでやりますから。いいのよね? 春香」
 わたしはただ、頷くしか出来なくて。
「もちろん、プロデューサーも、ですよ」
「しょうがない奴らだな」
 そう言うとプロデューサーさんは、携帯電話を取り出し、病室を出て行った。堪えきれなくなったわたしは、千早ちゃんに抱きついて
「ごめ゛ん゛な゛ざい゛~~」
「馬鹿ね……。ほら、支度するんだから、そこをどきなさい」
「うわぁぁぁ~~ぅぅぅ……」
「それから、顔っ。アイドルの顔じゃないわ」
「いいんだもん……。グスッ……、千早ちゃんの、前だから……」
「勝手なんだから……」
 千早ちゃんは、少しだけ笑って、そう言った。
 それからわたし達は、プロデューサーさんが迎えに来るまで、ずっとそうしていた。


蒼い鳥 その6