今回はちょっとハードな内容です。

 

「アンダークラス」と「雇用ポートフォリオ」の誤算
1995年に日経連(現・日本経団連)が発表した報告書『新時代の「日本的経営」』を覚えているでしょうか。ここで提唱された「雇用ポートフォリオ」論は、その後の日本の労働市場を決定づけました。しかしこのポートフォリオのツケが社会全体に回ってきています。かなり深刻です。

「雇用ポートフォリオ」の構造的な欠陥
「雇用ポートフォリオ」は、従業員を「長期蓄積能力活用型(正社員)」「高度専門能力活用型(研究者・専門人材)」「雇用柔軟型(非正規)」の3グループに分ける考え方でした。当時、この戦略は加速するグローバル化の波から日本企業が生き残るための「防波堤」として機能したことは否定できません。正社員の雇用を守り、企業の機動性を確保するための選択でもあったはずです。しかし、業績が回復してもその経営スタイルは修正されることはありませんでした・・。

そこには大事な視点が欠けていました。それは「時間軸」(長期の視点)と「人的資本」(人的資源でなく資本)、そし「公正な再分配」(社会全体の視点)です。
 

一言でいえばこのモデルは、人間を特定の時点での機能やコストで切り分ける手法といえます。企業は「雇用柔軟型」にカテゴリー化された人々に対し、長期的な教育投資を控え、浮いたコストを内部留保や、経営層の報酬引き上げ、株主への配当へと振り向けました。結果として、非正規労働者はスキル形成の機会を奪われたまま不安定な雇用に据え置かれ、企業が上げた利益が労働者のスキル形成や生活基盤に還元される「再分配のサイクル」は長らく停止しました。

橋本健二氏が警鐘を鳴らす「アンダークラス」
早稲田大学教授の橋本健二先生は、非正規労働者の中でも、平均年収が極端に低く、離別・未婚率が高い層を「アンダークラス(下層階級)」と定義しました。橋本先生は、その著書やインタビューでこう述べています。
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「アンダークラスがこれまでの格差と決定的に違うのは、格差を次の世代に引き継ぐのではなく、『次の世代を作ることすら困難な状況』に追い込まれている点にあります」
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これは、社会学的に見て恐ろしい事態です。利益が労働者(特に非正規労働者)に再分配されなかったた結果、経済的困窮と孤立が深まり、出生率云々の問題以前に、家族形成が行われなかった(未婚率が7割)、つまりアンダークラスの拡大は、社会の再生産構造そのものの崩壊を意味しています。

 

参考:PIVOT公式チャンネル:【一億総中流の崩壊】7人に1人が「アンダークラス」に/日本は新しい階級社会へ/他階級からもアンダークラスへ転落/解決策は最低賃金・・・


「雇用代行ビジネス」を連想、 労働をコストとして扱うところ
これに関連して、障害者雇用において気になる論点があります。それは、近年急速に拡大している「雇用代行ビジネス」の存在です。このビジネスは、自社で戦力化することを避け、障害者の労働を「コスト」として外部のスキームに委託する形態です。企業においての扱いは、付加価値を生み出さない、育成しない、しかも低賃金(労働者の手取り)で継続雇用する方法は「雇用ポートフォリオ」の「柔軟型」の亜流に見えます。

ここでまた、「アンダークラス」の話題に戻ります。「アンダークラス」は、資本主義が意図せず生み出してしまう、ちょっとオーバーかもしれませんが「新・優生思想」といっていいような構造を感じます。生産性が高い人間には投資し、低い人間はコストとして管理・委託する。利益は選ばれた者にのみ分配する・・。そして、アンダークラスは貧困ゆえ家族形成ができず世代を残せません。

私たちは分岐点に立っているのかもしれませんね。

本来、社会とは個々人が「万が一の時は守られる」という信頼に基づいた「安心できる場」です。しかし、アンダークラスの拡大は、その信頼の土台を粉砕します。やせ細る中間層は、「次は自分が落とされるのではないか」という予期不安に苛まれ、社会は常に高い緊張状態にある不安定な世の中へと変貌します。他者への不信感が増幅し、包摂ではなく排除の論理が支配する心理状態は、さらなる生存を危うくする状態です。

アンダークラスが世代を残すことができないとなると、次の時代はミドル・アッパークラスの中で、又は国境を越えて、壮大な椅子取りゲームが始まるかもしれません・・これ以上は想像はしたくはありませんよね。

 

たまにちょっとハードな話題でした。