IPS(援助付き雇用)は非常に効果的な就労支援手法にもかかわらず普及しない・・なんて聞きます。そもそも国からの報酬は訓練期間に対して支払われているのでIPSをやると経営は苦しくなります。導入するには相当の覚悟が必要です。移行支援事業所で導入できるように報酬単価を工夫すると定着率は間違いなく上昇すると思います。また、支援の質も向上するでしょう。

 

IPSと職業準備性とは対比されることが多いですが、「職業準備性」は職業訓練の一つという理解です。一方、IPSは支援方法であり同列で論じることにムリがあります。このあたりは整理が必要と思います。また、IPSは重度の精神障害者の就労支援が出発点ということもあり、治療効果やリハビリテーションといったテクニカルな面が目立つため、その普遍性には気づきにくいかもしれません。

普遍的なかたちとは
個人的な解釈ですが、支援の普遍性とは、①伴走者②主体性③ポジティブです。人が変化を前にした時に乗り越え、さらに有能になるための支援です。①の伴走者は、登場人物や場面が変わればビジネスコーチ・メンター・コーディネーター・カウンセラーなど名前を変えて登場します。②は、いわゆるキャリアオーナーシップのこと、③は変化を楽しむプロティアン・キャリアやポジティブ心理学などにピッタリ合います。支援の普遍的な構造を持ったIPSモデルが、就労の定着率が高いというエビデンスは説得力があります。

そもそも企業とは相性がよい
IPSのパンフレットを見ると、少し言葉を代えれば企業の人材育成や1on1と似通っています。train then place(仕事は職場で覚える)もOJTや経験学習など既に当たり前の概念です。疑う余地はないでしょう。
普及の鍵は、IPSの普遍性を言語化・体系化することではないでしょうか。非障害者の人材育成や成長支援と同一のかたちであることが理解されると普及に弾みがつくと思います。

訓練や準備性は手段の一つ
IPSのイメージ、準備より直ぐに仕事・・はやや誤解であるように思います。いわゆる「職業準備」や「職業訓練」は、本人が選択する「手段」「コース」にあたります。対立する概念ではありません。クライアントが〇〇の仕事につくために〇〇訓練を受けたい、といった場合は訓練受講をサポートします。IPS=直ぐ働くは、とりわけ重度の精神障害のある方にとっては「訓練」よりも「働く」ことの方が有効性が高く、その印象が強いのではないでしょうか。
(つづく)