障害者雇用は道徳的や法的義務において、全ての企業が取り組まなければならない課題です。主旨は理解するも、そうはいっても・・・という企業が多いのが現状ではなでしょうか。雇用率達成企業が半数にも満たないという事実がそのことを示しています。ただ、どうせやるならしっかりとその投資に見合ったやり方で企業らしく取り組みたいものです。その場合に必要な材料が、企業を本気にさせる財務的なメリットの根拠になります。
これを正しく行えば雇用代行ビジネスを使ことがムダということになります。
外国の文献ですが、企業活動における戦略立案(ビジネスケース)作成のポイントが示されています。読んでいて結構納得のいくもので、外国でも同じことを考えている人がいることがうれしく感じました。本論文に少し解釈を加えて紹介します。【参考文献:「障害者雇用のビジネスケース」(Kristen M. Kendall, Gary Karns)2018年】
本論文では、人的資源管理(HRM)で一般的な手法であるユーティリティ分析を使って財務的なメリットを述べています。ユーティリティ分析とは、サービスコストとサービス価値の差に基づいて財務的な純価値を計算する方法です。(雇用コストには、賃金、健康保険、年金、生命保険、休暇給、研修、安全性、欠勤、遅刻、離職、障害者対応などに関連するコスト)
事例では障害者雇用者は平均的または平均以上の業績と低い離職コストにより、組織に高い純価値を提供していることが述べられています。さらに、障害者雇用には、企業の競争力やイノベーション、社会的責任や多様性などの非財務的な利益も含まれるとされています。それは、以下です。
①コスト削減
障害者雇用は、企業にとってコスト削減の機会を提供する。
・障害者雇用は、離職率や欠勤率を低下させることができる。障害者雇用者は、非障害者雇用者よりも長く同じ会社で働く傾向があり、忠誠心やコミットメントが高い(Lindsay et al., 2018)。また、障害者雇用者は、非障害者雇用者よりも欠勤率が低いか同じであることが多く、健康状態や仕事満足度に影響されない(Lindsay et al., 2018)。これらの要因は、企業が採用や研修などの人材管理コストを削減することを可能にする。
・障害者雇用は、訴訟や罰金などの法的リスクを低減することができる。障害者雇用は、人権法や障害差別禁止法などの法律や規制に適合することを意味する。これにより、企業は法的な問題や紛争を回避し、その結果発生する可能性のある費用や損失を防ぐことができる(ILO, 2014)。
・障害者雇用は、税金や補助金などの政策的インセンティブを享受することができる。障害者雇用は、多くの国や地域で政府によって奨励されており、税金の減免や補助金の支給などのインセンティブが提供されている(ILO, 2014)。これらのインセンティブは、企業が障害者対応や研修などのコストを補うことを可能にする。
②収益増加
障害者雇用は、企業にとって収益増加の機会を提供する。
・障害者雇用は、生産性や品質を向上させることができる。障害者雇用者は、非障害者雇用者と同じかそれ以上に生産的であり、仕事へのモチベーションや能力が高い(Lindsay et al., 2018)。また、障害者雇用者は、非障害者雇用者よりも品質に対する意識や注意力が高く、エラーや事故を減らすことができる(Lindsay et al., 2018)。これらの要因は、企業が効率性や効果性を高めることを可能にする。
・障害者雇用は、イノベーションや創造性を促進することができる。障害者雇用者は、非障害者雇用者と異なる視点や経験を持ち込み、新しいアイデアや解決策を提案することができる(Lindsay et al., 2018)。また、障害者雇用者は自分の障害に対応するために創造的な方法を見つけることができる(Lindsay et al., 2018)。これらの要因は、企業が革新性や創造性を高めることを可能にする。
・障害者雇用は、市場や顧客のニーズに応えることができる。障害者雇用者は、障害者や高齢者などの特定の市場や顧客のニーズや嗜好を理解し、そのニーズに合わせた製品やサービスを開発することができる(ILO, 2014)。また、障害者雇用者は、顧客との関係や信頼を構築することができる(ILO, 2014)。これらの要因は、企業が市場シェアや顧客満足度を高めることを可能にする。
③非財務的な利益 ※障害者雇用の経済的メリットをさらに最大化できるポイント
障害者雇用は、企業にとって非財務的な利益も提供する。
・障害者雇用は、企業の競争力や優位性を強化することができる。障害者雇用は、企業が人材の多様性や才能を活用し、組織のパフォーマンスや柔軟性を向上させることを意味する(ILO, 2014)。また、障害者雇用は、企業が法律や規制に適合し、リスクやコストを低減させることを意味する(ILO, 2014)。これらの要因は、企業が市場での競争力や優位性を強化することを可能にする。
・障害者雇用は、企業の社会的責任やイメージを向上させることができる。障害者雇用は、企業が社会的に責任ある行動を取り、社会的な課題に対処し、社会的な価値を創造することを意味する(ILO, 2014)。また、障害者雇用は、企業が多様性や包摂性を尊重し、人権や平等などの原則に基づいて行動することを意味する(ILO, 2014)。これらの要因は、企業がステークホルダーや社会からの評判や信頼を高めることを可能にする。
・障害者雇用は、企業の多様性や包摂性を促進することができる。障害者雇用は、企業が従業員の多様性や個性を認め、それぞれのニーズや能力に応じて支援や環境を提供することを意味する(ILO, 2014)。また、障害者雇用は、企業が従業員間のコミュニケーションや協力、理解や尊重を促進することを意味する(ILO, 2014)。これらの要因は、企業が組織内の多様性や包摂性を促進することを可能にする。
日本の企業文化や雇用慣行に、そのままもってくるには少し咀嚼する部分も必要が思いますが、概ね似たような状況と考えます。
なにより、他を知ることではあたらな気づきを与えてくれる内容です。
次回は、文献にある経済的なデメリットとそのデメリットを克服する提案を紹介します。
(つづく)