5月23日更新分・何記理髪店-髪【石頭FB ノート】 | 手上のコイン Blog

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石頭FB ノート 何記理髮店-頭髮'170523


何記理髪店ー髪 5月23日更新


劉鳳が廣生を初めて見た時、彼は泥の上で劉鳳が既に廃墟になってしまった家から救い出した石で遊んでいた。
彼女は廣生を見たが、すぐには彼から石を取り返そうとはせず、廣生が振り返って彼女が目覚めたのに気づき、こう尋ねるまでただ黙って見ていた。
「これ、おまえのか?」
劉鳳は声を出す前に廣生の手を引っ張り、彼を山の入り口まで連れて行くと、下を指さしてこう言った。
「ここにもあるよ。」
山あいの生活の悲惨さは大人たちを不安にさせたが、子供はここで拾いものをするだけで、無邪気であればよかった。


何日か後、大火で焼きつくされた、五万人が住んでいたボロ屋のあった場所から青山道のアーケードの下へと引っ越した劉家は、同じ樹の下に避難していた何家と再会した。
劉鳳の母親は廣生の母親のお腹をさすって言った。
「何日か会ってない間に、また大きくなってない?」


劉鳳の誕生日の日、廣生だけが青山道の家にいた。彼の両親はひとに紹介された深水埠のもぐりの産婆に、彼の弟の港生をとりあげてもらっていた。
それから何ヶ月も彼ら両家の父親は昼間は一緒に日雇いの仕事に出かけ、母親達は生まれたばかりの弟の世話に追われ、劉鳳と廣生はしょっちゅう山あいに遊びにでて、時にはこっそり政府が囲いを作った建築現場にもぐりこみ、彼らが最初に共に住むこととなる「包寧平房」が出来上がってゆくのを見ていた。


石硤徙廈が完成した。
劉・何両家の縁は続き、125平方フィートの空間の同じ軒下に両家は再び一緒に住んだ。子供達二人も一緒に屋上の天台学校に通い始めた。
それぞれの階の住居は風呂とトイレは共同で、H型のビルの中庭は、多くの人が団らんし、のんびりと過ごす貴重な場所であった。
ここでは多くの事物が共有され、分かちあわれていたが、もちろんいくつかの私的な青春の果実が若い男女の心の中には芽生えていて、それぞれの秘密がしまわれている場所は、彼らだけが知っていた。


劉鳳と廣生は中学を卒業し、片方は母親の腕の良さを受け継いで、工場で縫製の女工として働いた。もう片方は大廈の中にある理髪店で見習いを始めた。
こうして家計を助けて十年以上が過ぎ、両家の両親がどうやってこの奥手な子供達を結婚させようかと相談していたその晩、劉鳳は泣きながら父母に子供が出来たことを詫びて許しをこい、廣生も彼女とその子を一生守ると誓ったのだった。


一つの命が生まれ、そして一つの命が消えた。
廣生の父親はコンクリートを運ぶ際に墜落し、何家は喜ぶ間もなく悲しみに暮れることとなった。
それほど経たずに、廣生の母親は哀しみのあまり精神が壊れ、廣生を死んだ夫だと思いこみ、二十歳を少し過ぎたばかりの港生はそれから人が変わってしまい、世間に対し同情や憐憫をもつこともやめ、生まれたばかりの女の子をそれ以上に憎んだ。


劉鳳はいつも叔父の暴走を案じて、びくびくしながら彼女のたった一人の娘を育てた。
娘が15歳のその年、卒業前の何日か、学校の授業も終わり、娘は同級生と放課後旺角に出かけ晩ご飯の前にようやく家に戻った。
ある時、晩ご飯の時間が既に終わっても、同じ食卓を囲むはずの叔父と娘はどちらもまだ帰らなかった。
八時になって叔父は先に姿をあらわし、やかましく腹が減ったと言い、食事を終えるとまたふらりと出ていってしまった。
同じ食卓を囲むのは、ボケてしまった劉家の母と、気が狂ってしまった何家の母、こっそりと涙を流す劉鳳、そしてなんと言われようとも、倒れることの出来ない立場の廣生である。


娘は叔父が出ていった後、間もなく家に帰ってきた。座ってご飯を食べることもなく、鞄を置くと、ビルの中の公共の浴室でシャワーを浴びた。
劉鳳は、娘がいつまでもいつまでもシャワーを浴びていて、ずっと出てこなかったのを覚えている。


学校が始まったが、同級生は劉鳳の娘には会えなかった。ビルまで行って彼女を捜したが、彼女の両親も、二人のお婆さんも見つからず。ぼんやりと地面に横たわる港生の周囲に、化学実験用具のような物が散らばっているのを見た。
同級生たちは誰もが背筋に寒気を覚え、素早く逃げ出した。
劉鳳の娘は、彼らの未来から失われた。


劉鳳と廣生は石硤尾を離れ、荔枝角の理髪店の二階に滞在した。廣生は本来、店の中の理容師の一人でしかなかったが、その後に店で上り詰め、何記に改名した。
二十年以上が過ぎていた。二人は、お互いに寄り添って生きてきた。苦労をして、苦しんで、劉鳳が涙を流すたびに、廣生は彼女の為に新しい髪型を考え出して、時に彼女を笑顔にし、二人で一緒に街角の茶楼に行き二段の焼売を注文した。


劉鳳は革のトランクを提げ、二階に上がった。彼女も、廣生がいなくなり何記が誰の名字に変わろうとも別に構わなかった。
二階の部屋はがらんとしていた。寂しさはとめどなく押し寄せ、足下から這い上ってきて劉鳳の口や鼻を塞いで彼女を窒息させる。
彼女は革のトランクを開けて廣生のハサミを取り出した。
カシャカシャと一音ごとに、音はいつまでも部屋の中に消え残った。その長さで過去のそれぞれの思い出すらも断ち切ってしまおうとするかのように冗長に、彼女の髪を切り落とした。
日が落ちる前の、夕暮れの日の光が床の白髪交じりの髪を照らしだし、金糸のように部屋の中に反射した。劉鳳は既に懐かしむこともなくなった過去を眺めていた。
「このハサミ、相変わらずよく切れるわ!」
彼女は心の中でそうつぶやいていた。





メモ芒刺在背…背中に刺さった棘、比喩としていらいらとして落ち着かないことや、疑いから極度に不安を覚えること

メモ包寧平房…包寧は当時の工務局(日本でいえば国土交通省みたいな組織)の局長の名前です。平房は平屋のことです、といっても包寧平房は二階建てだったようですが、要するに仮説住宅ですね。

メモ頂樓的天台學校…頂樓(最上階)の学校て何ぞや?となりまして、検索したら、屋根のない屋上で机並べて勉強する子供達の写真が。要は建物の屋上を使った青空教室ですね。



さて、やっと香港場で更新された分が終わりました。
石頭ぱぱのおかげで、香港の歴史まで学んでしまった感(笑)それにしても、最後の話がいつもの倍の量あるなんて聞いてなかったぞ(笑)
(ってことで長くてすいません。分けるほどでもなかったし)