5月2日更新分・過客【石頭FBノート】 | 手上のコイン Blog

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五月天の石頭がFBのノートに書いてる日記を、ちょこちょこ翻訳しております。おかしいところがあれば、ご指摘下されば幸いですm(_ _)m


石頭FBノート 過客 '170502


過客  5月2日更新

大連から出発した搭乗機は、2017年、4月最後の日の午後にあまりはっきりとした印象のない街へと降り立った。飛行機が再び対流圏に入る時に、機長が着陸のアナウンスをすると、それに続いてシェードを開く音が林の中から鳥の群が飛び立つように機内を満たした。
前の席に座っていたボーカルが、おでこをはめ殺しの窓にくっつけて寄りかかった。僕には彼がどこを見ているのかはわからなかったが、彼が集中している時間はまるで、それが永劫続くかのようだった。僕もつられて窓の外を眺めたが、飛行機の外は濃い霧に完全に覆われていて、僕が描ける街の輪郭は、偶々ちらりと目にした、多くの地方とよく似た荒れ野や田野、 だが記憶しているの街の姿を参考にしても、頭の中で具体的に形作るのは難しかった。

まるで行きずりの人間のようだ、と考え始めていた。慌ただしく行き来し、何も持ち込まず、何も残すこともない。故郷の友人は大半が、この週末の連休に台湾の東海岸で行われるトライアスロンに参加するため駆けつけていた。
インターネットで彼らの完走した後の笑顔を見るにつけ、僕は孤独を感じた。
彼らがそうしている時間に、家を離れ遠く旅立って、三時間以上、ときに八時間を越えるほどの肉体的な苦痛を受けながら、遠いところにいる僕は、情熱的なステージとステージの合間は、まるでからっぽな存在のようだ。

そうやって通り過ぎてきた街を深く知りたいと思う、けれど、いつも予定は変えられず、それらの街で暮らせる可能性は断ち切られてしまう。まる一昼夜であっても、得られるのなら僕には宝物のように貴重だ。
今夜、コンサート会場に来ていたみんなはどんな故郷で育ったのだろう。街頭のあの行きつけのお店、初恋の女の子のいた教室、それに初めて彼女と手をつないだあの路、それが僕が見てみたかったり、いちど行ってみたい場所だ。

今朝起きて、本当は時間をかけて趵突泉①を一回りしようと思っていたのだけれど、台湾からの要件の処理がまだ終わらずに午後になってしまい、あと一時間したら今晩の演出の準備を始めなければならかったため、結局ホテルの周囲をざっと一回りすることしか出来なかった。
試しにこの街の香りを吸い込んでみる。僕の身長の倍以上もあるホテルの大きな扉を出ると、気温は快適で柳絮②が舞っていて、ホテルに隣接した8車線道路の上にはそれほど車は走っていなかった。
向かいにあるのは今晩コンサートを開く会場で、その斬新なデザインと四方に聳える四角い高層ビルが、互いに呼応している。

でもこんな風に複製できる光景を済南の記憶にしてしまうのはとても嫌だった。
この街にしかない表情を探している、ちょうどその時に、真っ正面から今晩のコンサートに参加するのであろう二人のファンが歩いてきた。(こんなふうに言えるのは、僕とすれ違った後の彼女たちの興奮の度合いでわかったからだ)
すでに遠ざかった僕の耳にも、僕が今晩ステージに上がるその人であるかどうか、彼女たちが討論しているのが聞こえてきた。
実はその時彼女たちに言い忘れたことがある。
今晩あなたがこの文章を読んだら、僕にあなたの故郷の様子を教えてはくれないだろうか?
あなたが初めてキスしたあの路を、いちばんお気に入りのあの店を、あるいは、失恋した公園のその物語を。




①趵突泉(ほうとつせん)済南(せいなん)市の観光名所の一つ、国立公園の中にある泉。天下第一泉と呼ばれる。

②柳絮(りゅうじょ)綿毛のあるヤナギの種子が春に飛び、漂うことをいう。


そのまま直訳もなぁ……という所は意訳してます。
無法伸出頭手的窗→頭や手を出せない窓→はめ殺しの窓

過客は、日本語にもなってて同じ意味なので、タイトルはそのままにしてます。旅人、にしちゃうと、他のタイトルと混ざるし、内容的にもちょっとニュアンス的にしっくりこないので。