【本棚】小説新潮2011年6月号 | 手上のコイン Blog

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小説新潮 2011年 06月号 [雑誌]/著者不明


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小説新潮6月号



有川浩さんと、演劇集団キャラメルボックスのコラボ企画である『ヒア・カムズ・ザ・サン』を読むために購入。文芸誌なんて何年来買っていないことか…(笑)



今回の企画、まだお芝居の内容があらすじしか発表されていない時期に。

この芝居の方に出演するキャラメルの役者さんが、有川さんに、

「叶うものなら、この七行のあらすじから、

成井豊と有川浩が生み出すそれぞれの物語を読んでみたいです」

と言ったことから派生したということで。



『ヒア・カムズ・ザ・サン』の東京公演に観劇に行く予定だったので、せっかくならばこちらも、と手に取った。





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真也は30歳。出版社で編集の仕事をしている。

彼は幼い頃から、品物や場所に残された、人間の記憶が見えた。

強い記憶は鮮やかに。何年経っても、鮮やかに。

ある日、真也は会社の同僚のカオルとともに成田空港へ行く。

カオルの父が、アメリカから20年ぶりに帰国したのだ。

父は、ハリウッドで映画の仕事をしていると言う。

しかし、真也の目には、全く違う景色が見えた……。





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とはいっても、芝居の方はまだ東京公演が始まっていないので、未見。



しかし、あらすじを同じくするということは、

言ってみれば同じエッセンスを持ちながら、物語の骨格も登場人物の肉付けも、

それぞれの作家によって異なる……というよりは、

そういった違いの部分に、それぞれの作家の個性が滲むということになるのだと思う。



想いの行き違い。それを読者にきちんと提示しながら、気をもませるのが上手いよな~。有川さんは(笑)





もちろん、芝居と小説は全く違う。

芝居の場合は、その背景だけでなく、脚本によって立ち現れる個々の人物像。

そこに更に役者の解釈、個々の特性。引き出し。それを駆使した肉付け。

各々の台詞の間合い。

呼吸。

セットの視覚的効果。

音楽。

照明による劇的な空間の変化。

そして、逆に舞台という空間による多くの制約。



様々な要素がそこにあって。

小説という文字の世界が、

それを読んだ者の個人的体験に集約されるのとはまた違った『意外性』という面白さがあるように思う。



物語そのものは例え予定調和であっても、

それを演じる人間の視点は、一つ一つが自分とは異なるものだからだ。



同じテーマで描かれた小説が、作家によって同じストーリーにはならないように。



今回、特集の「大人のための学園小説」が複数の作家によって様々に描かれているのを読みながら、そんなことをふと思った。





それにしても。



相変わらず、有川さんの作品のもつ、何とも言えないエンターテイメント性は。

スゴいね……。