1860~1939年、イギリスの画家。
6人兄妹で、5人の妹がおり、20歳の時に父親が亡くなったので、母と妹を養うために、就いたばかりの安月給の教師を辞めてフリーの画家になった。
雑誌の挿絵として風景画や動物画を描いたり、英国の家屋、敷地や家畜、また犬の絵を多く描いていた。
23歳の時に、妹の家庭教師であったエミリー・リチャードソンと結婚。
エミリーはピーターという猫を飼いとてもかわいがっていた。
ガンに冒され苦しむエミリーを喜ばせようと、ウェインはピーターに眼鏡をかけさせ、人間のようなポーズをとらせたりした。
この頃のウェインの作品の多くはピーターをモデルとしている。
ピーターはウェインの画家としての創造の源であり、後の仕事を決定づけた存在であった。
妻・エミリーはガンによって結婚の3年後に死去した。
それからウェインは数多くの猫の絵を描いた。
ウェインの描く猫は時を経るごとに擬人化され、2本足で立って流行の服を着たり、オペラ鑑賞をしたり、人間のすることはおよそすべてしていた。
ウェインの作品は人気が高かったが、穏やかな性格のせいでよく値切られ、いつもお金に困っている状態だった。
40代後半になったころから、徐々に人気に陰りが見え始め、精神的に不安定になる。
舌がもつれたりおかしな言動をしたりして、統合失調症を発症する。
ウェインは妄想に苦しみ、穏やかだった性格が周りを敵視するように変わり、夜中に徘徊したり、家具の配置を何度も変えたり、部屋にこもって支離滅裂な文章を書き連ねたりした。
1924年、耐え切れなくなった妹たちにより、精神病院へ入れられる。
1930年に移った、猫のいる北ロンドンの病院で、猫の絵を描いたりしながら死ぬまで暮らした。
ウェインの描いた猫の絵は、病気が進むにつれて幾何学的な抽象画になり、原色が多く使われるようになった。
その絵の変化に、病気の進行を垣間見ることができる。
初期のころの作品
擬人化された猫
病気の進行と作品の変化
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自我の崩壊というか、精神病による変化は、あまり目に見えるものではないから、どんなふうになっているのか他人にはわからないことが多いのだけれど、
この人の猫の絵は、その軌跡を見事に示しているようで、とても興味深い。
こんな風に見えるようになるのか、と、びっくりしながら納得できるというか。
今までかわいく見えていたものが突然恐ろしいものに変わってしまうことが、目に見える形で表現されているような気がして、はっとさせられた。
猫が幾何学模様になってからは、それが猫だとはぱっと理解できなくて、でもできないからこそ美しく見えたりすることもあって。
もう一人、ウィリアム・ウテルモーレンという画家のことも教えてもらった。
ウテルモーレンは62歳でアルツハイマーを発症し、それからは絵を描くことを忘れないために自画像を描き続けた。
その自画像にも、病の進行がダイレクトに映し出されていて、アルツハイマーという病気を知る大きな手掛かりになるように思った。
表現をし続けることへの想いと、精神病のこと。
色々考えた宿題だった。
もしも私がこういう病気になったら、一体何を、最期まで続けようとするだろうか…。