「蕨手(わらびて)花鋏」でケーブルストリップを行う人がかつていて、今も各地に残る。そんな話を趣味で調べていますが、なかなか書籍での情報がありません。(未だに現場で稀に見かけます)
とりあえず、実際に使ってみようと、池坊型花鋏を購入してみました。
注:当記事は花鋏によるケーブル端末処理を推奨するものではありません。
播州刃物 池坊型 150mm
これが蕨手!!何かを切ると、柄の後方がぶつかり、「カチン」と音を立てます
なんと手研ぎですね・・・
安価なものを買っても仕方がないだろうと、9000円の物を購入してみました。
なぜ蕨手と呼ばれるこの形なのでしょうか・・・・・?
歴史は大変古く、ざっと調べる限り、下記の書籍に「花鋏の工夫」として経緯が載っていました。こうして100年前の書籍が手軽に読めるのはこの国の良い所です。
投入盛花草木の出生 図書 小林鷺洲 著 (花同会, 1917)
国立国会図書館デジタルコレクションへのリンク
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/926999/98
左から右へ形が変わっていったと推測される。申し訳なさそうにくるっとしている部分は「握りの蔓」だったのだ。この丸い部分だけは必要だったのでRだけが残った経緯
蔓手(つるて)の花鋏では使用に不便をきたし、大阪天満寺町橋の國重と言う刀剣師に改良型花鋏を作らせた、と書いてありました。ネットで検索すると、同名の地に同名の刃物屋が今もあり、この國重刃物店は240年の歴史があると紹介されています。
蕨手のアイデンティティである、この握り手のお尻が丸い形状以外の物がないか探した所、越後左藤蔵 池之坊レザーカスタムを見つけました。が、販売終了品・・・販売刃物店に問い合わせをしたところ、在庫があるとの事で一丁売っていただきました。こちらは5500円です。
越後左藤蔵 池之坊レザーカスタム(販売終了品)。かっこいい
刃物は美しい
播州刃物 池坊型 150mm、越後左藤蔵 池之坊レザーカスタム(販売終了品)、ARS(アルスコーポレーション) FP-17-BK 業務用花はさみフルール
花鋏を並べてみました。つるがある鋏は通常の鋏と使用方法は変わりませんが、つるのない蕨手(池坊)は開く方向に力を使えません。伝統的な使用方法は右手で片側の柄をしっかりと持ち、鋏の自重で刃を開くのが基本だそうです。参考に筆者が調べた書籍を下記に示します。
※ネット検索すると「開く方向に力を使わない」持ち方と、「中指で開く」持ち方の2種に分かれていますが、こうして書籍に残っているものがきっと「正しい」と考えています。理由は後述します。
「昔から馬鹿と鋏は使ひ方で役立つとか云ふが」の説明が面白い
池の坊流生花の手引 熊谷八俶 著( 前田文進堂, 1925)
国立国会図書館デジタルコレクションへのリンク
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/918626/21
伝統だなんだというのは華道を経験していないので分かりませんが、鋏を開く方向に手の力を使ってはならないようです。考えれば分かる事ですが、開く方向への力が必要になるならば、最初から「蔓手(古流)花鋏」を使えば良いからです。
※但し、支点から力点への距離を稼ぎ、作用点への力を単純に増したかっただけであるならば、開く方向に力を使っても良いかとは思います。(蔓手の握りより外側を持ちたかったケース)
練習を重ね、様々なケーブルをストリップしてみましたが、花鋏では切れない物がありました。それは「ケブラー繊維」です。
カナレ電気 L-4E5AT。ケーブル敷設時の引張への補強の為にケブラー繊維が内部に使用されている
花鋏では切れない!!!
切れない!!!!!!!!!
ケーブルそのものを切断する時は複合状態になっているのでなんとか切断が可能ですが、勢いが足りないとケブラー繊維だけが残ります。さすがケブラー繊維です。
※ケブラーはデュポン社の登録商標で防刃ベストなどに使用される非常に屈強な繊維です。
さすがケブラー繊維!!!!ぐぬぬ・・・
と言う事で、ケブラー繊維やあまりに細い素線の切断は出来ない事が分かりましたが、おおむね、「蕨手花鋏」でケーブルストリップは行える、という結論が出ました。線種が決まっているなら、問題が無さそうですね。但し、筆者は多種多用のケーブルをストリップする為、常時使用には向かないとの結論です。ちなみに仕事で使っているアルスコーポレーションのケーブル用鋏ではケブラー繊維も余裕で切断できます。こちらの製品の利便性を再認識しました。
※この鋏はアルスコーポレーションの140DX-Dと言い、同社の園芸用鋏と同じ形状をしています。ここで分かるのは園芸用の花鋏が電工用にも使えると言う事実です。
鋏でのみ行えるケーブルストリップ
少し訓練すると誰でも可能です。(いずれ動画でまとめます)
こんな記事が誰かの参考になるとは到底思えませんが、ここに残します。
引き続き、「蕨手花鋏」でのケーブルストリップを調べます・・・・・
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