Dante関係で良く聞かれる事をまとめます。
筆者は普段からDanteに慣れ親しんでるわけではありませんが、人からなぜか聞かれることがあり、調べていくうちに少し詳しくなりました。
この辺、確かに分かり辛いな・・・と思える箇所があり、思った通り、その点に質問が来ることがありました。知っている人は当たり前でしょうが、実際の機器の挙動を参考例に適当に書き連ねます。
最初に取り上げる機器は Neutrik NA2-IO-DPRO 2in 2out Dante I/F です。
Blog内参考リンク:
Neutrik NA2-IO-DPRO 2in 2out Dante I/Fを買ってみた
Neutrik NA2-IO-DPRO 2in 2out Dante I/F
こちらは、Dante Broadwayチップが使われており、リダンダント対応です。
入力のゲイン切替、ファンタム電源、ローカット、出力のレベル調整等は専用のアプリケーションであるDPRO Controllerが提供されています。
Danteチップがリダンダント対応と言った場合、動作モードには「Switched Mode」と「Redundant Mode」の2種類あります。この動作モードの違いを説明するためにざっくりと模式図を作成しました。
Neutrik NA2-IO-DPROの挙動
「Switched Mode」と「Redundant Mode」は製品のポートである「Primary」と「Secondary」の動作が変わると言うのは説明書などで理解が出来ると思います。
「Switched Mode」では「Primary」と「Secondary」はどちらに接続しても同様の動作をし、「Redundant Mode」では「Primary」と「Secondary」の縁は切れ、DHCPサーバ不在のシステムにおいては両者を間違えないように接続しなければなりません。なぜこのような動作をするのでしょうか?
実は上記のように、内部スイッチングハブが経路を切り替えているかの様な動作をしています。
「Primary」と「Secondary」ポート
DanteではIPアドレス自動取得、かつDHCPサーバ不在の場合は下記のルールがあります。
Dante Primary IP Address: 169.254.x.x
(APIPA 169.254.0.0/16 ※実質は169.254.1.0~169.254.255.255)
Secondary IP Address: 172.31.x.x (Audinate固有)
Secondary IP AddressのIP付与のルールがAPIPAではなく、Audinate固有の172.31.x.x が振られる為、ネットワークに詳しい方は「Primary」と「Secondary」を差し間違えるとなぜ音が出ないかが分かると思います。
※試したことはありませんが、「Primary」と「Secondary」共にDHCPサーバが別個に稼働している環境では入れ替えても問題がない?
Neutrik NA2-IO-DPROのリダンダントステータス
と、ここまでの話は別に特段不思議でもないのですが、入出力の調整方式が製品によって分かれており、ここが理解を妨げる様です。
Danteの基本動作である、サンプリングレート、ビット深度、パッチ、Danteファームウェアの更新などはDanteコントローラ上から行います。(そんな事は常識ですかね・・・)ですが、入力のゲイン切替、ファンタム電源、ローカット、出力のレベル調整等は専用のアプリケーションが提供されている製品が多く、このNeutrik NA2-IO-DPROもDPRO Controllerというアプリケーションが提供されています。
※DanteコントローラサービスをConMonと呼びます。ConMon Packet BridgeはDanteの通信ができれば成立します。(Dante Control and Monitoring = ConMon)
DPRO Controller
解説の為に下記よりこのDPRO Controllerを「専用設定アプリ」と呼称します。すべてのDante機器がそうではなくケースバイケースかとは思いますが、Neutrik NA2-IO-DPROにおいては「専用設定アプリ」はDanteとはなんら関係がありません。Neutrik NA2-IO-DPROの挙動を参考にしていただければお分かりかと思いますが、この製品の内部には3つの固有のIPアドレスを持ったネットワークカード(NIC)を持っています。
製品内部の3つのNIC
その3つとは、「(Danteとは関係がない)HA、48V等の機器設定」、「(Dante)Primary」と「(Dante)Secondary」です。Neutrik NA2-IO-DPROの場合、「専用設定アプリ」は「(Danteとは関係がない)HA、48V等の機器設定」ポートとしか通信ができません。
※余談ですが、Neutrik NA2-IO-DPROは「Redundant Mode」時は「Secondary」から「(Danteとは関係がない)HA、48V等の機器設定」ポートへのアクセスは出来ません。UDP Sockets Packet Bridgeは「(Dante)Primary」でのみ動作をする様です。
DPRO Controllerによるネットワークセッティング
「専用設定アプリ」ではネットワークセッティングでIPアドレスを固定に変更する事ができます。ですが、上記の事から分かるように、ここで変更しているIPアドレスは「(Danteとは関係がない)HA、48V等の機器設定」ポートのIPアドレスなのです。
では、DanteのIP変更は?・・・・・それはDanteコントローラから行います。
Danteコントローラ上のネットワークコンフィグ
先ほどとは逆の関係が成立し、Danteコントローラからでは「(Danteとは関係がない)HA、48V等の機器設定」のIPアドレスは変更ができません。
・「(Danteとは関係がない)HA、48V等の機器設定」のIPアドレスの設定は「専用設定アプリ」から
・「(Dante)Primary」と「(Dante)Secondary」のIPアドレス変更は「Danteコントローラ」から
以上の関係が成立すると言う事は、設定用パソコン1台の1ネットワークポートで全てを固定IPに設定変更を行うとするとかなり難儀な事になります。
※こちらを変えたらあちらに繋がらず、あちらに変えたらこちらが繋がらない・・・
以上がNeutrik NA2-IO-DPROのケースですが、Danteコントローラ上で入力・出力ゲイン切替が可能な製品も存在します。Audinate社が販売しているAVIOシリーズです。(ちなみにこの記事を書く為に個人で買いました)
Audinate Dante AVIO ADP-DAI-AU-2X0
Audinate Dante AVIOはDanteコントローラ上で感度の変更が可能
そりゃ、本家の製品だから可能なんでしょう?という気持ちも湧き出ます。ですが、問題になるのはそこよりも、ユーザ側として「(Danteとは関係がない)HA、48V等の機器設定」がどのコントローラから操作が可能なのか製品によって分からなくなってしまう点です。
上記では「専用設定アプリ」または「Danteコントローラ」に限定しましたが、設備用DSPからDanteデバイスをコントロール、デジタルミキサから専用IOラックをコントロール、と実際には多岐に渡ります。(恐らくこれらはDante Device Protocolを使用していると推測しています。※Dante Device ProtocolはDanteコントローラと同様の通信動作(ConMon Packet Bridge)をし、Dante経由でHA、48V等の機器設定が可能)。
※DSP本体にDanteカードが刺さる機器の場合、チャンネル数の設定はDSPからしか行えない製品もある。
実際、DanteのADデバイスのHA、48V等の機器設定が専用DSPからのみしか変更が出来なかった、という事例がありました・・・。なんと「専用設定アプリ」の提供がない!!
長くなりましたが、本件の教訓は
・ 固定IPでのDante運用は詳しくなるまでやめる
・ユーザ側からではHAや48V制御がDanteの設定用プロトコルなのか、制御専用プロトコルなのか区別がつかない為、機材選定の際には気を付ける
です。
どなたかの助けになれば本望です・・・・・考えて見ると、リダンダントを組んでいる状況でもPrimaryが喪失したら「専用設定アプリ」は機能しなくなると言う事ですよね・・・・DSPコントロールなどはどうするのでしょうかね・・・