非常放送・非常ベル作動時における音響機器の鳴動停止 | 音響・映像・電気設備が好き

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「ヒゲドライバー」「suguruka」というピコピコ・ミュージシャンが好きです。

【はじめに】
本記事は、消防法を取り上げています。法令を原文のまま転載している部分がありますが、消防法は地域によって細分化し、より規制されている場合があります。意訳・判断はご自身または、最寄りの消防署・または消防設備業者までよろしくお願いいたします。

 

音響設備の施工に於いて、絶対に忘れてはいけない事があります。
それが、非常放送・非常ベル作動時における音響機器の鳴動停止です。
これは消防法で定められています。以下、原文を引用します。

 

 

ソース元:消防法施行規則

 

 

消防法施行規則(昭和三十六年四月一日自治省令第六号)
最終改正:平成二二年一二月一四日総務省令第一〇九号

 

第二十四条第五号イ (ロ)
地区音響装置(次号に掲げるものを除く。以下この号において同じ。)
地区音響装置を、ダンスホール、カラオケボックスその他これらに類するもので、室内又は室外の音響が聞き取りにくい場所に設ける場合にあつては、当該場所において他の警報音又は騒音と明らかに区別して聞き取ることができるように措置されていること。

 

第二十四条第五号の二 イ (ロ)
地区音響装置(音声により警報を発するものに限る。以下この号において同じ。)
地区音響装置を、ダンスホール、カラオケボックスその他これらに類するもので、室内又は室外の音響が聞き取りにくい場所に設ける場合にあつては、当該場所において他の警報音又は騒音と明らかに区別して聞き取ることができるように措置されていること。

 

第二十五条の二第2項第一号 イ(ロ)
非常ベル又は自動式サイレンの音響装置を、ダンスホール、カラオケボックスその他これらに類するもので、室内又は室外の音響が聞き取りにくい場所に設ける場合にあつては、当該場所において他の警報音又は騒音と明らかに区別して聞き取ることができるように措置されていること。

 

 

ソース元:平成15年消防予第170号

 

 

消防法施行規則の一部を改正する省令の施行に伴う消防用設備等の技術上の基準の細目に係る運用について

 ただし、ダンスホール、カラオケボックス等であっても、室内で自動火災報知設備又は非常警報設備の地区音響装置等の音を容易に聞き取ることができる場合は対象とはならないこと。
 また、「他の警報音又は騒音と明らかに区別して聞き取ることができる」とは、任意の場所で65dB以上の音圧があることをいうものであること。ただし、暗騒音が65dB以上ある場合は、次に掲げる措置又はこれらと同等以上の効果のある措置を講ずる必要があること。

 

(1)   地区音響装置等の音圧が、暗騒音よりも6dB以上強くなるよう確保されていること。
(2)   自動火災報知設備、非常警報設備の地区音響装置等の作動と連動して、地区音響装置等の音以外の音が自動的に停止するものであること。

 

 なお、常時人がいる場所に受信機又は火災表示盤等を設置することにより、地区音響装置等が鳴動した場合に地区音響装置等の音以外の音が手動で停止できる場合にあっては、令第32条の規定を適用し、当該地区音響装置等は、他の警報音又は騒音と明らかに区別して聞き取ることができるものとして取り扱って差し支えないこと。具体的には、ディスコにおいてディスクジョッキーが常時いる場所に火災が発生した旨が表示され、速やかにディスクジョッキーが一般音響を停止することとされている場合等が想定される。

 

参考リンク:電気設備の知識と技術 非常放送設備とカットリレーの関係
http://saijiki.sakura.ne.jp/denki9/cut_relay.html
※当Blogへのリンクをしていただいている方です。相互リンクしたいのですが、こちらはRSSしか貼れないので残念…

 

 

要約すると、非常放送・非常ベル(サイレン)設備がある建物では、それらの警報音が聞こえなくなるほどの大音量で音楽を鳴らす場合、非常放送・非常ベル(サイレン)設備の作動時に音響(鳴動)を停止させなければならないということです。
考えれば分かると思いますが、警報音が聞こえないが為に、避難が遅れてはなりません。また、大音量についての定義はあるものの、「そこまで音量は上げませんので、音響は停止しません。」という文句は一般的には通用しません。(これも…なぜだかわかりますよね…)

 

 

この音響(鳴動)の停止をするために以下の方法が取られます。
1.カットコンセントを使用し、小規模の音響装置の電源を遮断する。
2.電源ディストリビュータを使用し、大規模の音響装置の電源を遮断する。
3.火災信号を受け、音響装置のアンプなどにプロテクトをかける。
4.火災信号を受け、普段は業務用スピーカとして機能しているスピーカが、リレーにより非常用スピーカとして切り替わる。
5.常時人がいる場合は、受信機又は火災表示盤等で非常放送・非常ベル(サイレン)設備の作動を認識し、手動で音響を停止させる。

 

 

1.これが会社の会議室、大学の講堂等の小規模音響設備においては主流です。

 

 

イメージ 1
参考品:TOA E-97P 電源カットリレー(電力容量:最大800W 電流容量:最大10A)
※接地つき3Pコンセントでないのが時代にそぐわなくなっています。
→TOA E-17Pと言う3Pタイプが2017年8月31日に販売開始しました。

 

 

防災盤からケーブルで持ってきた火災信号DC24V(EMG24V)が非常の際に遮断され、AC100Vの電源供給を止めるタイプ。
有電圧が正常、無電圧で非常というフェールセーフな設計です。
※電源装置の故障・ケーブルの断線でも音響装置が停止できる。
※自分がかかわった工事では、火災信号DC24Vは耐熱電線で敷設していますが、消防法を参照する限り、線種は定義されていない模様です。火事の時は早く燃えて焼き切れた方が良いので普通の電線で良い気がします。(例外として、シネコンなどでDC24V印加時断もあるのでこの場合は耐熱電線で敷設する事)
※施工側としては、施主の使用方法がどうであれ、消防検査のからみもあるので非常放送がある場合は必ずカットリレーを組み込みます。

 

 

2.これは1と同じ仕組みです。中・大規模ホールではこれが主流です。

 

 

イメージ 2
参考品:Panasonic(RAMSA) WU-L67 電源制御ユニット

 

 

電源カットリレーでは電気容量に制限がありましたが、こちらを使えば一台で40Aまで可能です。
また、電源遮断方法はDC24V断時(ブレイク)と接点制御(メイク)の2パターン選べます。
 
Blog内参考リンク:

 

 

3.これは特殊な場合です。大規模遊戯施設等や大学等で採用されます。
ネットワーク音響設備などで火災信号としてコマンドを受けることにより、制御側で音響を停止させる方法などもあります。

 

 

4.業務放送と非常放送を同じスピーカ(ほとんどが天井埋め込みシーリング・スピーカ)で行う設備ではこのような方法が取られています。見慣れていないと戸惑うシステムです。ビル等で採用されています。

 

 

5.これはイベントスペースなどで常時PA側にオペレータがいる場合です。
しかし有事の際にオペレータ判断で音響の停止が出来るのか?というのが最大の難関です。
これを実現するためには、イベント前の事前打ち合わせと客の理解が必須です。
※震災以降、緊急地震速報を非常放送鳴動として流す場合もあります。また、非常放送に関わらず、体感地震の場合も同じです。

 

 

歌舞伎町雑居ビル火災が記憶には新しいと思いますが、消防法は基本的には死傷者が発生しないと改正されません。

 

 

音響設備に係るオペレータの方、主催者の方、使用するホールやイベント会場が非常放送・非常ベル(サイレン)設備の作動の際、どのような挙動をするかは絶対に把握しておいてください。
最悪の場合はビルのオーナー及びテナントの関係者が消防法違反、業務上過失致死で逮捕されます。

 

 

娯楽を提供するはずの音響設備のせいで避難が遅れ、死傷者が出るようなことがないことを願います。