英語教育の課題 | 異文化交差点

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長年、数十カ国を遍歴した経験を生かして、日本人には日本語と英語、米人には英語を使って異文化研修を日本語と英語で提供しています。

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20社以上の英語教育関係者と話しをしたら、ほとんどの経営幹部に英語を使った実務経験が乏しく、平均的に言えば、彼らのほとんどが大学で英語を勉強し、中高での英語教員資格を持っている人が多いようだという事が見えてきました。

ある英語教育業者の幹部社員は、中学英語教員資格を持ち英検1級にも合格していたのですが、実務英語経験がなく、私と英語論を話しても歯車が噛み合わないので失望してしまいました。これで英検指導をしたところで、英検に合格するコツは学べても、英語を活用して仕事をする技能を学ぶことはほぼあり得ません。

英検では、How are you?の質問に対して、I'm fine thank you, and you?などの紋切り型会話が推奨されていますが、私から英検指導を受ける人には、How are you?の質問に対して、I'm good. I'm doing good. I'm doing all right. I'm doing pretty good. I'm great.などの応答をした方が良いし、How are you?の代わりに、How's it going?、What's up?など、そして長らく会っていなかった友人に対して、How've you been?なども良く聞く表現なので、これらも使えるようになりましょう、と教えています。

だから、英検1級に合格していても、英語を使って仕事をした経験に乏しい人は、こういった表現を教えることができません。旺文社が発行している英検指導書から一歩も外れない教え方が一般的に踏襲されているようで、英語を学ぶ人達がこれでは可哀そうです。

私がまだ55歳の頃のことです。ある日本人は米国に20数年滞在していました。その人と、ある米国の都市にある居酒屋に行き、軽くお酒を飲んでいたら、その店の扉が開き、その来訪者がカウンター内にいたバーテンダーに向かって、Hi, How've you been?と挨拶しました。そこで私は、私の隣に座っていた日本人に、「これこそ生きた英語表現だと思います」、と言うと、怪訝な表情を顔に浮かべていました。私の言葉が聞き取れなかったのか、と思い、「How've you been?は、しばらく会っていない時に良く使いますよね。この現在完了は継続的表現ですし。これを私は良く日本人に教えています」と追加説明しました。相手の表情を見て、「失敗した。俺の思い込みが災いした」と内心思ってしまいました。なぜなら、私がその歳になるまで、<20年以上も米国に住んでいたなら、英語力はほぼ米国人と同等だろう>、と強く思い込んでいたからです。これ以来、英語を学ぶのに英語圏に何年住んでいたなんて関係ない、と思うようになりました。

How've you been?を人に教える時、この現在完了がなぜ使われたのか、その文法から解説しなければなりません。この現在完了表現は、しばらく会っていなかった、という期間の意味を表します。

ところが日本では、現在完了と言えば、その典型例は、I've just finished homework. だと学校で教えられるし、英文法の解説書もそれが現在完了の典型例だと説明します。だから、現在完了のもともとの意味、「過去のある時点で起きたことが現在にもなんらかの関与をしている」が良く分からなくなるのです。現在完了は過去と現在が同居している、これが原則です。

私が1987年にロンドン市内の大手書店で買ったA Practical English Grammar (Oxford University Press出版)の166頁の以下の説明を読んだ時、それまで私が日本の学校で習っていた現在完了が音を立てて崩れて行きました。

183: The present perfect tense used with just for a recently completed action
「直前に完了した行動を表すjustを伴った現在完了時制」

He has just gone out = He went out a few minutes ago.「彼はたった今(数分前に)出かけた。」

なぜ日本の学校英語教育でこの種の例文が現在完了形の典型である、と我々は習ったのでしょうか。オクスフォード大学出版の英文法書は、This is a special use of this tense.「これはこの時制の特別用法である」と言っているのにも関わらず。つまりこれは現在完了の例外的用法であって直前の過去なのです。

当然ながら、こういった英文法の要素を知っていて、かつ、そういった表現を実際に聞き、使ったことがあって初めて、英語を学ぶ人にその本質を教えることができるようになります。

冒頭で述べた多くの英語教育業関係者が、実務経験と英文法知識があまりない状態で、英語、英会話、英検指導を商っていることに私は寒気を覚えます。

だから、私は、そういった英語教育業者から一線を画し、私自身が英語を人に教えるべきだ、と今強く確信しているところです。