日本に住む外国人が抱える問題についての一考察:Quoraに投稿された質問に対する回答 | 異文化交差点

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長年、数十カ国を遍歴した経験を生かして、日本人には日本語と英語、米人には英語を使って異文化研修を日本語と英語で提供しています。

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質問: 日本に長く住むつもりで来た外国人は、結局日本になかなか溶け込めず、苦悩して日本人に不信感を持ったまま日本を離れる人が多いと聞きます。これを5年の壁と言うそうですが、これを乗り越えた人たちは何が違うのでしょうか?

 

回答: 2019年7月8日

 

仕事あるいは個人的な事情で日本に来たかどうかによって、この質問に対する回答は異なると思います。

 

仕事で日本に来た外国人は、二言語が操れる日本人を部下あるいは同僚に持つお陰で、日常的に彼らの母語を話しながら仕事をしていますので、あまり日本文化に影響を受けず、残念ながら日本の固有事情をほとんど知らずに帰国するのが実情です。だから、日本に対する肯定的な、否定的な思いはどちらかというと少ないでしょう。

 

主に問題になるのは、恋愛が絡む事情かと思います。

 

私の経験から話しますと、日本に定住している中国人と日本人の夫婦間にかなりの問題が存在しています。何が問題になるかと言えば、中国人は自己主張が強く、日本人はそれが弱いことにあります。

 

特に問題になるのは、中国人の弁証法的対話法です。以下、例を挙げてみます。

 

中国人配偶者(特に女性)は、「はい/いいえ」の二者択一式質問を日本人の配偶者に良く投げかけます。「あなたはこれが好きか嫌いか」などです。白黒をはっきり付けたがります。それが、「あなたは私が好きなの、嫌いなの、どっちなの?」などと言われる日本人配偶者は、返答に窮します。それが嵩じると、夫婦間に亀裂が生じます。

 

約15年前に、某市の国際友好協会の招きで、その市に住んでいた外国人に対して、異文化対話に関する講演を実施したことがあります。約50名の参加者中、20名強が中国人女性で、彼らの夫は日本人でした。

 

前記したことを事例として話を始めたら、中国人参加者が一様に首を縦に振って、私の話を熱心に聞き始めました。そして一人の中国人女性から質問を受けました。

「そのどこがいけないんですか」

もう一人の中国人はその後にこんな質問をしました。

「日本人はあいまいではっきりしたことを言わないから、二者択一式の質問を頻繁にしなければならない。なんで日本人は、言いたいことを言わないの。これって失礼じゃないんですか」

別の中国人女性は言いました。

「二者択一式の質問を私の夫にするとすぐに話題を変えて逃げる。とっても卑怯です」

その他の中国人は、「そうだ、そうだ」と賑やかに賛同していました。

 

私は、「待ってました」とばかり、日本人と中国人の対話文化の違いについて説明しました。

 

「日本人は、本音を言葉で語ることをしたがらない。そして自己主張が弱い。一方、中国人は、本音を言葉で明示したがるし、自己主張が強い。そういった文化の違いが日本と中国の間に存在する。日本人は二者択一式質問に慣れていないので、どうやって返事をしたら良いか分からず、無言になる場合が多いし、それを中国人が『逃げている』と誤解しがち。日本人は、そういった中国人の語り掛けに対して、『なんて強情でわがままなんだ』と誤解しがち」

 

そうすると中国人がすぐに質問しました。

(こういった質問をすることも、中国人の文化的特徴の一つです。私はこれに慣れていますし、こういった質問は嬉しいのです)

「文化的な違いがあるのは分かった。でも、なぜ日本人は自己主張しないの。そうしてくれないと、私が作った料理が美味しいのか、好きなのかが分からない。主人に喜んで貰いたいのに。私は、本当に悔しいんです」

 

この質問に私は深く同意しました。そして言いました。

「日本人も自己主張します。それは話し方に工夫を加えることです。好きか嫌いかの二者択一式質問よりも、『この料理どう?』、と優しく聞いてみて下さい。二者択一式の質問は日本人にとって脅威なのです。そして、『言葉で気持ちを表して欲しい』、と旦那さんに説明することです。日本人は否定的なことを言葉で説明する文化的習慣がありませんので、たとえ美味しくなくても、日本人の夫が食べてくれている限り、それには問題はないことを意味しているし、日本人に聞けば『美味しい』と言ってくれます。そこで『嬉しい』と言えば、味は心理的に影響を受けるので、夫は本当に美味しく感じ始めるものなのです。その時笑顔を忘れないように」

 

すると、「主人が私の料理を食べないとき、それは味がまずいからですか?」と質問を続けました。

 

「その時は、二者択一式の質問よりも、『あなたどこか気分でも悪いの?食べないから心配』などと聞いてあげてみて下さい。そういった相手を思いやった言葉は、日本人に良い心理的影響を与えます。否定的な言葉を言う習慣のない日本人は、たぶん、味がまずいとか、この味は俺に合わない、とか言いたがりません。あなたを愛している旦那さんは、どこかの料理店にあなたを連れて行って、彼が好きな味の料理をあなたに食べて貰うことがあり得ます。そんな時、『あなたはこういった味が好きなのね』と言えば、旦那さんがほほ笑むでしょう。そういった間接的な意思伝達を日本人は好みます」

 

すると思い当たったことがあったらしく、「あっ、そんなことが何回かあった!」と叫んでいました。

 

この講演は約90分続き、質問が多く、終わった時、数人の中国人女性が私のところに来て、「大変ためになった」、「旦那の気持ちが分かったような気がする」、「日本人って可愛い」、「日本人は本当に繊細なんですね」などと感想を述べていました。

私は、今も在日外国人のための「異文化対話」に関する講演や研修を提供しています。