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もし、文字そのものが意志をもっていたとしたら、どうしますか。
中島敦の小説に「文字禍」がある。
二千年以上昔のアッシリアでのお話である。
博士が図書館にこもって文字の霊について研究し、文字をじっと注視してていると、あるとき文字が解体して無意味な線の交錯としか見えなくなってくる。
研究の末、「文字ノ害タル、人間ノ頭脳ヲ犯シ、精神ヲ痲痺セシムルニ至ッテ、スナワチ極マル。」との結論を得る。
文字の霊の呪いか、覚えた人間は、文字の薄被をかぶった歓びの影と智慧の影しか見えなくなっている。
人々は、もはや、書きとめておかなければ、何一つ憶えることが出来ない。
この発見を大王に報告した博士は謹慎を命じられてしまい、ついには、大地震の時に、おびただしい書籍(粘土板)に埋もれて圧死してしまう。
古代中国の歴史小説を書かれている宮城谷昌光さんは、一時期全く小説が書けなくなった時期があったそうだ。
彼は小説のために金文(青銅器に書かれた文字)までも読み、文章に適切な文字を選択し、表現するために悩んだ末のことらしい。
PCや携帯で文章を書いていると、以外と(ホラやった:意外)よく変換の間違えが起こる。
そのままメールを送信して恥ずかしい思いをすることもシバシバである。
特に、Windows 8になってから、予測変換などしてくれるようになったため、最悪である。
あまりの酷さに、腹を立てて予測変換をoffにした。
かなり以前に上司から年度末の経費の精算を催促するメールで、「経費を生産」とあって一堂大笑いということもあった。
この辺の笑い話は、枚挙に暇が無いであろう。
他人の書いた文章でもつい気になって、よけいなことを言ってしまう。
大量の蔵書に囲まれて生活している身としては、文字禍に遭って圧死しないよう注意しないといけない。
落語家の柳屋小さん師匠にならって、重箱の隅をつつかないように、うな重もどんぶりを使うようにしたほうがいいかもしれない。
さて、次回は「貴婦人と一角獣:ネコのいない世界」を予定しています。
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「文字禍」中島敦著:「山月記・李陵」岩波文庫に収録:Web上の「青空文庫」でも公開されている。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000119/card622.html
写真は、ロゼッタ・ストーン、大英博物館蔵
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